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いい加減動け


 ジェイスの野郎の口から出てきたお仕事の内容。

 …………鉱山の…えー、奪回……?


 これに対する、俺らの反応。


「……なんだ……そりゃあ?」

「……何から取り返すんですか?」

「いや。その……そもそも鉱山なんてどこにある?」


 三者三様。

 確かにま、そりゃーなかなか壮大ではあるジェイスの話だが、聞き慣れないその話にそれぞれから口々に疑問の声が挙がった。

 え、ていうか、……ナニ?地元の人間、鉱山があるのを知らねえのか?


 どういう話ですかオイ。

 胡乱な視線をハゲオヤジに向けると、大真面目な顔をしていた。


「ああ。順を追って話そう。まずは大前提。確かにハリの疑問はもっともな事だな。“鉱山なんてどこにあるのか?”」


 え、そ、……本当にそっからかよ!?

 あんまり驚いたので肘を滑らしてころげそうになった。

 酷すぎる話のレベルにあごが外れそうだが、おなじくハリも阿呆らしいと思ったのか渋い顔で反論した。


「そうだ。そのとおり。この辺りに鉱山なんてものは存在しない。あるとすれば山を越えた先、国境を越えて龍皇国の領土だろうさ。」


 ハリは馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに鼻を鳴らしてジェイスを睨んだ。


「新しく鉱山が見つかった……とでも?」


「……おいジジイ。どういう事だ?」


「見つかった、とも言えるし、とっくの昔から鉱山はあった、とも言える。」


「「「はァ――――………?」」」


 こぉんの無茶苦茶な言い分には、流石に三人とも一斉に疑問の声をあげた。

 丁度いいので代表して俺が口を開く。


「オイオイ何言ってんですかぁ?!とうとうボケが始まったかぁんモウロクジジイ!緑の妖精さん達とみんなで輪になってダンスでもしてきたんですかァてめえサマはよぉ?」


「……アノナお前……。失礼な奴だなまったくてめえは本当によぉ。話はちゃあんと最後まで聞けや。」


「ケッ。知ったことかよクソオヤジが……!!まずその話を無駄に勿体ぶる癖を先になんとかしやがれってんだよ!ッッばーか!!」


 (うーん……ここぞとばかりにアニキはジェイスさんに言いたい放題言ってるなあ。)

 主人の態度に苦笑しつつラタトスクは暢気な感想を抱いていた。


「ふふん!気が短いのが無駄に苛々しているようだから、まあ手っ取り早く話を進めるとしようか。」


 (…………アニキもジェイスさんも……)

 (やれやれ。どっちもどっちだな……。)



 二人のやりとりにラタトスクは小さくため息をつき、ハリは軽く眉をしかめつつ苦笑いを浮かべた。

 咳払いを一つ入れてジェイスが話を戻す。


「ウホン。鉱山だが、実は昔から存在したんだ。」


「なにッ……!?」


 ジェイスのその言葉にハリが顔色を変え、真っ向から否定する。


「馬鹿を言うな!そんなもんがあるならいくら学の無い俺でも知らないはずがないぜ。いや、俺だけじゃない。この街の人間の誰に聞いたって鉱山なんて知らないさ。無いもんは無い!この街で一人でもドワーフの低い後ろ姿を見たことがあるか?いくら土地勘がないからってあんたらでもここがそういう町じゃないことはわかるだろう!?」


