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こわいだん  作者: くろとかげ
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現代版・むじな 前編

 町の外れに、通称“あっち側”と呼ばれている坂がある。

 山の一部を削ったような道だが、登って下った所に小規模な住宅街があるため用事のある人間は近道のできる便利な移動手段として坂を利用していた。

 今では道も整備され、街灯も立ち、ずいぶんと歩きやすくなってはいる。が、少しまえまでは全然そうではなく頭を悩ませる人も少なくはなかった。

 昼の明るい時間帯はまだいいが、問題は夕闇が迫った時だ。

 日が沈んでしまうと坂は見違えるほど暗くなり淋しくなる。不気味すぎるあまり本当にあっち側――あの世へ続いているのではと想像してしまうほどだった。

 大の大人でさえそこを通るのが嫌で、わざわざ坂を避けるように回り道をして住宅街に向かうようにしていた。

 そしてまれに、こんな声もあがった。

 ――あっち側には、むじな、が出る。


   ***


 祖父は変わってしまった。昔は大柄な性格で喧嘩っ早くてちょっとしたことでも威張ったように文句を言う、そんな人だった。ところが今では口数が減り、まるで人と会うことを恐れているか自室に引きこもるようになってしまった。

 真逆の人間に一変した祖父を心配に思ったのか、大勢の人たちがぞろぞろとうちを訪ねてくるのだが、誰一人祖父とは顔を合わられず、渋々帰っていくのだった。

 事態は悪化してついには家族である俺たちでさえ、祖父と会うことができなくなってしまった。

 食事はどうしているのか。風呂はどうしているのか。元気なのか弱っているのか。死んではいないようだけど、日常的で当たりまえな情報さえも一切入ってこなくなった。

 おふくろや親父たちは手がかからなくて楽だなと暢気なことを言ってはいるが、俺は祖父の状況が気になって仕方がなかった。

 だから休みを費やして一日中祖父の部屋の前で待機し、祖父の姿をひと目見ようと試みた。

 朝一番から昼、夕方を通り越して深夜。一日かけて祖父の部屋を見張ったが、入り口である襖は数ミリも動かなかった。大きな欠伸が出て、もう寝ようと、あきらめて自室に戻ろうと腰を浮かした時だった。

 ズッ――と、ほんのわずかだが音がかすかに聞こえた。

 ハッとして顔を向けると、これまでピクリともしなかった襖が、数センチの隙間を見せていた。

 部屋の奥は真っ黒だった。冷たい空気が隙間から漏れてきているような気さえした。

「じいちゃん?」

 暗闇に向かって思わず声を投げた。返事はこないだろうと、どうしてかそう考えていた。

 しかし――

「おまえか……」

 地の底から響いてくるような、くぐもった声が耳に入った。祖父の声を生で聞いたのはいついらいだろう。少し恐怖を抱いた。

「うん」

「今日は一日。ずっと部屋の前にいたな。わしがどうしてずっと部屋にこもっているのか、それが気になるのだろう」

「う、うん」

「おまえになら、話してもいいかもな」

 祖父は乾いた声で、うめくように囁いた。

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