表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第五節 「交錯する想い 友よ知れ 命はそこにある」
120/426

~要人 報酬 生きて貰う為に~

 契約を交わした場合、勇とちゃなの扱いは国賓クラス。

 ポッと飛び出した言葉を前に、勇達はただただ唖然とするばかりだ。


 意味を知る者も知らない者も関係無く。


「国賓って……何?」


「要するに、海外のお偉いさんを迎えるのと同等って事だよ。 大統領とか……」


「ええ~!?」


 これには勇もちゃなもびっくりである。

 何せ言うに事欠いて要人扱いなのだ。

 気軽に福留の話を受け入れた訳だが、まさかこんな結果になるとは思っても見なかった様で。

 驚きの余り、二人揃って顔が引きつって堪らない。


「その通りです。 ですので、お二人の御身に関しては御両親が最も懸念する部分ではあると思いますが、このような形での対応でどうか納得して頂きたい」


 そしてその待遇にはもはや両親ですらも言葉が出ない。

 当然だろう、読んでいた書類にはこうも連ねられていたのだから。


 『日本のみならず世界において、藤咲 勇様と田中 茶奈様は当問題を解決出来るであろう最重要人物である』と。


 つい最近まで一般的な生活を営んで来た二人の息子が突如として最重要人物扱い。

 普通の事なら「出世したなぁ」と喜ぶ所なのだろうが。

 飛び抜けたスケールは現実すら忘れさせた様だ。


「政府としましても、今回の事件は人類史上類を見ない非常事態という認識です。 それ故に我々も未だ解決策を模索中でして。 だからこそ、その解決の糸口とも言えるお二人には大きな期待が掛かっていると言っても過言では無いのです」


 そう語る福留の表情に真剣さが滲む。

 それ程までに置かれた状況が切迫しているという事なのだろう。

 世間の穏やかさはきっとその事を知らないから。


 そして勇達もその事に気付かされたからこそ。

 最初は抵抗感を露わにしてた両親も、事の重大さを前に否定の色は消えていて。

 

「……わかりました。 その話に関しては少し後で詳しく聞かせて頂けますか?」


「もちろんです」


「勇達も今の話で納得出来たか?」


「うん。 俺はそれで構わないよ」


「私も……」


 待遇としては申し分どころか、これ以上無いと言える。

 元々そこまで求めていなかった勇達としても、ここまでして貰えればもう十分な訳で。


 両親も二人の肯定を前に頷き、契約書類へと手を付け始める。

 保護者からの了承印を貰う事で契約が成されるからだ。


 これは口約束ではなく正式な契約。

 未成年である勇とちゃなには当然、保護者である両親の承諾が必要なのだから。


 間も無く、契約書類にサインと朱印が刻まれ。

 それが両親の手からそっと福留へと差し出される。


「ありがとうございます。 ではサインを頂きましたので、次にこちらをお渡しいたします」


 契約書類を福留に渡した時点で契約完了ということなのだろう。


 間も無く図った様に福留が懐に手を伸ばし。

 上着の内ポケットから何かを取り出すと、勇とちゃなの前へそっと添える。


 そのまま「スッ」と差し出されたのは――― 一枚のカードと判子、そして通帳であった。


「これは?」


「こちらは契約して頂いたお二人への返礼(プレゼント)の様な物ですよ。 非公式とはいえ、お二人は政府の要請に従事する事となりますので、それにあたって雇用形態が発生します。 こちらはその際の給与支払い用口座という訳ですね」


「給与……」


 差し出された通帳には大きな『日本(ひのもと)銀行』の文字が。

 日本の国庫とも言える、国内最大規模の銀行だ。


「渋谷の件と、通訳の件、そしてウィガテの件を合わせまして、僅かですが報酬を用意させて頂きました。 是非ご査収ください」


 目の前に差し出されたモノはきっとただの通帳では無いのだろう。

 何故なら一般の物とは思えない、一切のデザインを省い(オミットし)た真っ黒な装いだったのだから。

 それが【大地の楔】にも負けない畏怖を勇達に呼び込んでならない。


 しかし曲がりなりにもただの通帳で、命力も必要としない。

 意を決して勇が自分の分の通帳を手に取り、恐る恐る表紙を開く。


 するとそこにはしっかりと『藤咲 勇』の名前が書かれていて。

 恐らく一緒に添えられた判子の物であろう印がしっかりと刻まれている。

 いつの間に造ったのかと思われる程の見事な出来栄えの銀行印だ。


 その先が肝心の預金残高記載ページ。

 満を辞して指を充て、そっと開いてみれば―――


 刻まれていた数字を前に、勇が途端にその目を丸くする。




「え、ちょ……これ、ゼ、ゼロが六つついてるんだけど……!?」




 その反応にはちゃなや両親も「は?」と、たちまち動揺を見せていて。

 空かさずその首を開かれた通帳へと伸ばし。


 そして間も無く、余りにも想定外過ぎる金額を前にして閉口する事となる。

 

