第六話 「お掃除しましょう」
ついにリーシェが帰ってきてくれた。
感動の再会の後、リーシェにもう一度秘書をやってくれないか頼むと。
「はい。私のほうこそお願いします」
と、快く引き受けてくれた。
こうして前にいたメンバーが全員揃った。……内、二人がいらないけどね。
城の中もにぎやかになり、仕事のほうもリーシェと分担してこなしていく。
しかし……こうして全員そろうと何時も嫌な事の前触れのような気がしてならない。
そしてその予感は的中する。
「ふぅ」
仕事のほうも一息ついて玉座に座って一休み。
今は自分で淹れたコーヒーで一息ついていると、目の前の扉が突如開かれる。
「やっほ〜、元気だったかい魔王君?」
ワルツを踊るようにくるくると回りながら俺の方へと向かってくるゼロ。
鼻歌なぞ歌っている始末。
そしてキョロキョロと周囲を見渡し。
「おや? リーシェは?」
「リーシェならちょっと遠くに買い物を頼んでる。しばらくは帰ってこないぞ」
コーヒーを飲みながら返答する。
ゼロはどうせリーシェに会いに来たのだろう。
それを告げたら帰るかと思いきや、なにやら不気味な笑みを浮かべるゼロ。
「ふむふむ……それは丁度良かった」
「え?」
「魔王君、実は君に相談があるのだが」
ズズッと俺に顔を寄せてくるゼロ。怖い。顔も怖いが、頼みごとしてくること自体が怖い。
凄まじく嫌な予感がしてならない。
「なんだよ?」
「実は最近リーシェの様子がおかしいんだよ」
「リーシェが?」
「ぼかぁたまたま、なにやら挙動不審な動きをしながら部屋の中へ帰っていくリーシェを
目撃してね。何か部屋に隠しているようなんだ」
リーシェが隠し事? まぁ、人には言えない隠し事なんて一つや二つあるだろうに。
「それで?」
「だからね、僕と魔王君の二人でリーシェの部屋を覗いてみないかい?」
「断る。断じてことわる」
確かにリーシェの隠し事は気になるが、それ以前に女性の部屋に勝手に侵入するのは
ポリシーに反します。
「魔王君、今しか無いんだぞ!? リーシェが帰ってくる前に、彼女の秘密がどんなものか
知っておく義務はあるんじゃないのか?」
「ない。そんな義務は全く無い。べつに俺はリーシェを信じてるから良いよ」
「……ほぅ? では他の男と付き合っていても君は放って置くと?」
「良し、今すぐ行こう。俺はリーシェを信じているが、隠し事は無いようにしないとな」
「さすが魔王君! 話が分かるね!」
そんなこんなでゼロの口車に乗せられてリーシェの部屋へと向かう事に。
廊下を歩き、リーシェの部屋の前に来る。
リーシェの部屋の前には可愛らしい熊のマスコットが表札を持っており、そこには
『りーしぇるとるーど・ぱとりおっと・でぃす・ぱーる・でもんとあるもーでぃす』
の部屋とフルネームで書かれていた。
そしてそこで一番目を惹くものは、さりげなーく、本当にさりげなーく名前の下に。
『のぞいたら殺しちゃうぞ?』と可愛らしい丸文字で書かれてあった。
きゃー、可愛いらしい文字とのギャップが激しすぎて、今すぐその場から逃げ出したい
衝動に駆られております。
「ゼロ、絶対まずいぞこの展開」
「何言ってるんだい魔王君。ここまで来たら引き下がれないだろ? それに、大丈夫
手段を考えてあるから」
はい、と俺になにやら水色のツナギを渡してくるゼロ。
いそいそと服の上からそれを着ている。
「なんだこれは?」
「いいかい魔王君、僕たちは今からリーシェの部屋を掃除に来たんだ。だから決して
のぞきなんかじゃない。分かるかい?」
「あっ、成る程。清掃員の姿をして侵入すれば……」
無理です。絶対この戦法は通じない。
見つかった瞬間、肉ミンチは間違いないかと。
しかし、念のためいそいそと俺も着替える。
そして二人揃って清掃員の格好をしてリーシェの部屋の前に立つ。
「リーシェ、掃除しに来たよー。居ないのだったら勝手に入るよー」
「いや、勝手に入るなよゼロ。おかしいだろそれ」
ゼロは片手で軽くノックしていると同時に、もう片方の手で
ピッキングを駆使するというなんとも器用な行動をしていた。
そして鍵のかかったリーシェの部屋があっさりと開く。
こいつ、今度から出入り禁止だな。
とりあえず用を早く済ませようと中へと忍び込む。
中に入ると、部屋はピンク色で調和されており、可愛らしい熊のぬいぐるみや、
小物がおいてあった。
実に女の子といわんばかりの部屋の中。中は俺たちが掃除するまでもなく
綺麗にされてあった。
「さてと、見た感じ何もなさそうだけど?」
「魔王君、そんな秘密をあっさり目の見える所においておくわけ無いだろ?
