第一話 「承認」
この小説は一応続編です。
えっ? 前作知らない? でも大丈夫。
そんな人でも大丈夫なように一応作っています。
でも前作読んでから読んで頂けるとより一層美味しく読んでいただけます。
どれくらい美味しいかと言うと、冷ご飯にふりかけかけたぐらい美味しくいただけます!
ここはとある星。名を「アリシュレード」
この世界では魔族と人間が暮らしており、それだけでも変わっているが
特に変わったことがある。
『魔王』の存在だ。
なにかとやんちゃな魔族達を取り仕切るには魔王という存在が必要不可欠。
そしてこの時期、新たな魔王が誕生する。
暗い部屋の一室。
電気代を節約するためか、電気をつけずに机の上に置いてある紙を見つめる
少女の姿があった。
「やっぱり、こいつで決定かなー」
あーあ、と仕方なさそうにその紙に貼ってある写真を眺める。
一人の男性。見た目は至ってごく普通の男だった。
少女は机の片隅に置いてあった太鼓判を手に取る。
そして、紙めがけて思いっきりその判を叩きつけた。
少女は自分の押した判に満足がいったのか、口元が大きく三日月を作る。
「アンタに採用! 名誉ある百二十八代魔王の名は"鈴木 修!"」
◆◆
時期は春。
出会いがあり、そして別れがあるこの季節。予期せぬ出会いが訪れる事を
俺は密かに心待ちにしていた。
今年こそは春爛漫、甘い学園ライフを過ごしてやると決意していた。
俺、「鈴木 修」は高校二年生になった。
今日は初登校日。俺は自分の教室へと向かい、廊下に張り出されていた
クラス表を目にすると――。
「よう! 今年もヨロシクな。修」
俺がクラス表を見る前に一緒だということが分かってしまった男が一人。
俺はこの男の事をよく知っている。
小学校からの腐れ縁の「山本 和志」
自称サッカー部のエース。
「なんだよ、またお前と一緒かよ……」
「そう嬉しそうな顔するなよ兄弟」
「いや、嬉しくないって」
そうして何時ものように漫才のような挨拶を交わし、教室へと入っていく。
中は賑やかな事この上ない。
目の前の黒板には誰が何処に座るのか書かれていた。
俺と一志も所定の席へと座る。
そして遊びの時間から仕事の時間へと切り替わる鐘が教室に鳴り響く。
教室の中に担任が入ってくる。
頭はソフトクリームのような巻き髪に、二等辺三角形の眼鏡とユニークな女担任。
「えー、今日から私がこの教室の担任になった"山田 真希"ザマス。
皆さんヨロシクお願いしますザマス」
そう担任が言うと、皆から心のこもってない拍手が送られる。
ぱち、ぱちと何処か投げやり。
しかし担任はさほど気にした様子は無く、構わず明日からの日程を俺達に告げる。
二年になったからには……などと一人演説を繰り広げるソフトクリーム。
そして最後に。
「皆さん、二年になったからには就職か進学かはっきり決めておくザマス。
今からプリント渡しますから将来、何になりたいか希望を書いておいてザマス」
担任は席の一番前の奴にプリントを渡し、前から後ろへと順々に配られていく。
俺は手元に来たプリントに目を通すと、第一志望、第二志望、などと書かれていた。
(将来……か)
ふと頭をよぎったのが懐かしいあの頃。
異世界に呼ばれ、自分の夢が叶ったあの頃の思いで。
感傷に浸った為か、無性に会いたくなってきた。
俺は思わず第一志望にアリシュレードと書いていた。
無論、その後担任に呼び出されて「頭は大丈夫ザマスか?」などと言われたのは
言うまでもない。
学校初日が終り、いつもどおり帰ろうと下駄箱を開けてみると、中には
一枚の手紙が入っていた。
これって……もしかして! 俺は焦る気持ちを抑えつつ、中身を確認する。
「何々……これは不幸の手紙です。この文面と一緒の物を十人に出さないと
不幸が貴方に襲いかか……」
破り捨てた。
もう思いっきり音を立てながら。
俺は不愉快な気持ちで学校を後にする。
「ただいまー」
自宅の玄関のドアを開け、真っ先に向かうは二階にある自分の部屋。
ドタドタと階段を上り、ポイポイっと学生服を脱ぐ。
俺は私服に着替え、一階の台所へと向かう。
今日は平日の為両親は働きに出ている。
棚にあるカップ麺を手に取り湯を注ぐ。
「いっただきまーす」
そうして食べようとした時――。
突如足元から虹色の光があふれ出す。それは円を描き、幾何学的な文字が
浮かび上がる。
"ジュゲムジュゲムゴコウノスリキレ……ごにょごにょ"
何処からとも無く声が聞こえてくる。……ごにょごにょって、おい。
声からして女の子のようだが、姿が見えない。
呪文のような言葉は更に続く。
"――我、幾ばくの時を越え、真理を結び、門を繋ぎて鍵を解く!"