「おい、どういう事だ。」


 確かに鉱夫なんてこのあたりじゃ見たこともない。工匠ギルドのドワーフもない。

 ていうか……流石に鉱山がある所に行けばその話ぐらい耳に入るわ。

 まあハナからわかっていたことだがこのおっさんの話の方がどう考えてもおかしい。本当におかしい。


「……忘れられている、という事だ。」


「忘れられてる?鉱山をか?そりゃ驚きだな。俺達はよっぽどスカスカの天気頭らしい。」


 にわかには信じがたい話だ。ハリが半分馬鹿にしたように確認するのも無理ないだろう。


「まあ待て。先にこの辺の地理の話を確認しておこう。その方がわかりやすい。俺も最初は馬鹿にされてるのかと思った。必要なのは地理と歴史の知識だ。」


 あ、ダメ。そういうのダメなの俺。

 アカデミックな匂いを出されるとお家に帰りたくなる奇病なの。

 主にお許しを求めるべく天を仰ぎ顔を覆う。

 しかし明らかに様子のおかしいはずの俺を無視してジェイスは説明の続きを始めやがった。


「この町の先にはでかい森がある。この森の魔獣ってやつは妙に強い。しかもその上にアンデッドまで出やがるらしい。光も届きにくく昼でも薄暗い。もうなんか、そうわかりやすい、とってもわかりやすーぅい魔の森ってやつだな。特別な事情がある奴、ま、おおかた人に言えんような奴。それ以外は誰も近付かない。この迷惑極まる森の存在が、この町を辺境にしてる理由でもある。こんな森の近くじゃあ危なっかしすぎて、町なんか当然作りたくないからな。この辺の狭い範囲での経済圏じゃこの町は一番端っこになる訳だ。」


長い。長すぎる。ここぞとばかりに。

しかも話はまだ続くらしい。サイアクだ。


帰りたい。


「しかし実は貴族領の中心地から封神国の王都グラン・エスパダに向かって行くには森を越えるのが最短距離だ。流石に森をそのまま進むのは馬鹿のやることで、危険すぎるからちと遠回りにはなるが森を迂回して端に沿ってずーっと街道が伸びてる。それでも積み荷とか旅人が襲われたりするから、この街道を行くときは腕に自信が無いなら護衛を付けるのが当たり前の知識ってことだな。これがこの町が寂れててもなんとかやっていけてる理由であり、冒険者が集まってくる理由だ。そうだなハリ。」


「……ああ。」


ハリは一応頷いたが、正直関係あんのかそれ?っていう話だな。


「どぉーーぅでもいい話を長々と続けやがって……。」


ボソリと呟いた俺の言葉がグサリときたのか、一瞬言葉に詰まったジェイスがこっちを向いてため息をついた。


「お前な……。仕事の背景を知っておくことも大事だろうが。そんなだからいつも引き受けた仕事に厄介事が付いてくるんだお前は。」


「てめえに言われちゃ世話ねーよ。」


 ホントこいつにだけは説教されるいわれが無い。と、皮肉を言ったのだが、このヤロウ鼻で笑いやがった。


「はン。今だって森の魔物が強いってだけでも一つタメになる情報だろうがよ。まったくこいつは……。」


 ラタとハリの視線でまた話が脱線しかけている事に気づいたのか、顔を少し引き吊らせてジェイスが話を戻した。


「……まぁいい。それでだな。その魔の森の脇、ってか奥に、今回目指す鉱山がある。そういう話なんだ。」


「……重ねていくつか質問がある。」


「ああ。俺も聞きたい事があるぜ。山ほどな。」


「何だ?」


何だ?じゃねーよ。

モウロクジジイ。


「あんたの話は結局、昔から存在したが忘れられた鉱山が今になって見つかった、という事だろう。何故あんな森の中にある鉱山が見つかったんだ?あの森に好き好んで入っていく奴が居るとは思えない。偶然にしちゃ出来すぎだろう。」


「ああ。もちろん偶然じゃない。領主が冒険者に探させたんだ。あったものを探したから見つかった。それだけのことだ。」


「……なぁにふんぞり返ってんのか知らねえが、そこまで喋りゃあ、次に俺たちが聞きたいこともわかるな?“無い”ものをどうやって探す。どうしてその領主とやらは鉱山の存在を知っていたんだ。……ようするに、だ。その鉱山ってのは結局何なんだ?何を隠してる?知ってる事を洗いざらい話せ。いちいち問答すんのはいい加減、面っ倒なんだよ。」


 俺は顔をしかめてジェイスの野郎を睨んだ。

 今までの話は明らかに矛盾だらけだ。

 それを隠そうともしていないのは噛み砕いて説明をする用意があるってことだか知らねーが、しかしこう長話で関係なさそうな話を聞かされていると、核心を避けてのらりくらりと致命的な事を隠されているような気持ちにさせられる。

 それで俺がこの仕事の話に対して苛立ちを感じるのに十分だ。きな臭い、嫌ーぁな陰謀の匂いがわずかに鼻先をくすぐり回しているように感じる。

 考え過ぎ?このハゲに騙されすぎてんだからしょうがねえだろ。大体俺の勘はよく当たるんだよ。……嫌な予感は特に。


(ったく……とんだ災難だぜ。)


