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時き継幻想フララジカ 第一部 『界逅編』  作者: ひなうさ
『第一部 界逅編』プロローグ
1/426

~はじまりのうた~

挿絵(By みてみん)




――――――――――――――――――――――――


人と獣


明と暗が 合間(相ま)むる(せい)にて


分かつ(ことわり) 産みしは天の定めか


願わくば 永久(とこしえ)の其であれ


()()幻想(げんそう) フララジカ


記 アイデレ=ハルパ=ルイヴェーテ  サユト歴1278年




 ~おわりトはじまりノ書~ より 抜粋


――――――――――――――――――――――――






 少年が走っていた。

 夜闇に包まれた丘を。

 その手に赤茶けた剣を握り締めて。


 けれどその風貌、剣を持つには少し不自然だ。

 纏うのは黒地に蒼のラインが走るジャケットと、燻った藍色のジーンズと。

 更にはその手にスマートフォンまでが光を放っていて。

 時折その目を画面に向けて、案内に沿って突き進んでいくという。


 しかも、常人ならざる速度を以て。


 それと少女も居た。

 少年が突き抜けていた丘の麓に。

 身の丈を越える程の長く大きい木杖を携えて。


 風貌は少年と似ていて、同じジャケットに白いワンピーススカートを。

 少女が纏うには少し不格好だが、おかげでどこか凛々しくも見える。

 ただその所業は、もはや常軌を逸していて。

 一度瞬けば、赤珠を景色の彼方へと瞬時にして撃ち放つという。


 なれば果てで業火さえ巻き起こそう。


 少年は斬り。

 少女は焼き。

 穏やかだったはずの丘は戦場と化す。


 獣の如き荒々しい者達を相手にしながら。


 彼等は何と戦っているのだろうか。

 彼等はどうして戦っているのだろうか。


 ただ、彼等を観る者にはわからない。

 少年少女の事さえもわからないだろう。

 それどころか、いつ始まるかさえも。


 そう、この光景の出来事はまだ始まってもいない。




 遥か未来の光景を()()()()()だけなのだから。




 夜闇に覆われた小屋の中にてそんな二人の姿が映る。

 燐光纏う水晶珠の中にぼんやりと。

 傍に瞬くは珠の灯か、それとも月下の返光か。


 そんな珠脇を、一人の女性が両手で覆う。

 闇に顔の輪郭をふわりと浮かばせる中で。


「少年と、少女の姿が見えるわ。 まだ年端も行かない程の」


 若い女性なのだろうか、面長の輪郭には歪み一つ無い。

 それどころか淡く灯り、闇との境界さえも描いていて。


「でもその動きに迷いは無い。 まるでやる事が見えているかの様ね」


 その一言一言で顎が揺れ、その度に綿毛の様な光がふわりと舞う。

 柔らかな金の髪をも照らし、揺らめき躍らせながら。


 白、青、赤、緑に黄。

 虹の様に煌めく光はまるで生きているかのよう。

 それでいて不規則に舞っては闇に消え、儚ささえも演出する。


 その光はどうにも、女性から放たれている様に見えなくもない。


「少女はとても力強い炎を放ってる。 その華奢な体に見合わない程に強大な」


 一方でその光は水晶珠にも引かれている。

 映す光景に更なる彩りをもたらしてくれている様だ。

 それでもなおぼやけたままで、全てを伝えてくれないままだが。


 するとそんな折、口元に笑窪の影が薄っすらと。


「少年が光を纏う剣を奮っている。 そう、この輝きは―――」


 そうして浮かんだ微笑みは何の前触れか。

 思わず声のトーンが跳ね上がるという。

 今見えた光景から何か感じるものがあったのだろうか。

 しかしそれ以上は語らず、口を噤ませていて。

 ただ眼は未だ光景へと向けられ、一心を注いでいる。


 少年少女の姿はなお水晶珠に映り続けたままだ。

 今度は二人仲良く並び歩く姿がぼんやりと。


 その面立ちこそよく見えない。

 でも彼方に向ける瞳の輝きだけは見えていた。

 力強さと自信に満ち溢れた瞳がはっきりと。


 その光景を目の当たりにして、女性は何を想ったのだろうか。

 何を知る事が出来たのだろうか。


 何を理解し(わかっ)てしまったのだろうか。


「来るわ、世界の〝おわりトはじまりノ時〟が」


 少なくとも、今見えたものが引き金だった。

 そう呟いた拍子に、添えていた手が離れて。


 すると水晶珠がたちまち支えを失い―――


パァーンッ!


 その間も無く、転げ落ちた水晶珠が砕け散る。

 けたたましい破裂音を奏で、幾多の瞬きを周囲へ撒き散らしながら。


 女性の姿は既に無い。

 破片達の輝き失う姿を見届けるべき者はもう。


 その暗闇の中で見えるのは、彼方に浮かぶ三つの影だけだ。


「ならば終わらぬ可能性を掬えばいい」


 一つの影が声を上げる。

 低くも透き通った、決意を強く感じさせる声を。


「俺達が終わらせなきゃいいってぇなぁ」


 一つの影が声を上げる。

 軽くとも、確信に塗れた荒々しい声を。


 影達が黒の地平に消えて。

 彼等の気配も決意も闇の中に掻き消えた。

 その行く先も、目的も、今は誰にもわかりはしない。




 そう、誰も知ろうとはしていないのだ。

 この時、世界で何が起きようとしているのかなど。






 時き継幻想 フララジカ―――世界は今、緩やかに混ざり合おうとしていた。




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