「おい! さっきの幼稚な呪文から続く言葉とは思えないぞ、それ!」
俺の言葉も虚しく、光は俺を包み込み、辺りが真っ白になる。
あまりの眩しさに目を閉じる。
それが数分続き、やがて光がおさまる。
奪われた視力が少しずつ回復していき、そして視界が開かれると
そこは自分の家ではなく、何処かの城と思われる室内が現れていた。
俺はあまりに突然の出来事にキョロキョロと見渡していると。
「お前が鈴木か?」
可愛らしくも高い声色がする方を向くと、目の前に手すりに肘をついて足を組んで玉座に
ふんぞり返る少女がいた。
柔らかい桃色のツインテールに若干鋭い眼つき。口はニヤリと笑い、
少し尖った差し歯が見える。
服は黒の光沢ある衣装で、子供にはあまり似合わない衣装。
そして一番目を引くものは……しっぽ。先っぽがトランプのスペードのように
なっており、それがフリフリと動く。
「よく来たな! 人間の分際で」
「いや、勝手につれてこられたのですが?」
「ムッ、そうだった」
アハハハと目の前の少女は豪快に笑う。
少し気になる言葉が。
「待った、今人間の分際って言わなかった?」
「ああ、言った」
「じゃあ、君は人間じゃないのか?」
「おう。私は魔族だ」
「魔族……!」
その言葉を聞くやいなや途端に背筋が凍る。
なにせあまりいい思い出が無いからだ。
俺は心の中で間違いであってくれと思いながら質問する。
「あの、ここはどこなのかな?」
「ん? ここか? ここはアリシュレード。お前の居るところとは
別の異世界だ」
ある程度予想はしていたが、実際に告げられると精神的にまいる。
ハハッ、そうか。俺また帰ってきたんだ。
嬉しさ半分、悲しさ半分。
そういえばどうして俺は呼ばれたんだろ?
「あの、俺を呼んだのは君なのか?」
「おう。いやー、しかし、お前がスズキか……なんかガッカリ」
「えっ? どうして?」
「うむ、うちのジジイが何時も口癖で言っていた奴がこんな平凡の
人間だとはなー」
「じ、ジジイ?」
ジジイと言う言葉を聞いて頭に思い浮かぶものは一人。
以前俺をこの世界に呼び出したというはた迷惑な爺さんがいたな。
もしかして……。
「君、モンタ議長の血縁か何か?」
「正解。私はモンタジジイの孫娘にして現魔王エルナ様だ」
えっへんと威張るエルナという子供。
というか、こんな小さい子供が魔王だなんて……大丈夫か? この世界。
まぁ、この世界がおかしいのは今に始まったことじゃないか。
「そういえば、おじいさんは元気?」
「うむ。元気に天に召されたぞ」
「ああ、そうなんだ。良かっ……て、ええっ!?」
良くない、良くない! 天に召されるって死んでるってことだよ!?
この少女はなんら違和感なくそんな大それた事を話す。
普通しおらしくなるとか、悲しそうな表情するんじゃないの?
「ど、どうして? 何で死んだの? 寿命?」
「いやそれがなー、女風呂を覗こうと塀を登っているときにギックリ腰をやったみたいで
そのまま落下。打ち所が悪かったらしく天に召された」
「あ、そうなんだ」
モンタ議長らしいといえばらしいな。
確かにそんな理由で死なれたら悲しみも半分以下だよな……。
「あのジジイのせいで魔王と魔王公平審議の会長もやるハメになったわけよ?」
「……苦労してるね、君も」
「それでなー、魔王の任期も終わっていざ次の魔王決めるときに良い奴が
いないわけ」
「ふーん……」
「そこで思い出したのがジジイの言葉。家で厄介者として扱われてたジジイが、
"おーお、なんと冷たい家族たちじゃ。まるで冬にアイスを食っているような
冷たさ。昔は良かったのー、鈴木が魔王の頃はこんな事は無かったのにのー"
って耳にタコができるぐらい言ってた訳」
……あのジジイ、何かと問題のこしていくな。
もう少し冷たく当たっておくべきだったか?
「で、どんな奴か調べたら人間て言うんだからビックリ。まぁ、ほかに候補
いないからあんたに決まった訳」
「すまん、俺に拒否権は?」
「むっ、人間の分際で拒否とは如何に? 拒否イコール死の方程式は既に成り立っていると
知ってての反逆行為だよね?」
人間の基本的人権はこのチビ魔族には通用せず。
どうしてそういう重要なポストを君達はくじ引きとかそういう軽いノリで
決めてしまうのだ?
俺に選択肢は無く、再び魔王としてアリシュレードに君臨することになった。
……不幸の手紙書いておくべきだったかな?