『この程度で災難?ハハハ。どの口がほざくのか。ジョークのつもりか主よ。』


(うるしぇー。黙ってろ。)


 心の中で吐いた溜め息にわざわざ茶々を入れてきたアホに仏頂面で返しておく。しんどくてユーモアをきかす気力もないわい。


 余裕のつもりかジェイスは苦笑いを浮かべて軽く肩をすくめた。


「俺は構わんよ。もともとお前達が話が長いとブーブー言ってるだけだ。隠す事など元から無い。何もな。ここの領主はな、ここら一帯の歴史資料を持っている。代々の領主、つまり彼の父や祖父達が編纂した、地図や収穫の記録、争いや自然災害、事件などの出来事の記録等だ。その中にこの鉱山の記録があったそうだ。二百年以上も前の話だが、稀少な魔石が発見され、鉱山が作られた、とな。しかし、鉱山はほとんど採掘もされずに打ち捨てられてしまった。そして今まで誰も目を向けもせず眠ったままだ。だから地元の人間も存在を知らないのさ。」


「――やはりそこが気になる。普通ありえない話だ。それこそどうしてだ?鉱山、それも稀少な魔石が採れるものなんて、一つの街の、いやそれ以上の規模で生命線になるような施設だろう。そう簡単に破棄されるような代物じゃないはずだ。」


「……戦争があったそうだ。大分昔のことだがな。それも都市一つが完膚なきまで破壊されるような……大きく凄惨な戦争が、な。鉱山もその過程で廃棄された。」


「戦…争……?!」


 思いがけなく重い内容に、全員の舌が一瞬止まる。都市一つが地図から消えるような戦争ならば、巻き込まれた人間の数は計り知れないぐらいだろう。

 ここにいるのは戦争で人が死ぬ話なんぞ聞き飽きてるような人間ばかりだが、まあそれでも舌に乗せて気分のいい話じゃねえわな。普通。


「……本当か?」


小さく目配せして真偽を尋ねると、ハリは頷いて重々しく口を開いた。


「この場所であった戦争の話か。ああ……確かに、聞いた事があるな。」


 さらに尋ねるまでもなく詳細を思い出そうとしているらしく、腕組みしたハリはわずかに眉間に力を入れ、拍を刻むようにトントンと人差し指で自分の腕を叩いている。


「封神国がまだ今ほどの規模じゃなかった小国の時代、この辺りは別の国の都だったらしい。」


考え事を続けつつ説明をならべていく。


「その国は封神国と盟を結んだ友好国だったそうだが、蛮族の国家とは度々争っていたそうだ。やがてその国と蛮族はとうとう国家を挙げて大きな戦争を起こし、共に力を失って衰退していく。この近く、……そうか、今で言うなら魔の森の中のあたりにあった都市は、戦争の最前線を担って破壊されたらしいって話もあったな……。今じゃ誰も近付かねえただの廃墟だが、僅かな廃都の名残が今でも森の奥にあるって話だ。……そして死にかけの二つの国は結局、版図を広げる封神国と龍皇国に吸収されていったそうだ。……ああ確かに教えられた。この辺の人間なら誰もが一度は聞かされてる昔話だな。俺達のルーツに関わってくる内容だが、地元の人間の少ないこの町じゃあまり知られざる歴史だよ。」


 ジェイスの言葉を裏付けるハリの話。どうやら大昔にこの辺りで戦争があったのは間違いないらしい。

 という事は、確かに今までのジェイスの話の辻褄があってくる事にはなるだろう。


「関わった人間のほとんどはその戦争で死んだか散り散りだ。生き残った人間にも鉱山を復活させる力なんてなかったし、その後も生きていくだけで精一杯だったろう。見つかったばかりの鉱山の事なんて忘れられてしまったのさ。きっと彼らも、戦争の舞台になった自分達の故郷の事は思い出したくなかったろうし、……な。」


 滅んだ故郷の記憶、ねえ……。

 ま、代替わりした今の人間にとってみれば覚えてもいねえそんな話知ったこっちゃねえわな。

 けけっ、しかしそしたらよぉ、やる事は墓暴きとあんまし変わらねえんじゃねえか?

