ああ酒のまずい話ィー
「ぶっ……!くくっ……、ぶはははは!!そ、そんな理由であんなにボコボコにされてたのか!?いや、なんつうか……、色々とすごいな、あんたら。」
「いやいや、すごいのはボコボコに殴ってた奴の方だけだろ。普通あそこまでやる前に素面に返るぞ。」
ラタの下から救出された俺はこんな状況になった経緯を聞かれたので答えてやると、すかさず爆笑された。
ラタの方は恥ずかしさで半ば硬直したままなので反論もない。いい気味だ。
まあ確かに下らねえ理由で殴られてたと俺も思う。まことに思う。
「……ところで兄さんよぉ、俺に話ってのは何なんだい?」
ラタにびびりまくってた事など無かったかのようにけろっとしたジェイスが真面目ぶったツラで質問する。こいつにはこの銀髪の男が話してた内容がまったく聞こえてないからな。
……そもそも元はと言えば全部こいつが悪いと俺は思っているので、ことが終わったら絶対痛い目にあわせてやりたい。
人食いザメの泳ぐ海域で遠泳とかさせてやりたい。もしくはゲイしかいない刑務所で一日働かせてやりたい。
……叶わぬ夢か。想像するだけで楽しいが。
でもやっぱり後でそういう所が無いかさーがそっと。
「あ、ああそうだ、それが大事な話って奴だぜジェイスの旦那。」
元々用があった人間に呼び掛けられ、未だ半笑いの顔をかみ殺しながら、慌てたように男がジェイスの方を向く。
「あんた今、人を集めてでかい仕事をしようとしてるだろ?その仕事の話を聞いてすっ飛んできたんだ。俺は、ハリ。なあ旦那、俺もその話に混ぜてくれよ?聞けば頭数は多い方がいいらしいじゃないか。」
ハリと名乗った男は小物っぽい薄笑いで顔を歪め、なれなれしさを感じさせる仕草でジェイスに呼びかけた。
対してジェイスは値踏みをするように男を見つめる。そして言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。
「……どこで話を聞いたのか知らんがな兄さん、今回の仕事は……結構な荒事だぞ?しかも大怪我しようが治療費なんぞ当然ビタ一文も出ねえし、それで足手まといになりゃあ報酬もカットだ。……リスクを考えりゃあ美味い話かどうかは意見の分かれるところだ。そこんところは、わかってんのかい?」
ぱっと観察しただけでは男を計りかねるのか、それとも何か今一つ腑に落ちない事でもあるのか、ジェイスの口から出た内容は慎重な部類に入る。
ネガティブな話題で反応を見ようといったところか。
人を集めるのが目的のスカウトの対応として、様子見という事はかなり難アリの方向で判断しているのか?
「く、はっはっはっ!」
しかし男はその話を軽く一笑で済ませた。
「旦那ぁ、あんたは街の方じゃ名の売れた仲介人らしいが、こんな田舎のごろつきどもが何を考えてんのかはわかってないみたいだねえ?」
姿勢を崩し、半ば媚びるような表情から一転、にたにたといやらしい笑みを浮かべて饒舌に喋り始めた。
「俺達みたいなのはもらえるもんがでかけりゃあ別にそれでいいんだぜ?リスクなんて知ったこっちゃねえワケ。そーんなもんを計算するなんて難しい作業はできねえようなボロ頭ばっかりなもんでねェー。……どうせ命を大事にしてもこんな所にゃ地べたに這いつくばるような暮らししかねえんだ。勝てばよし、負ければそれまで。命が軽いのが冒険者のいいところじゃねえのかい?なァ……ダンナ?」
な~んとまァー。そりゃーもう鬼の首をとったような反応ですけども?だが、ジェイスはそこには何も触れなかった。
「……みんながみんなお前みたいに割り切った腹の決め方じゃない、と、思うがな。」
ただそう独り言のように言ったジェイスは、言葉を切って懐から煙草を取り出し火を付けた。
しばらく煙草に口を付けたあと、おどけるように一息に煙を吐き出してから言葉を続ける。