さっ、早く帰ってくる前に捜してしまおう」
「……つかぬ事を聞くが、何故お前は入ってきた瞬間にリーシェの洋服タンスを調べている?」
「何故って……一番重要だからさ。ぬぬっ!? こんな派手な下着をリーシェが……!?」
下着を手に取りワォー、と叫ぶゼロ。
コイツ絶対出入り禁止。むしろ世のためを思って今の内に亡き者にするべきか?
「真面目にやれゼロ! リーシェに見つかったらあの世に行くんだぞ!?」
それからベッドの下、机の上などありとあらゆるところを探すものの何も見つからない。
というよりも、隠すスペースが見当たらない。
こんな狭い部屋の中で何を隠すというのだ?
「ゼロ何も無いぞ?」
「おかしいね……彼女の態度からして必ず何かがあると思うのだが」
ふぅ、とため息をつく。
探し回って疲れたため、近くにある壁にもたれかかる。と、その時。
「おわっ!?」
突然壁が回転する。
そのまま後ろに倒れる俺。
何とそこには隠し階段が存在していたのだ。
「こ、これは……」
「魔王君お手柄だね! きっとこの先にリーシェの秘密があるに違いないよ!」
突如現れ謎の降りる螺旋階段。
俺とゼロはその階段を一歩一歩慎重に下りていく。
中は暗く、壁はレンガでしっかりと出来ており、かなり丈夫につくられていた。
そしてどんどん下へ下へと降りていくと、光が見える。
階段を降りきった所には大きな扉があり、中から光が漏れていた。
俺とゼロはその扉に手を当てて。
「じゃあいくぞゼロ!」
「オッケー! うぉぉおりゃあ!」
ギギッと軋む音を立てながら扉は少しずつ開いていく。
そして、俺たちの目の前に現れた光景は――。
「……え?」
二人揃ってハモッてしまう。
それもそのはず。俺たちの目の前に姿を現したのはガラクタの山。
ぶら下がり健康器、飲んだら痩せると書かれた薬。どれもどこかで見たことがあるものだ。
俺とゼロは目の前にあるガラクタの山に足を踏み入れる。
「これは一体……ん?」
ガラクタの山の横に山積みなっているダンボールの山。それを一つ手に取り
まじまじと眺めると、そこにはアリシュレード通販、と伝票がうってあった。
つまり、このガラクタの山は全て……。
「リーシェが買った通販の山!?」
「成る程。そういえばリーシェは昼のショッピングを最近熱心に見てたね」
「はぁ、そういう事か。しかし、よくこれだけ買い物したな……」
リーシェの本当の姿を一部かいま見たような気がする。
さて、分かったら長居は無用だな。
俺とゼロは踵を返して元来た道を帰ろうと――あら? 目の錯覚でしょうか?
目の前にリーシェの姿が……って、ぇえ!?
リーシェはとても良いスマイルを見せながら俺とゼロの退路を塞いでいました。
「どうしたんですか? 王様、それにゼロ?」
「はわわわぁ! り、リーシェこ、これはその……」
「ぼ、ぼかぁ、そう清掃! 清掃に来たんだよ! 魔王君と二人で」
んな言い訳通用するか! と心で突っ込む俺。
「あら、そうだったんですか〜?」
……あれ? 意外にもリーシェは深く追求せず俺たちの言い訳を
鵜呑みにする。
もしかして、通用した!?
「そ、そうなんだリーシェ! 俺たちは掃除しに来たんだ」
「成る程、分かりました」
なんという僥倖! まさか本当に通用するとは!
ゼロの考えもたまには役に立つのだな。
「二人じゃつらいでしょう。私も手伝いますね」
「えっ? だ、大丈夫だよリーシェ。俺とゼロの二人で何とかなるから」
「いえいえ、そういう訳には行きませんよ。だって"大きなゴミ"が"二つ"
"私の目の前に存在していますから"」
こめかみに青筋を立てながらニコリと笑うリーシェ。
ところで、所々強調している部分があるのは何故ですか?
「さてと、どう掃除すればいいか迷いますよねー? 王様? それにゼロ?」
指をバキバキ鳴らしながら俺たちを見つめるリーシェ。
わーい、やる気満々ですねリーシェさん。どこから手をつけるのかは
あえて聞かないほうが良いのでしょうか?
「あの、とりあえずごめんなさい」
脊髄反射的に二人揃ってその場で土下座。
そして恐る恐るリーシェの顔を見ると先ほどと変わらぬ良い笑顔だった。
「さてと、準備はいいですか王様、それにゼロ?」
「な、何のですか?」
「あの世に旅立つ準備です」
「イヤー!」
叫び声と共に大の男二人が宙を舞う。
だから嫌だって言ったんだよー!