 額の詳細は敢えて伏せておこう。

 強いて言うなら、サラリーマンの平均年収よりも僅かに高い程度の金額とだけ。


「えぇ、本当はもう一個付けたかったのですが。 学生という事もありますし、正式な契約ではなかったのでそれくらいが妥当かなと」


「ええー……」


 しかもこれで加減ありなのである。

 これには勇の両親共々唸りを上げて止まらない。


 なにせ二人にはその金額の重さがよくわかる訳で。

 自分達の年収が一週間で追い越されたという事実にはどうにも複雑な心境のご様子。

 

 そんな勇達の反応を前にした福留の笑顔はまるで輝いている様だ。


「魔者相手ですと数億規模の戦力を駆使しても勝てませんからねぇ。 それを考えると少ないものです。 ちなみにこれは正式報酬の額ではありません。 正式報酬となれば額は大きく変わりますから期待して頂いても構いませんよ?」


 たちまちその場に「ははは」という福留の高笑いが小さく響く。

 でも勇達はと言えば、もはや声何一つ上げられないまま。

 

 「数億」という単位は一般庶民である勇達にとっては夢の金額だ。

 こうして軽く挙げられても現実として実感が湧かないのは当然な訳で。


「もちろんそれは個人報酬です。 また、非公式な報酬ですので所得税徴収などの対象にはなりません。 その代わり利子なども付きませんけどねぇ」


 それを聞いたちゃなが、ふと自身に渡された通帳の中を覗き見る。

 しかし間も無く「パタン」と閉じてそっと置き直していて。


 そんな彼女の顔にはまんまるとしたおめめと、にまにました口元が。

 余程嬉しいのだろう、惚けているのがとてもわかり易い。


「今後は作戦成功次第その通帳に報酬が振り込まれていきますので、都度確認と通帳記入の方お忘れずに……あ、銀行の場所、わかりますか?」


 これ以上何を貰えというのだろうか。

 二人にとってはこれだけでも十分と思える金額な訳で。

 そんな問い掛けにもただただ頷くしか出来ない様子。


 ちなみに二人とも銀行の場所は知らないが、ちゃんと街にはあるので心配無用だ。

 カードもクレジットカードや電子マネー決済用としても使用出来るスグレモノなのだそうな。

 なお、利用上限金額は無しとの事。


 その価値はきっと実際に扱った事のある者にしかわからないだろう。


「報酬に関しては以上ですが、契約に関して少しだけ補足しておきましょう」


 報酬で浮かれていた勇達がふと視線を上げると、そこにはサイン入り書類を鞄へと納める福留の様子が。

 そこに納める事が後戻りの出来ない完全な契約成立を意味する。


 こうして改められたのは、その補足とやらが成立したからこそ伝えられる事だから。


「確かにお二人にはこれから危険な仕事を強いる事となるでしょう。 もしかしたら命の危険に晒される事もあるかもしれません」


 そう語る福留の顔が強張りを生み、勇達に微かな緊張をもたらす。


 もちろんそれは勇達も承知の上の事だ。

 魔剣使いとして、戦士として。

 【大地の楔】を返納した時から覚悟はしていたから。


 そして福留がそれを良しとしていない事もまた同様にして。


「ですが、それ以上に私達日本政府はお二人が無事に生きて帰る事を何よりも強く望んでおります。 ですから例え戦いに負けそうでも、もし危なくなったら逃げてください。 決して無理はしないでください」


 二人が戦士である前にまだ子供だからこそ。

 国が彼等の命を預かるからこそ。


 誰一人として、彼等の死での勝利など望んではいないのだ。




「その為にも自衛隊が居ます。 お二人の活路を開く為に全力で力を貸してくれます。 だからいざという時は彼等に頼ってください。 利用してください。 お互いが生き残る為に」




 それが福留のたっての願い。


 例え魔者に傷を付けられなくとも、勇達を守る為に力を奮う事は出来る。

 いざという時それが出来る様に彼等は鍛えているのだから。


 そんな心強い言葉を前に、勇達は心震わさずにはいられない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