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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
第四節 「慢心 先立つ思い 力の拠り所」
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~思考の早巡~

 先んじて【ウィガテ族】達を見つける事が出来た勇達。

 しかし見つけた魔者達は大音を立ててやってきた勇達に警戒するどころか、戦意一つ感じない体たらく。

 まるで勇達が訪れた事に全く気付いていないと言わんばかりの様子に、拍子抜けすらしてしまう。

 こうもなれば途端に福留のローター作戦も無為に消え。

 遥か彼方から僅かに響く「ヒュンヒュン」という音が逆に虚しさを助長するものだからしょうもない。


 それでも相手は魔者だ。

 油断すれば命取り、それが狙いでないとも限らない。


 勇は気を取り直し、冷静に出方の考察を始めていた。

 例えこんな間抜けを晒す種族でも、考え無しに戦うのは危険なのだから。


「さてどうするか。 このまま突っ込むのはさすがにヤバいよな」


 迂闊に斬り込もうものなら周囲から取り囲まれてしまう可能性も大いにあり得る。

 そうすれば袋叩き、いくら勇でもそうなれば命の保証は出来ない。


 かといって周囲は森。

 逃げ回れる様な場所でも無く、ダッゾ族の時の様に囮を使って一網打尽は厳しいだろう。

 ちゃなの援護の下で正面から迎え撃てれば良いが、茂みの影から回り込まれる事も考えたら危うい。

 彼女が直接狙われれば恐らく対処は不可能だろう。

 それだけは避けねばならない。


 意外な有効手段の乏しさに、勇が頭を抱えて悩みを見せる。

 彼自身も言う程こういった戦いに馴れてる訳も無く。

 戦術的思考は素人も同然なのだから、悩むのも仕方ない事だろう。


 するとそんな時、ふとちゃなが再び勇の袖を引いた。




「あそこに撃ちこみましょうか?」




 突然の提案はたちまち勇の思考を凍り付かせる。

 彼女に振り向こうとさせる首を「ギギギ」と軋ませてならない。


―――田中さん、意外とエグいこと考えるなぁ―――


 それ程までの大胆かつ過激な発言にもはや苦笑しか浮かばず。


 だが、今の所それが最善とも言える手段だ。

 中心地へとあの光球を撃ち込めばその殆どが焼き尽くせるだろう。

 例え炎から逃れられたとしても、勇が追い込めばいい。


 先手必勝。

 その威力が高ければ高いほど有効な手段だ。


 その炎でもしかしたら【大地の楔】も壊れてしまうのではないか、そんな恐れもあっただろう。

 しかし今の勇にそんな心配を考慮する余裕は無い。

 彼にとっては魔剣よりも人の命を奪った魔者の方が重要なのだから。


 人の命を簡単に奪える相手を野放しにする訳にはいかない。

 そう思わせる正義感が、ちゃなへの頷きをもたらしていた。


 ちゃなも小さく頷き返し。

 片手に掴んでいたドゥルムエーヴェをそっと両手で掴み直し、丸々とした瞳に戦意を灯す。

 

