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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第四節 「慢心 先立つ思い 力の拠り所」
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~好機に踊れ~

 勇とウィガテ王……二人の戦いはまだ始まったばかり。

 左腕を負傷しようとも、勇はまだ諦めてはいない。

 目の前に居る敵が如何にふざけていて間抜けであろうとも。

 ちゃなが地に伏して戦えなくとも。


 その戦意はそう簡単には削がれはしない。 


「お前っ!! 俺より目立つんじゃあないッ!!」


 そんな勇のやる気を奪わんと、ウィガテ王が再びの地団駄を見せつける。

 勇の見せつけた一閃はそれ程までに様になっていたから。


 ウィガテ王の見せかけ剣術とは訳が違う本気の一太刀。

 実直な修練によって得た動作は嘘を付かない。

 紛れも無く勇が培ってきた技術が生きているのだ。


「フウッ……フウッ……!!」


 そしてもう勇に小細工は通用しない。

 どうせ相手の意図など考えてもわかりはしないのだ。

 だから深い事を考えるのは止めた。

 今はただ、目の前に居る敵を倒す為だけに剣を奮うのだと。


ドンッ!!


 勇が激しく大地を蹴り上げ、ウィガテ王の懐へと向けて駆け出した。

 その姿はまるで忍者の如く。

 身を屈ませながら曲線軌道を描いて接近していく。

 その身で刃を隠す様にして。


「んッにゃあ!?」


 それを迎え撃ち、ウィガテ王が右手に掴んだ魔剣を振り下ろす。

 巨腕からの大振りの一撃だ。


 対する勇にはその軌道がハッキリと見えていた。


 それは単調、力任せの。

 技術の欠片も見受けられない素人丸出しの動き。


 見切れていたからこそ、対処も容易い。

 途端ウィガテ王の懐で再び大地を蹴り、鋭角走行軌道(サイドステップ)を刻み―――


バンッ!!


 紙一重―――勇の左身スレスレを斬撃が通り抜けていく。


 ウィガテ王の目だけが勇の姿を追う。

 体の反応が付いていけていないのだ。

 例え認識出来ても体が強靭でも、大きな一撃の後では体勢が伴わないのである。


 その好機を突くかの如く、勇が次なる足跡軌道を大地に刻む。

 サイドステップによって生まれた慣性(勢い)は更なる攻撃へと繋げさせていた。

 咄嗟に右足を踏み込み、跳ねた勢いを止めさせ。

 滑り行く右足を軸足として、途端生まれた回転力をそのまま斬撃へと乗せたのだ。


キュンッ!!


 先程魅せた一太刀にも足る鋭い回転斬りが水平に刻まれる。


 しかしそれはまたしても躱され。

 ウィガテ王の身が離れていく。

 ただただ強引に、力任せに。


 反撃という機会を犠牲にして。


「くおおッ!!」


 その機を逃さない勇ではない。

 回転斬りの勢いすら利用し、斬撃軌道が流れる様に弧を描き続ける。


キュゥゥ―――――ィンッ!!


 軌道が曲がり、大地を裂かんばかりに振り下ろされる回転斬り。

 それが間も無く空を突かんばかりに振り上げられ―――




 ―――回転の勢いに乗った勇がその身を舞わせていた。

 



 背の高いウィガテ王が見上げる程に高く鋭く。

 黒煙包む空に一迅の残光を弧に刻み付けながら、回転力をふんだんに乗せた斬撃が振り下ろされたのだ。


ギャインッ!!


