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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第五節 「交錯する想い 友よ知れ 命はそこにある」
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~帰宅 通知 嵐の前の静けさ~

 初めての二人でお買い物(デート)はこうして終わりを迎え。

 二人は無事に家路に就く事となった。


 驚きの連続ではあったが、過ぎ去ってしまえば微笑ましい事ばかりで。

 帰り道では満足そうなちゃなの横で同じ様な笑みを浮かべて歩く勇の姿が。


 どうやら充分楽しむ事が出来た様だ。

 いつも通う場所でも、普段一緒ではない人と買い物をすれば何でも新鮮に感じられて。

 おまけに色んな発見や経験も出来たから。

 命力や体力について考えていた事など、もはや記憶の彼方である。

 

 ちゃなも当然、いい買い物が出来て嬉しそう。

 

 買ったばかりの鞄に食材を詰め込んで。

 重いけど、そうしたかったから苦ではない。

 替えの服もいつ着ようかなとウキウキしていて。

 例え同じデザインでも、気に入っているのだからそれだけで充分だ。

 



 傾いた太陽がなお強い光を降ろす中、二人が揃って道を行く。

 他愛も無い話を交わし、笑い合いながら。


 それが本当に仲が良さそうにも見えていて。




 そんな二人の後姿(シルエット)は、知らぬ者に恋人とも兄妹とも思わせるほど様になっていた。






◇◇◇






 買い物を楽しんだ今日この日も、夜まで何事も無く時が過ぎ。

 勇達誰しもが「今日はこのまま終わるのだろう」と思っていたものだ。


 だがその想いも儚く消え去る事となる。

 かの者から凶報が届けられる事によって。






 勇が寝る支度を整え、床に就こうと自室へと向けて階段を上がっていく。


 明日の朝には命力の使い方を色々と実践してみようと息巻いていて。

 寝る時間もいつもよりほんの少し早いが、その分早く起きられるので問題無し。

 気分はプレゼントを貰った子供の様にウキウキだ。


 それも束の間の事。

 勇が部屋に辿り着いた途端、思わず視線が何かに引かれる。


 それは机の上に置かれたスマートフォン。

 備えられたランプが「ピカ、ピカ」と光を放って存在感を示していたのだ。


「あれ、なんだ?」


 断続的に光を放つのは電話の着信があったという事を示すもの。

 メッセージでもメールでないとすればつまり―――


 そんな不安が過る中、素早くスマートフォンを手に取り画面を開く。




 すると案の定、そこには『着信:福留さん』という文字が浮かび上がっていて。




「もしかして……」


 当然、忙しいであろう福留が用も無く電話してくるとは思えない。

 しかも深夜間も無いこの時間に。


 もしかしたら火急の用かもしれない。

 そんな想いが即座に脳裏を駆け抜け、スマートフォンに伸ばす指を素早く刻ませる。

 そしてすぐさまスマートフォンを耳に充てれば―――


 一コールすら刻ませる間も無く、スピーカーから福留の声が。


『もしもし、こんばんは』


「あ、こ、こんばんわ……」


 しかし予想外にも、聴こえてきた声はいつもの様な穏やかさを伴うもので。

 途端に勇を包んでいた焦燥感が「スゥー」っと引いていく。


 福留の声には冷静さを呼ぶ効果でもあるのだろうか。


 でもそれは福留の意図通り。

 勇が焦っているであろう事を察しての事に過ぎない。


 これから伝える事を冷静に聴いて欲しかったから。


『夜分遅くなってしまい申し訳ありません。 早速ですが、お二人にお仕事の依頼です』


 その二言は貯める事も無く、躊躇う事も無く。

 まるで流れる様に自然な語りで解き放たれ。


 それが勇の焦りを打ち消しながらも、代わりの緊張感を多大にもたらす事となる。


 途端、勇の脳裏に〝遂に来た!〟という想いが「ビリリ」とした電気の様に駆け巡り。

 突如とした来たるべき戦いの訪れに「ゴクリ」と唾を飲む。


『明朝、八時くらいにお宅へ伺いますので、戦いの準備をしておいて頂けますか?』


「わかりました。 田中さんにもそう伝えておきます」


 冷静になれたお陰か、この時勇には思考する余裕が僅かに生まれていた。

 言われた事の本質を理解出来る程には。


 福留の言う「戦いの準備」とは決して荷物を整えるという事では無い。

 それはすなわち「心を整える」という事だ。 


 物事は何でも、直前に伝えられるのと前日に伝えられるのとで心の持ち様がガラリと変わる。

 前日の内に伝えられれば、睡眠を挟む事で思考がその物事に順応してくれるからである。

 

 ちゃなはもう就寝済みであるが、事が事なだけに悠長にも言ってはいられない。

 二人がこれから課せられるのは決して楽しい遠足などでは無いのだから。


 心が整わないまま死闘に赴いて死ぬくらいならば、今すぐ叩き起こして生き延びた方がずっと優しい。


『よろしくお願いいたします。 それと、昨日勇君が言っていた()()()ですが、許可が下りましたので早速実行に移しますね。 では―――』


 それだけを簡潔に伝え、早々に通話が途切れる。

 詳細を伝えないのは今話すべきではないからなのだろう。

 剣聖とも福留とも話を交わし続けた事でそう理解出来る様になった今、不思議と疑問は浮かばない。


 ただただ、早々に訪れた戦いの狼煙に想いを馳せるのみ。


 スマートフォンを机の上に置き、心を強く滾らせる。

 強く拳を握り締め、命力を昂らせながら。


 勇の心はもう既に準備万端だ。


「明日全ての問題が解決するはず。 なら俺はやれる事をやるだけだ……!」


 明日の事はまだ外の夜天の様に暗くて見通せない。


 それでも臆しはしない。

 何が何でも生き残る為に。

 明日を過ぎた後から始まる日常を取り戻す為に。 


 勇は一度たりとも負ける訳にはいかないのだ。






 こうして勇は間も無く部屋を出た。

 ちゃなを起こし、両親の居るリビングへと連れて。


 突如訪れた戦いの報せを伝える為に。


 当初は戸惑いを見せたちゃなも、もう覚悟も出来ていたからすぐに落ち着いていて。

 両親も不安を隠せないが、勇の強い意思を前にもはや何も言える事は無い。


 でも勇は両親の不安を十分理解していたから。

 二人の想いをこの数日間で何度も受けて感謝しているから。




「俺は死なないよ、()を守りたいからさ」




 だから面と向かってこう言う事が出来る。


 これは決して自信の表れでは無い。

 自惚れでも無い。


 ちゃなや両親が望む日常も失わない為に。

 自身と共に歩む明日を願うが為に。

 

 その強い意思は両親にも伝わり、静かに頷かせる。

 彼等も勇の事を信じているから、生き残る事を願うのだ。


 その手で出来る事が無くても、願うだけで力となれるならば。




 その願いを身に受けて、勇とちゃなは己の力を存分に奮うだろう。

 今を生きる為に、そして明日を創る為に。


 それは今、この二人にしか出来ない事なのだから。




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