 忘れてるんだから構わねえってか。まあそうかよ。そりゃあ、な。そりゃそうだろうさ。


「やがて再び交易路としてこの地に町が作られる事になる。その時集まってきた人々には戦争で散り散りになった人々も居た。彼らを纏めたのが今の領主の祖先だそうだ。それが鉱山が一度忘れられ、もう一度見つけられるに至る話の顛末さ。」


随分とまあ……、手の込んだ話だ。


「なるほど。おおかたは理解した。てめえの言ってる事がまあ案外筋が通っていやがることもわかった。で?結局聞きたいのは仕事の話だ。奪回なんつー大げさな表現していやがるが、つまり俺達は何をすればいい?」


既に冒険者を集める理由が見えているので呆れすら込めて聞いてやる。


「まあその、俺達のやることはあれだ。つまりはいつもどおりの魔物退治だな。鉱山までの安全を確保するために森を切り開く。その間寄ってくる魔物から作業する連中を守る役と、先導して鉱山までの魔物を蹴散らす役の二つだ。」


……結局それかよ。


「わざわざ無駄に回りくどい言い方しやがって、長話じじいが。“魔物が邪魔だから片付けろ”なんてのは普段やってることと何も変わりゃしねえじゃねえか。だーからてめえの話を聞くのは嫌なんだよ。」


「む。……だが他に上手く伝えられる言葉もない。確かにお前達にとっては単純な魔物退治かも知れないが、しかし鉱山が使えないことには意味がないことをしっかり頭に入れておけ。」


「……他の冒険者も使うんだろ?アホばっかりの連中にそんな事理解出来んのかぁ?」


「領主の軍兵が統率をとる。まあ正直冒険者には寄ってくる魔物を蹴散らしてもらえればそれでいい。」


「俺の存在は完全に算盤づくじゃねーか……。」


「最初からそう言っとるわ。仕事で呼んだのにお前が嫌だと言って聞かないからわざわざ賭けまでやって決めたんだろが。」


「うぐっ……!」


 二度と思い出したくない賭けの話を思い出さされて、呼吸が一瞬止まりそうになった俺は顔中にシワを浮かべることになる。

 立ち上がったジェイスがその肩を軽く叩いた。


「わざわざ腕利きを探してお前を呼んだんだ。森の奥のアンデッドの中にはデュラハンが居るという話もある。……頼んだぞ。」


 え?今ので話終わり?やったー!

 店の奥の階段から自分の部屋に引っ込もうとするジェイスの背中を見て心の中で喝采をあげた。

 一応もういいのか尋ねようとした俺だが、後ろから驚いたような声があがってびっくりした。


「……デュラハンだとっ!?」


「ぐおぉ!びっくりしたぁーっ!いきなり叫ぶなよ!?舌噛んだじゃねーか!」


「あ、悪い。いや、それよりサガ、お前はデュラハンに当てるために呼ばれたっていうのか!」


「…………聞いてねーぞ。っていうか……なんだそりゃ?」


 ドゥラ……ハーン……?

 面白い勘違いしてやろうかと思ったが似たような言葉すら聞いたことがねーよ。


「……お前……デュラハンを知らないのか?」


「そうですよアニキ!凄く強い魔物なんですよ!」


 ハリはともかくラタまで信じられないような目で見て来た。流石に焦る。


「げげ。マジか。どんな奴だ?」


「教えてあげて下さいハリさん。」


「知らねーんじゃねえか。」


 手を伸ばして横に居るアホの頭にゲンコツを入れる。めちゃくちゃ軽くやったがラタは「いたーい!!」とか震えながらうずくまっている。貧弱すぎる。


「ったく、何の為に出てきたんだてめえは。」


「だって出番が無いから……。」


「身も蓋もないことを言うんじゃないのこの娘は。」


「……やだなーもう。なんか疲れたなー。」


 何かこの空間にいることにむなしさを感じるような発言にツッコミを入れると、ハリも似たような感覚を味わったらしくしまりのない顔を浮かべていた。

 それでもまあ一応、帰ろうと言い出しはしないこの男は義理堅いのか暇人なのか。

 おっさんのような溜め息をついて口を開いた。


「やれやれ。まああれだ。一応説明してやる。もののついでに。デュラハンな。」


あ、なんかすんません。

……………いや待て。


………まだ、続くんですか?説明回。


これ、バトルファンタジーですよ?

俺、一回も戦闘してないよ?

リロイ・シュヴァルツァーならもう三回はチンピラを泣かせてるよ?


戦わせろよ。




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