 勢いに勢いを乗せた斬撃はもはや躱す事ならず。

 ウィガテ王が咄嗟に魔剣を構えて防ぐ。


 その力はウィガテ王本人を弾く程に力強い。


「んぎっ!?」


 よろめき、体勢を崩すウィガテ王。

 たちまち襲い来るであろう勇を迎撃せんと魔剣を振り回す。

 それも空だけを斬り裂き無為に消え。


 ふと目前に意識を向ければ―――勇の姿はその場になく。


 勇は距離を置いた先に立っていたのだ。

 それは最初の攻防の時の様な偶然の反撃(ラッキーパンチ)を警戒する為に。

 深追いを避ける事で必要の無い反撃(リスク)を排除したのである。

 ウィガテ王が戦いの素人である事を悟った上での行動だ。


 これこそ勇が統也と試合し続ける事で学んだ駆け引き。 

 例え遊戯だろうと、部活動の一環だろうと。

 本格的な剣術ではなくとも、心得を学ぶ事は出来る。

 勇の中ではそういった戦いの経験が着実に培われていたのだ。


 和泉の様な達人でなくとも、ウィガテ王と戦うにはそれだけの技術で十分だったのである。


「うぐぐ……」


 今の一撃はウィガテ王に強い畏れを与えていた。

 目の前に居るのは和泉の様な()()魔剣使いではない。


 間違いなく自身を倒す事が出来てしまう魔剣使いなのだという事実を認識させたのである。


 だがその事実を前にして、ウィガテ王の口元が「グニリ」と歪み動く。

 そこに浮かんだのは在ろう事か―――牙を覗かせた笑み。


「ファファ……確かにお前は強い。 俺様と比べればちぃーーーとばかし弱いけどなぁ」 


 これはつまり勇を同等と評価したという事なのだろうか。

 強がったつもりなのだろうが、一つ言葉使いを間違えれば虚勢も途端に無為となる。

 そこに気付かない程までにウィガテ王は今、追い詰められているという事なのだろう。


 それでも奇妙な笑みは拭わないまま。


 ウィガテ王の瞳が妖しく輝く。

 誰知れぬ策謀の色を巡らせて。


「だ~が~!!」

「ッ!?」


 途端、ウィガテ王が魔剣をゆるりと持ち上げ、鋭い切っ先を勇へと向ける。

 宙に糸を引きながら妖しく蠢く光を纏わせた刀身を。


「ハッ!? まさかッ!?」


 その魔剣の姿を目撃した時、勇は直感する。

 「コイツはもう【大地の楔】を使いこなしているか!?」と。


 それ程の力の迸り。

 それ程までの妖しさ。

 それだけの自信を見せつけるウィガテ王の笑みが勇に焦りをもたらしたのだ。


「魔剣を得た俺の真の実力に恐れ慄きながら後悔するがいい!!」


 そしてその焦りが勇の判断力を鈍らせた。


 ウィガテ王が何をしようとしているかはわからない。

 それであろうとも今すぐ駆け出せば何もさせはしなかっただろう。




 だがその直感が不幸にも、彼の動きを僅かだけ硬直させてしまったのである。




 その一瞬の隙間に滑り込むかの様に、ウィガテ王が力を解き放つ。

 魔剣に秘められし―――特殊能力を。


「くらえぇい!! 必殺!! 【アースバインド】ゥ!!」


 叫びと共に【大地の楔】が放つ光のモヤが急激に伸び始め。

 幾多もの光の触手となって勇目掛けて飛び掛かった。


 瞬く間に勇の全身を包み込んでしまう程に―――凄まじい速度で。

 



ガクンッ!!




 光の触手が勇の四肢へと至った時、突如として勇の体が動きを止める。

 四肢だけではない。

 全身がまるで石になったかの様に固まってしまったのだ。


「かっ!?」


 「体が動かないっ!?」、そう口から発したつもりだった。


 でも、口が動かない。

 それどころか呼吸すら。

 全身の何もかもが動きを止めたのである。

 筋肉も、鼓動も、血液も。


 唯一意識だけが捕縛される事無く。

 動けない瞳から光を取り込み、目前の光景を認識させていた。


―――このままじゃやられるッ!?―――


 今の勇はいわば無防備状態。

 ちゃなも未だ立ち直れてはいない。


 もし今襲い掛かれれば、待つのは間違い無き―――死。


―――まずい!! マズいッ!!―――


 その予感が焦燥を呼ぶ。

 動く事の出来ない閉塞感が更にそれを増幅し。

 震える事すら許さない呪縛が恐怖を強く強く押し上げた。


―――うわああああああ!?―――


 現実を受け入れられない勇が抵抗虚しく意識を拡散させる。

 身体の全てに、四肢に、指一本一本に。


 それでも叶わない。

 涙を流す事も。

 目を逸らす事も。


 何もかもが……叶わない。




 現実の時は非情にも刻一刻と流れ続ける。

 唯一、来たるべきその刻を待つ事しか……勇に叶えられる事は無かったのだ。 




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