第四話 「懐かしきチビッ子?」
エルナの魔法陣が妖しく光り輝き、ついに姿を現すすごい奴。
ゼロとモンタ議長は城の片隅で念仏を唱える始末。
俺はエルナの召喚をただ呆然と見つめる。
そして。
「出て来い! 一番凄い奴!」
そのエルナの言葉を合図に白い煙が辺りを包み込む。
あまりに凄い煙の量にゴホゴホと咳き込む。
あたり一面煙の海で数メートル先が見えないほど。
「おーい、エルナ! モンタ議長! ゼロ! 何処だー」
俺は必死に呼びかけるものの何の反応もなし。
そうして煙の中を歩いていると突然背中から何かがぶつかってきて思いっきり地面に倒れる。
しまった! もしかしてエルナの召喚した奴!?
俺は必死に逃れようとするが何かが上に乗っかっているのかビクともしない。
殺されると思った瞬間――。
「むふふー、聞いたことがある声だと思ったらヤッパリ」
「! そ、その声はもしかして!?」
聞き覚えのある透き通ったような高い声。
俺は背中に乗っかっている人物を見ると、そこにはショートカットの金髪の小さな子供が居た。
蒼く輝く瞳。輪郭は丸みをわずかに帯びて幼さを漂わせる。そして、何よりも目を引くひまわりのような笑顔。
この子供を俺は知っている。
「ウィル! 何時の間にここに?」
「えへへー、今さっき」
ニコニコしながら俺の背中から動こうとしない子供。
この子の名前はウィル。
以前何かとお世話になった子だ。結構ヤンチャで手を焼くちびっ子。
けれどこの子は少し変わった事情があった。
まぁ、それはすでに終わって普通の子供になれたはずなのだが……?
「ウィル何処から入ってきたんだ? 全然気づかなかった」
「んー、実は僕もわかんないんだよ。気づいたら突然この場所に居てね、近くで声がしたから
来てみるとお兄ちゃんが居たって訳」
と、困ったような様子で話すウィル。
……まてよ、それってつまり。
「あー! スズキに誰か乗ってる!」
エルナの驚いた声が城内に響き渡る。
周りを見るとすっかり煙は晴れていた。
エルナは俺の上に乗っかっているウィルに指を指す。
「おおっ! ウィル、ウィルではないか。なつかしいのぅ」
「あれ? モンタおじいちゃん? 確か死んだはずじゃなかったの?」
「ワシにも色々と訳があるのじゃよ。まぁそこは聞かないでおくれ」
ふぅ、とため息をつくモンタ議長。
まさかあの世で門前払いされたとは言えないよなー。
ゼロもウィルと会って懐かしそうに話をしていた。
しかし……なぜかエルナの様子がどこかおかしい。
何かこう、嫌そうな感じをかもし出していた。
「エルナはウィルと初めて会うのか?」
「違う。このチビとは以前に面識あるよスズキ」
「むっ、なんか気に食わない声がすると思ったらモンタじいちゃんの孫娘のペチャパイ娘じゃん」
互いにこめかみに青筋を立てながらバチバチと火花を散らす。
竜虎相打つ。
二人からはなにやらオーラのようなものが見えていた。
俺はモンタ議長の隣に駆け寄り、どういう事情なのか聞いてみる。
「あの、二人とも何かあったんですか? 凄い険悪なんですけど?」
「おお、そういえばあの時おぬしはおらなんだな。ふむ、いいじゃろ、少し長いが話をしてやろう」
そういってなにやら真剣な顔をして過去の回想を語りだす。
「そう、あれはお主が帰ってエルナが魔王になったときじゃった――」
■■■
"今日から魔王になったエルナだ。皆ヨロシク!"
家臣達はあんな小さい子が魔王になったと聞き、はぁー、とため息をついたものじゃ。
あんな子供に責任重大な魔王が出来るのかどうか……。
それを見たエルナはと言うとじゃな。
"お前らクビ。出て行け"
などと家臣全てを首にしてしもうてな。
それを見た心優しきウィルがエルナに立ち向かったのじゃよ。
"ちょっと酷すぎだよ。何もそこまで言わなくても"
"うるさいチビ。お前もクビ"
後は地獄じゃった。
あっさりと戦いの火蓋は切って落とされたのじゃよ。
互いに勝るとも劣らぬ魔力を秘めておってな。二人は三日三晩戦い続けたのじゃ。
あの時はアリシュレードは火の海と化すかと思うた。
逃げ惑う人々と魔族。
そして四日目の朝――。
"ムカついたー! 良いよ! 出て行ってやるもん! べー!
