ケイオス・イーラ 9
ひょんな事から私のものになった無銘の日本刀には、刀神と言う、付喪神が宿って居りまして、手入れに注文を付ける上、私の事を未熟者呼ばわり、売り言葉に、買い言葉。つい、刀に指導を受ける事となっていまいました。
特訓・関の無銘神
お母さんと何とか運べる、刀一振り入り、あの場に残っていた物全部入りの、小ぶりな刀箪笥をお家に持ち帰った私は、何はともあれ、刀を引っ張り出しました。お母さんの持っていた登録用のハガキに、必要事項を書きまして、岐阜県教育委員会宛てに、投函しただけで、この刀は、正式に私のもの?すっごく簡単なのですけど、本当にこれだけで手続き完了なのですよね。
老師の刀の手入れ道具はさすがに、確りとした物が揃っております。鞘はかなりボロイですが、手ぬぐいで、綺麗に拭きました。幸い鞘をひっくり返して、中に詰まって居るゴミが出ないかな。なんて、そんなに簡単に出ない事承知で、板の間に、手ぬぐいをひいて、その上で、トントンとやっておりましたら、何やら真にゴミの塊が、ごっそりと出て来ました。刀の方は、鹿皮に刀用油を染み込ませたケースおば取り出しまして、丁寧に油をひきまし・・・
「未熟者! 雑に扱うでない。」
この言葉、うーん経験の無い人には理解しにくいけど、頭の中に直接響くのですよね。って? あなた誰ですか。
「我は、関の・・・無銘神じゃあ。昭和元年、軍刀の粗製濫造を命じられておった刀匠が、やっとの思いで手に入れし良材にて鍛えし、なれど銘を入れる事叶わず、弟子の手により完成されし刀じゃよ。」
「ほえー、刀がしゃべった。」
「真琴、何独り言を、言ってるの。」
うーむ、どうやら、この頭に直接響く言葉は、他の人には、分からない様ですねえ。とは言え、煩いの何の、鐔、切羽まで交換させられました。・・・なはー、隠し引出しが、付いておりまして、老師のコレクションが、隠されていましたよ。しかも、
「ふん、そなた、かなり未熟者じゃのう」
ムッカー!
「これを見てよね。居合道なら、段外、初段、二段、東東京大会優勝です。」
「ふむ、目録にも届かぬか・・・猿山の大将じゃのう。一人前の人間の域には、程遠いのう。」
「私ねえ、まだ中学2年生なんですけどね。中学1年の5月に初段受かって、2年の5月に2段です。今度3段受験するには、えっと2年の研修義務があるから、今2月でしょう・・・だから、後1年と3ヶ月必要なのです。」
「子供かあ~、じゃが筋肉の付き具合、出せるであろう素早さ、技も知らな過ぎる。」
「なら、教えてよう。」
「ふっ、その言葉を待っておったのよ。そなたが、望んだ事を忘れるで無いぞ。」
まさか刀が、私を指導、修練させるなんて、はなから信じていなかった私の不覚でした。既に絶えて久しい古流の技を、私の体を操る様に教えられるとは、しかもそのスピードが、速いの何の。他の師範の方々真に唖然でしたあ~。ついでと言っては何ですけどね、その~何か・・・私自身のスピードが、異常に上がっておりまして、まあー、本人から見ますと、相手の竹刀も、体捌きも、スローモーションに見えます。ですから、相手が私の竹刀を撥ねるつもりが、おっそろしくゆっくりなので、その間に、面や胴、小手を難なく取ってしまいます。剣道個人戦女子の部、中学3年生にして、並み居る、社会人大学生をしりぞけて、全国優勝ですと・・・高校の受験勉強とは、全く縁が有りませんでした。
居合道では、静岡で行われた、古流大会二段の部で、ブッチギリの優勝でしたね。無論、東東京大会では、二段の部2連覇でしたあ~
などと、良い事ばかりの様に見えますが、あーた、世の中そんなに甘い物では有りませんてすよう。持ってるパワーに対して、2倍以上のパワーを強引に引きずり出されて居る訳なのです。そのツケは、モロ私の体から、絞り出して居るのですから。初めの頃など、寝る頃など、悶絶してました。食欲も、お母さんが心配する程大増量、しかし、人間と言う者は、慣れ、順応性、を持っていて、特に若い私などは、まあ、強くなる為には、チョッときついけど、こんなモノでしょうねえ。で済ませてしまっておりました。ああ高校ですか、剣道の特待生で、何処にしようか、迷ってたりしておりましたねえ。流石に、高校では、居合道部は、在りませんが、そっちの練習も、やってかまわないと言う、学校が結構在るのですよね。なにせ、初めての、中学生での女子個人戦全国優勝者。・・・高校生でもその様な例は在りません。入学させれば、学校の看板に持って来いですからね。無論女子団体戦、インターハイ、居合道の各種大会での活躍。ぶっちゃけ、優勝は我が校のもの、多分確定ですからね。まあ、無事高校生になれまして、5月には、剣道、居合道共に三段、充実した高校生活は、西暦ごと、約半年後無くなりました。
日本には、刀神の宿って居るはずの日本刀は多い。そして、居合道や剣道の高段者も多い。神道、仏教による結界も、全力展開中。だから、いくら下位種を全滅させても、高校1年女子の私など、予備の予備要員ながら、一応陸上自衛隊士官のインスタント教育は受けてましたよ。それが・・・