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こわいだん  作者: くろとかげ
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現代版・むじな 後編

 祖父の話はそこでぱたりと止んだ。その日の夜、祖父が暗闇の中でいったい何を見たのか。気にはなったがどれだけ待っても答えを聞けることはなかった。

 襖の隙間から覗ける闇からは沈黙しか出てこない。

 だけど俺はその場から離れなくなっていた。空いた襖の隙間だけが目につく。視線が吸い込まれるから、離れることができない。話は終わったのに自分の部屋に戻るころができない。

 それどころか俺の足は、次第にそちらの方へ。

 部屋の襖に手をかけ、気がつけば横に滑らせていた。

 祖父の部屋は真っ暗だった。住んでいる家なのに、別次元のように恐ろしく、空気が冷たく感じる。黒で満たされた部屋へ身を投じて柔らかくなった畳を踏んだ。

 異臭を嗅いで、反射的に顔がそっちに動く。

 あぐらを掻いて座っている祖父の姿が目映った。

「じいちゃん。さっきの話だけど?」

 暗闇にポツンと浮かぶ小さな背中に言葉をかけた。

 違和。自分でも変だと思えるほど、まるで人形に話しかけるような感覚だった。祖父の体からは生きているというものが感じられなかった。

 でもさっきまで話を聞かせてくれていた。

「あの――」

 話しかけながら肩に手を置いた。いや違う。ちょっと触れた、指先が当たっただけだ。

 それなのに祖父の体は、何の抵抗もなく、背中からこちらに傾いた。

 肉体が畳の上に倒れる。だけど不自然なくらい、浮いていた綿が落ちたように音がしなかった。

「うわぁ!」

 短い悲鳴をあげ、俺は祖父の体から後ろに飛んで離れた。反射的だったから何に驚いてしまったのか、考えることができなかった。

 瞬きを何度もして、「そんな……」目を凝らして、「そんなことって……」それに視線を当てた。

 現実とはとうてい考えられない光景。

「ない」

 祖父には、なかった。

 目も。

 鼻も。

 口も。

 皺や、しみ。

 毛一本さえ見当たらなかった。

 祖父の顔はつるりとして、卵の表面を思わせた。

 直後、俺は気を失った。


 目が覚めると朝で、俺はどういったわけか自分の部屋のベッドにいた。そしてその時にはもう祖父は冷たく死んでいたらしい。

 俺はその日を境に、人と会えなくなってしまった。

 人の顔が見られなくなったのだ。

 目に映る者全員が、つるつる顔の化け物になってしまい、俺は人間であって人間でない者に恐怖を抱くようになってしまった。

 きっと祖父がそうであったかのように。

原作だと「むじな」は、夜道を歩いていた商人が二人目ののっぺらぼうを見たところで、スパッと切ったように終わる。

もちろんそこで終わるのが怪談としていいんだけど、その先を書いてみたくなった。

のっぺらぼうを見てしまったことによって、商人は大きなトラウマを抱えるようになったんじゃないかな。

人の顔が見られなくなるくらいに。

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