僕だって他にやる事いっぱいあるし! バカバカバーカ!"
ウィルが世界の為を思って自ら身を引いてくれたのじゃ。
そうして世界を巻き込んだ子供の喧嘩は終わったのじゃよめでたし、めでたし……。
■■■
「と、いうわけじゃよ」
「分かりました。分かったんですけど、全然めでたくないですよそれ!」
つまり、その犬猿の仲とも取れる二人が感動の再会を果たした。
それが意味するもの、それは再び喧嘩が始まる前兆じゃないか!
「わざわざクビになったのに戻ってくるとはいい度胸だなちびっ子」
「君だってチビじゃんか。さらにまな板娘」
さらにヒートアップしていく互いの怒り。
魔王としてここはこの二人を止めなければ!
「う、ウィル落ち着け! それにエルナも!」
「お兄ちゃんはそういうけど、向こうはヤル気だよ?」
「それはこっちの台詞。スズキが言ってるからやめてあげてもいいよ? 私も
弱いものイジメは嫌だし」
プチッ、とウィルから何かが切れた音がした。
スマイル全開、ヤル気全開。ウィルはなにやら両手を前に広げ、呪文を唱えだす。
「ぬ、ぬお! あ、あの呪文は!」
「えっ? 何かあるんですか?」
「アリシュレードに伝わる禁呪じゃ! 一度放たれれば半径百キロは焦土と化し
向こう二十年は生物が住めない破滅の――」
「ウィルー! 止めろー! そんなもん放つんじゃない! というより、何でそんなものを
唱えようとするんだ!」
「大丈夫だよお兄ちゃん、ちょっとこの生意気娘を懲らしめるだけだから」
「大丈夫じゃない! 俺たちが大丈夫じゃないから!」
半径百キロが焦土と化す魔法を唱え始めるウィル。
その魔法の強大さを分かっているのか、エルナの顔がこわばる。
エルナもまた、なにやら両手を上に掲げて唱え始める。
「ぬ、ぬほ! あの呪文は!」
「何ですか? また禁呪ですか?」
「うむ。巨大な隕石群が空から降り注ぐというあっさりした魔法じゃな。まぁ、こればっかりは
当たる場所は運任せじゃ。直撃した部分は、まぁ、ご臨終という事でOKじゃな?」
「OKできません」
城が二人のちびっ子の魔力で地震が来たみたいに激しくゆれる。
二人から直視出来ない程の光がほとばしる。
「ど、どうにか止める方法ないんですか! モンタ議長!」
「ぬぅ、何とかあやつらが立っている下の魔法陣に入り込めれば
何とかなるはずじゃが……」
「じゃが? 何ですか?」
「入った途端、その魔力を浴びてしまうからのぅ……痛いどころじゃすまんぞい」
むぅ、確かに。
ただでさえとんでもない威力の魔法を唱えているのだから、下手すれば死んでしまう。
ん? 死んでしまう? まてよ……。
俺はチラリと横にいるご老人を見る。
「むっ? なんじゃ? わしの顔に何かついておるか?」
「モンタ議長、すみません。俺たちの為にもう一度死んでください」
「へっ? お、おぬし何をかんがえ――おわぁああ!」
モンタ議長が話し終える前に俺はモンタ議長の服を掴み、そのままスローイン。
やはり幽体は軽い。勢い良くエルナとウィルの魔法陣が重なっている部分にスポッと入る。
瞬間。
「ピギャァアアア!」
あらぬ声をあげ、モンタ議長の体がとても明るく発光する。
どうやら二人のとんでもない魔力がモンタ議長の体を通して流れているようだ。
何分か続いた後、黒焦げになってその場にうつぶせに倒れるモンタ議長。
それと同時にウィルとエルナの魔法陣も消えてしまった。
「お兄ちゃん酷い! なんで邪魔したの!」
「スズキ! どうして!」
「どうしたもこうしたも無いだろ二人とも! 二人仲良く! これが一番!」
これが可愛いチビッ子同士の喧嘩なら放っておくが、死活問題となれば話は別です。
俺は二人に近づき、お互いの手を取り、握手をさせる。
嫌そうにウィルとエルナはお互いを見つめる。
「お願いだから、二人仲良くね? 皆の為、俺のために。ね?」
「……分かったよ、お兄ちゃんの為ね」
「……スズキの為にね」
ぶすっ、とする二人。
また厄介な種が一つ増えてしまった。
さてと、何とか二人をなだめる事に成功したし……向こうで黒焦げになっている老人を
どうしようか悩むのであった。
……火葬は無理かな?