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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第五節 「交錯する想い 友よ知れ 命はそこにある」
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~切望 絶望 失意再び~

 今回納車されたのは父親がずっと欲して止まなかった車。

 その名も【アルファーダ】。

 国内最大級の国産車ブランド【トトダ】が世に誇る最上級大型車だ。


 一般乗用車としては最大級の最大八人乗りと、家族持ちに最適という代物。

 高級感溢れる外装は以前使っていた車とは段違いに輝いて見える。

 そんなこの車のキャッチコピーは「最高級の車内空間を家庭へ」。

 その名に恥じぬ膨大な各種装備が車外だけに限らず、車内にもふんだんに盛り込まれているのだ。

 だがその反面、当然の事ながら相当に値が張る。

 それこそ、勇が貰った報酬金額でも一括払いが出来ない程に。

 それ故に普通の家庭では簡単には手を出そうとも出せないという一品なのである。


 勇の父親は大の車好きだ。

 彼の書斎には好きな車が載った雑誌が沢山置かれており、幾つかミニカーまで添えられている程。

 暇な時はそんな雑誌を手に取って読む事が趣味の一つで。


 そんな彼がずっと欲してやまなかったのがこの【アルファーダ】に他ならない。


 買おうと悩んだ事もあるのだろう。

 財布と相談した事などしょっちゅうだ。

 でも手が出せなかった。

 給料的にも、生活的にも。


 地価の高い東京の一角に一軒家を構え、そこで家族を養う為には今一つ手が届かず。

 渋々諦めて、デザインが似ているだけの型落ちミニバン車を買う事で落ち着いたという経緯がある程だ。


 でも今、こうして夢が叶おうとしている。

 奇しくも息子達の活躍によって。

 親として、車好きとしてこんなに嬉しい事があるだろうか。


 だからこそ、こうして浮かれずにはいられなかったのである。


「こちらをどうぞ。 車両証明等の書類は助手席のシート上に置いてますので確認願います」


 続いて男が差し出したのは車のキー。

 しかし普通の車とは違い、鍵らしい物は付いていない。

 電波認識始動仕様(キーレスエントリー)なのだろう。


「福留先生から言伝を頂いております。 『ご要望通りの品を用意する運びとなりましたが、予算上最低グレードでの新古車となってしまいました。 申し訳ありません』との事です」


「いやいや、ありがとうございますと是非お伝えください!!」


 そうして見せた父親の大きなお辞儀は素直な気持ちの表れだ。


 さすがの男もそんな姿を前には僅かな困惑を見せていて。

 とはいえその返礼はと言えば、その事を悟らせない程にブレない丁寧なものであったが。




 ―――という訳で車の受け渡しはこれで終わりを迎え。

 黒のスーツの男を迎え入れた随伴車がその場から走り去っていく。




 そして残されたのは【アルファーダ(あこがれ)】。

 それを前にした父親の喜びは既に最高潮だ。


「おお、このデザイン堪らんなぁ……はぁ」


 そんなぼやきを呟きながら外装を舐め回す様に眺め見ていて。

 惚けてうっとりした顔からは時折イヤラシイ笑みが覗く。

 公道に置かれたままでも関係無く、誰が見ていようがお構いなく。

 その姿はまるで欲しかった玩具を買ってもらった子供の様だ。


 そんな最中、勇とちゃなもが姿を現す。

 やはり新車とあって二人も興味があったのだろう。


 しかしたちまち現れた巨体を前に揃って驚きを隠せない。


「でけぇ……これ、何人乗れるんだろ」


 何せ以前の車よりも一回り大きく感じさせるサイズで。

 この仕様なら剣聖が乗っても多少は余裕があるかもしれないと思える程に。


「これ凄いぞォ! 新古車だから最新モデルでしかもハイブリッドタイプだ! 中もきっと凄いぞ、ほら見てみろぉ!!」


 既に仕様も下調べ済みなのだろう。

 というよりもきっと以前から知っていたからか。


 後部座席の扉を開かせようとノブに触れれば、たちまち扉が自動で開き始めていて。

 おまけに乗り込み用の補助足場(サイドステップ)までが伸びる始末だ。

 こんな機能を知るはずも無い勇達が「うわっ」と驚くのは無理も無く。


 そこから内部を覗き込んでみれば、またしても「おお~!」などと声が漏れて止まらない。


「おー、後部座席にテレビあるじゃん!」


「あるぞー! スピーカーも高級仕様だ。 ホットシートもあるし、スマホ充電だって出来ちゃうぞ!」


 外装はパールホワイトと輝く様な純白だが、内装は木目調を意識した和風テイスト。

 けれどそれが更なる高級感を醸し出し、勇達をふんだんに喜ばせる。

 それでも見た目だけの性能で、隠れた機能はいざ乗って見なければわからないだろう。


 まさに至れり尽くせり。

 これで本当に最低グレードなのかと思わせる程に。

 車に興味の無い勇やちゃなでも思わず喜んでしまう程に。

 父親もこれには堪らずほっこりである。

 