「じゃあ、俺がもう少し広場に近づいて、準備出来たら左手を上げるから。 そうしたら君のタイミングで撃ちこんで欲しい」


「はいっ」


「さっき言ったけど、この間みたいに強くなくてもいいから。 よろしくね」


 そう打ち合わせ、勇が単身で茂みを進み始める。

 魔者達に見つからないよう、ゆっくり、ゆっくりと。

 それでも深い茂みはあっという間に勇の姿を覆い尽くし。

 気付けば気配すらも消し去っていて。


 途端、森の静けさがちゃなを包み込む。

 孤独と、戦いへの畏れを増幅させる虚無の静けさが。

 怖くない訳は無かった。

 失敗を恐れない訳が無かった。


 でも、ちゃなは不思議と落ち着いていた。


 勇が彼女の前に確かに存在()る。

 何があっても彼が助けてくれる……そう信じていたから。

 そうしてくれるって程にわかりきった存在(ひと)だから、信じる事が出来る。




 だから怖い事なんて……何も無い。




 そしてとうとう、茂みの中から勇の手が上がる。

 彼女の一手を望む意思を乗せて。


 目標は未だ勇達に気付かぬ【ウィガテ族】達の集落中心地点。

 そこへと向け、ちゃなが【ドゥルムエーヴェ】の長い柄を水平に構え、両手に構える。


 両手を大きく開いて柄を掴み、その中間部を下腹部に押し当て。

 胸を張り上げて支えながら大きな鉤爪部の先端を目標地点へと向けるその姿。

 瞳を顔と共に鋭く振り向かせて集落を睨みつける様子は力強ささえ感じさせる。


 自然と、その形が出来上がっていた。

 彼女が元々イメージしていたのか、それとも魔剣が導いたのかはわからない。


 渋谷で撃ち放った光球は反動で彼女の体を弾く程だった。

 その反省を生かし、体を横に構える事で踏ん張りを利かせる様にしたのだろう。

 そう持つ事が最も理想的なのだと感じられたのも大きい。


 魔剣から伝わる力が彼女にそう察させたのである。


 意識を魔剣に向け、イメージを膨らませる。

 形は以前と同等、広場を焼き尽くせる程の威力の光球。


 すると突如として彼女の体が光を帯び始めた。


 これは命力の光。

 彼女の底知れぬ力がその身から溢れ出したのだ。

 その濃度はハッキリと視認出来る程に強く、勇のそれとは比べ物にならない。

 光は魔剣へと伝わっていき、彼女のイメージを具現化し始めていた。


 だがその具現速度は明らかに以前よりも―――ずっと速い。


「ああっ!?」


 【アメロプテ】よりも強い力を持つ【ドゥルムエーヴェ】が故か。

 体感させる程に、命力が体の中を激しく駆け巡っていたのだ。

 でもそれは嫌な感覚という訳では無い。

 「こう出来てしまうのだ」と、そう魔剣に教えられたかの様に掴む手に力が籠る。


 より強く、より速く、その力を伝達させる為に。


 それでも、こう感じさせたのはものの一秒~二秒間。




 たったそれだけの間で―――既に巨大な光球が彼女の前に顕現していた。




 光球から放たれた熱が周囲の草木を焼き。

 無数の火の粉が飛び散って跡を生む。

 気付けば一瞬にしてちゃなを包んでいた茂みが燃やし尽くされ、その姿をありありと晒した。


 突如とした力の奔流の放出。

 消滅の光とも言うべき光球の出現。

 それらがたちまち【ウィガテ族】達に存在を悟らせて。

 恐ろしいまでの破壊の象徴を前に、誰しもが恐れ戦く様を見せつける。


 撃ち放とうとしていたちゃな当人までもが。


 【アメロプテ】とは全く異なる存在感が彼女に撃ち放つ事を躊躇わせたのだ。

 そこまでに圧倒する程の力が駆け巡り、光球の中に渦巻いていたのだから。


「田中さんッ!!」


 その間が【ウィガテ族】に隙を与え、一人がチャンスと言わんばかりに勇達へ向けて一歩を踏み出させていた。

 それに気付いた勇が彼女を呼んだのである。


 その一声がたちまちちゃなの意思を呼び戻し。

 我へ返った意識が今、心の引き金を思うがままに引き絞る。




「ウゥッ!! ぼぉぉぉーーーーーーんッッッ!!!!!」




 そして遂に―――光球が魔剣から解き放たれた。




 広場へと向けて撃ち放たれた光球の力は以前を遥かに凌駕する。

 強く激しく、何より―――速く。


 余りの速度ゆえに、光球が潰れんばかりの楕円形へと変形し。

 進路上に在ったあらゆる樹の幹を抉る様に()()させながら、勢い収まる事無く突き抜けていく。


 誰しもがその圧倒的な速度を前に何考える事すら許すはずも無い。

 光球は一瞬にして広場へと到達し―――

 



ドッギャォォォーーーーーーンッッッ!!!




 凄まじい光を放つと共に、着弾地点に強烈な爆発をもたらしたのだった。




 その圧倒的破壊力は以前と同等かそれ以上。

 広場が一瞬にして業火に包まれ焼き尽くす。

 周囲が燃えやすい木々で覆われていた事もあり、目に見える範囲全てが炎に覆われたかのよう。


 その様はまさに紅蓮の世界。

 赤黒い炎と煙を巻き上げ、広場周辺の木々すら飛び火して燃え上がらせ。

 太陽の光と自然溢れる緑の光景を一瞬にして地獄絵図へと変貌させたのである。


 魔者達は揃って爆風によって吹き飛ばされていた。

 ダッゾ族の時と同じ様に。


 強力過ぎる爆発故に体を吹き飛ばされる者。

 炎に包まれて焼かれて落ちる者。

 飛び火によって燃えながら逃げ惑う者。

 その姿にもはや勇達への敵意を抱く程に余裕がある者など居はしない。

 居ても精々、慌てふためいた挙句に森の中へと一目散に逃げていく者ばかりだ。


 勇達目掛けて走っていた者もまた例外では無く。

 運良く爆発から逃れられていたが、その姿は攻めて来るというより逃げ惑うかのよう。


 しかしそれが運の切れ目か、逃げ行く先に待ち構えていたのは―――勇。


 踵を返す間すら与えられる事無く、一撃の名の下に斬り捨てられたのだった。


 勇の斬撃もちゃなに負けず、以前よりも更にその威力を増していたのだ。

 裂いた肉の抵抗を感じさせず、まだまだ戦えるという余裕すら呼び込む程に。


「うっ!? そうだ、田中さんッ!?」


 そんな時、咄嗟に勇がとある事を思い出し、思わずその身を振り返らせる。

 これ程の光球を撃ち出したのだ、先日の様にまたしても倒れかねない。

 未だ安全が確保出来ていない現状で気を失う事がどれだけ危険か、言うまでもないのだから。




 だが……そんな勇の目前には、「ケロっ」とした顔で首を傾げるちゃなの姿が。




 その様子は「なんで呼ばれたんだろう?」とでも言いたげな。

 倒れるどころか余裕そのものでゆっくり歩いてくるではないか。

 

「あ……体、大丈夫?」


「え、あ、はい、大丈夫です」


 勇は思わずそんな言わずと知れた事を訊いてしまう程に呆気に取られていた様だ。

 「パッパッ」と服に付いた埃を払う程の余裕を見せる彼女を前に、戦いの最中である事すら忘れさせていて。

 こんな様子ならあと一、二発ほど撃ち込んでも問題無さそうである。


 もっとも、そんな事など必要は無さそうな程の有様ではあるが。




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