「まあ安全なんぞ保障されてねえのがわかってるならいいだろう。まさに人数は多い方がいいってな話なんでな、やってもらおうじゃねえか。」
真正面からのジェイスの視線に、男はにたり、と口の端を吊り上げるような笑みを返した。
「さすが、話がわかるね旦那。」
どこぞの軍師様のようにあごに手をやって薄く笑うハリに、ジェイスは一つ鼻で笑ってから話を続ける。
「……契約書は明日にでも、だな。じゃあとりあえずだが、先に仕事の内容を説明しておく。サガ、お前も聞け。お前もこの仕事の中で動いてもらう。」
「……ちっ。やれやれだぜまったくよぉー。」
断るっていう選択肢がどっかの誰かさんのおかげでなくなっちまったぜ。ったく。
「――え。ジェイスさんの依頼を受けるんですか?いっつも嫌だって言ってるのに。」
「依頼を受けりゃ賭けの負け分はチャラなんだとよ。それこそうまい話かは意見の分かれるとこだがな。」
唇を尖らせながら俺が告げた交換条件を聞いて、ラタも複雑そうな表情を作った。
「……ああー……。」
「わざわざこんな回りくどい真似してまで俺を連れ出したいとは光栄なこった。一体どんな厄介事が待ってんのか楽しみで今晩寝れねえよ。」
目を伏せて半ば引きつった笑いを浮かべるラタと、わざとぶっさいくに顔を歪めて皮肉を舌に乗せる俺の姿を見て、ジェイスが口を開く。
「そうふてくされんでもいいだろが、みっともない。安心しろ、無茶は言わんさ。」
けェーッ。
落ち着き払ったジェイスの態度にはこの場で痰でも吐いてやりたい気分だ。
「よく言うぜ……。」
渋い顔になっているだろう俺の反応を無視して、ジェイスは説明を始めた。
「今回は文字通りかなり大規模な仕事になる。事実上、近隣の冒険者で手の空いている人間はほぼ総動員だ。」
その言葉にハリはにたりと笑いを深め、俺はわずかに眉をひそめた。
今現在手の空いている人材だけとはいえ、それだけの規模で人員を投入できる経済力と影響力を持った雇い主は当然相当に限られる。
たぶん本当にここら一帯の領主だろうが、その地位にしたってあほの方に組分けされる連中じゃ無理だ。力だけでなく、これだけの大仕事を動かしてなお利益を生み出せる事業計画を用意できねえだろう。
つまり裏を返すと、俺にとっちゃあますますきなくさい仕事の匂いがするってこった。
有能な金持ちに尻尾を振れんのは、うだつの上がらねえ冒険者にとっちゃあおいしい話なのかもしれねえけどな。正直俺には関係ねえ話だ。
善悪問わずとりあえず金持ち嫌いだし。
それぞれに思惑を込めた(何も考えてなさそうなラタを除く。……一丁前に眉間に皺寄せやがって馬鹿たれが。頭ぐりぐりしてやろっかなー。)沈黙を飲み込んで、ジェイスは告げた。
「俺たちの仕事は、死霊渦巻く森を越えた先、――エスケレト鉱山の奪回だ。」
「……鉱山の、」
「奪回だと……?」
成る程、聞き慣れない仕事の内容に、俺とハリはそれぞれ眉をしかめつつ、疑問の声をあげた。
超久しぶりの更新です。
もしこの話を楽しみにしてた人がいたらごめんなさい。
さすがに半年以上待ってる人もいないか
こんなに時間が経ってるとキャラもちがうんじゃないか心配です
こいつもまたちょくちょく更新しようかとは思ってます。無責任な作者ながら。
いやしかし墨染もお姫様も勇者もあるしのう。墨染、墨染か…好きなんだがお客様の反応が…
しかもスイッチなんか前フリだけで放置とか外道
ああー素敵な新連載ー
新連載のゆーわくー
まあ実は一番筋道考えついてるのが半年放置のこれだったりするので作者のやる気次第ではサクサク更新される可能性もあります。
というかします。ええ。頑張ります。
それが作者に残された道ですから
努力これ正義
弱音ばかりのウザいあとがきですがもはや一年分のうじうじが詰まっていますけー許してください
……後であとがきだけ消せるのかなこれ
どうかせめて目を通して下さった方に楽しい時間を提供せん事を
わがままな作者の願いです。