 ちなみに福留がこんな車をポンと用意したのには意図もある。

 いざという時に勇達の足として役立ってもらいたいという魂胆が。

 

 でもそれは父親も聞いていて、それでいて些細な事だったのだろう。

 憧れの一品を手に入れたという喜びを前にすれば、それだけでもう満足なのだから。




「それで親父、これ駐車場に入るの?」




 だがそんな喜びを、勇の何気ない一言が打ち砕く。


 たちまち父親の体がガチリと固まり。

 この上無い緊張感と焦りが全身をくまなく駆け巡る。

 「はうっ!?」と呼吸が止まってしまう程の強い動揺もついでに加えて。


「前より一回り大きいけど、擦るどころか入らないんじゃない?」


「そ、そんな事はないぞぉ!!」


 けれど勇は知っている。

 ついでにちゃなも知っている。

 その一言が根拠の無い強がりだって事を。


 そう言い放った父親の口元が窄んで尖っていたので。


 そしてやはり心配だったのだろう。

 空かさず自分の体を使って車と駐車場の幅を測り始めていて。


 そんな様子を、二人が車内から眺め観る。

 その時見えた姿がどうにも微笑ましかった様で、揃って笑いが止まらない。


 とはいえ、駐車場に収まるという事はどうやら間違いなさそうだ。

 「ふぅ」と冷や汗を拭う父親の口元にも笑みが浮かんでいて。

 しまいには「ウンウン」と頷き、意気込み充分と言わんばかりに手を腰に当てていたのだから。




 けれど勇は知っている。


 問題はそれだけではないんだって事を。

 



「勇、これから駐車してみるからちょっと後ろ見ておいてくれないか」


「え? ああ、いいよ」


 しかし勇の心配になど気付く訳も無く。

 どうやら当人、かなりやる気満々のご様子。


 ちゃなを車内に残し、勇が駐車場内へと先回りして車が来るのを待ち。

 そんな中でとうとう車が敷地内へとゆっくりゆっくりとバックで迫り行く。


 本当にゆっくりと、「ガクンガクン」と刻む様にして。




 これが勇の心配している問題点という訳だ。


 正直な所、父親は車庫入れがあまり上手くない。

 一応本人も理解している事ではあるが。


 運転の腕前は普通なのだが、車庫入れとなれば話は別で。

 何故かこの様にして途端に操作が荒くなる。

 その荒さはと言えば、少し小さいはずの前の車でも駐車場内でぶつけた()()がある程。

 外出では基本前進駐車、事故を起こした事は幸いナシ。

 それ程までに恐れるべき行為という訳なのである。




 おまけに今回は新車で乗り馴れていない。

 更に緊張が助長し、こんな目立つまでの動きになってしまうのだろう。


「オーライ、オーライ―――」


 勇の案内の下、徐々に車体が駐車場へとその身を埋めていく。

 ただし何度も入っては出てを繰り返しながら。

 なかなか入りそうもない雰囲気に勇の不安は募るばかりだ。


 ただ駐車場と車両を真っ直ぐに揃えればいいだけなのだが。


「お、いけそう……」


 とはいえそこは年季の入った腕前のお陰か。

 ようやく駐車場の壁と車体が平行になり始めていて。

 何も知らないちゃなが車内から丸い目を向ける中、ようやく車体の半分が場内へ。


「おお、入る入る……!!」


 どうやら父親の見立ては間違っていなかった様だ。

 助手席側だけの空間を残し、ちゃんと入っている。

 後はこのままハンドルを切らずに下がり切れば問題無し。

 奥行きは余裕があるので勇の心配は要らない。


 後は勇の指示に従って、時が訪れたと同時にブレーキを掛ければそれで終わりだ。


 後退(バック)モニターの警告音が鳴り響き多大な緊張が走る中で。

 皆の期待を一身に受けながら。


 遂に運命の時が訪れる。

 





―――ゾリゾリッ!!






「「「あっ」」」


 その瞬間誰しもが固まり、意識が現実と剥離する。

 余りにもショッキングな惨劇を前にして。

 何とも言えぬ空気を醸し出しながら。




 ただ真っ直ぐ入れるだけなのにどうして擦るのだろうか。


 そんな疑問が勇の脳裏に駆け巡っていたのはもはや言うまでもないだろう。




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