僕は、鉛筆を落とした。
――これより、試験を開始する。
平坦な声が、絶望の始まりを告げる。
試験――それは、僕のような学生が、学業の成果を出すだめの地獄だ。
目の前には、試験用紙、マークシートの解答用紙、鉛筆、そして消しゴムが並んでいる。
――始め。
感情の篭らない声が、その言葉を宣言すると同時に、僕ら学生は試験用紙をひっくり返す。
真っ白な紙に、へんてこな記号が所狭しと並び、それを読解する試験だ。
順番に、マークシートを埋めていく。
わからない問題は後回しだ。時間を割いてなんていられない。
試験中、静かな空間に、紙を捲る音、マークシートを塗りつぶす音だけがいくつも鳴り響く。
僕は、急に周囲を眺めたくなった。
みんなが下を向いて、問題と向き合っている中で、僕だけが顔を上げている――そんな状況を思い浮かべ、思わず口元が緩んでしまった。
実際には周囲を見回したりはしないが。カンニングと間違われては堪らない。
時間を確認する。あと少し。
問題はほとんど終わっている。このペースなら、大丈夫だ。
この問題は――どっちだろう。消去法で二択にできたが、そのあとがわからない。
僕は、鉛筆を転がした。
しかし、勢いをつけすぎたのか、机の上から転がり落ちてしまった。
周囲に鉛筆の落下した音が響き渡る。
監視員が、鉛筆を拾いに来てくれた。僕は思わず恐縮して、すみませんと頭を下げた。
今日、一番ドキドキしたかもしれない。
――あと、十分です。
最後の問題を、少し急いで解く。とはいっても、焦ってはいけない。
確実に、ミスのないように。
よし――これで、終わった。
僕は、最後のマークを塗りつぶす。
――あと、五分です。
よし、見直そう。時間はまだある。
落ち着いて。大丈夫だ。
僕は、最初から問題を見直す。
問題用紙を順に眺めていくと、丸のついた問題を見つけた。
さっき、わからなくて飛ばした問題だ。
この問題を解こうと思い、考える。
……あれ、マークが二つ空いている。
わからなかった問題の、その下のマークも塗られていなかった。
まさか。
僕は慌てて問題とマークシートを順番に見ていく。
マークシートの番号が、一つずつずれていた。
鉛筆を転がした問題が、埋まっていた。そういえば、あの問題は結局解いただろうか――。
まずい。中盤、五割ほどの問題のマークが、ずれている。
急いでマークを消す――けれど、焦ってしまい、他のマークまで消してしまった。
思わず、舌打ちをした。
早く、塗り直さないと。急いで、マークを潰していく。枠から少しはみ出たけれど、今は構ってられない。
半分ほど塗り直したとき、声が響き渡った。
――終了です。ペンを置いてください。
僕は、鉛筆を落とした。