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エピソード±0 始まり

 その後、体育館裏に僕たちは未だにいた。

 長野さんが泣きやんで、落ちついたところで長野さんは口を開いた。


「あ、あの……篠井コウタさん」

「あ、コウタでいいよ?」


 篠井とはあまり呼ばれないからなあ、出来れば名前の方が呼び慣れているというか。

 あと、せっかく……付き合ってるのに他人行儀だしね。


「え、じゃあ……コウタ、さん」

「うん、よろしくね。長野さん」


 僕の名前を呼んでくれた後、長野さんは直ぐに。


「……あの、私も名前で呼んでもらえると――」


 長野秋さん。聞いたその通りなら、そのはず。


「アキ……さんだよね? 間違ってたらごめんね……って長野さん、どうしたの!?」

「私の名前……知ってくれていたんですね」


 長野さんは途端に涙を浮かべてしまう、泣き易い子なんだね……その泣き顔も可愛い。

 って思うのはダメだと思うけど。


「じゃあ、アキさんでいいかな?」

「はい! コウタさん……それで良かったらメールアドレスを交換してもらえませんか?」

「うん、もちろん。えーとね――」


 そうしてアキさんとメールアドレスと電話番号を交換した。

 アキさんは交換し終わった自分の携帯を、それはやんわりとした笑顔でまるで宝物のように両手で包みこんで胸の前に置いていた。

 その仕草仕草一つが可愛らしく思えた。


「宜しくお願いします、コウタさんっ」



* *



「おっはよー、コウちゃん」

「おはよ、ユイ」


 いつも通りの登校だった。だったのだけど……僕に彼女が出来たのは話すべきなのだろうけど、なんとなく恥ずかしかった。

 広野君や佐藤君と違って、あまりにも長い付き合いなばっかりに少し迷ってしまう。歓迎してくれると……嬉しいのだけど。 


「あのさ、ユイ」

「なに?」


 ……ちょっとまって、やっぱり言葉は選びたいかな。


「ううん、ごめん。なんでもない」

「そう?」


 近いうちに絶対に言おう、うん。これは絶対に――そう思っていたんだ。

 学校に着いてみると、校門前に彼女が居た。


「あ、おはようアキさん」

「おはようございます……コウタさん」


 僕は校門で……待ってくれたのかな? そう挨拶をした。


「(隣の女性は一体どちら様なんでしょうか?)ごめんなさい、勝手にお待ちして」

「いや僕こそごめんね、待っててくれてありがとね」

「(結構に親しいようなのですけど)はいっ」


 微かにボソボソとアキさんが瞳を暗くして喋っていた気がするけど、気にすることじゃないよね。

 すると僕とアキさんを交互に見ていたユイが口を開いた。


「……コウちゃん、そういえばその子って誰? コウちゃんの新しい友達だったり?」

「あ、うん。言ってなかったね――」

 

 見られてしまったというより、やっぱり紹介はしないとね。僕が彼女について言おうとしたところで、


「あ、あの。私はコウタさんの……彼女ですっ」


 先を越されてしまった。

 自分で言わなきゃいけないんだけど……情けないなあ、僕。じゃあユイの反応はどうだろ?


「え……」

 

 ユイの表情はどこか変だった。驚くにしては驚きすぎている、まるで有り得ないことを聞いたかのような。


「え、コウちゃん? それ、本当なの?」

「うん、アキさんは僕の彼女だよ……って言っても昨日付き合い始めたばっかりなんだけど――」


 そう聞き終わる前にユイは、


「そ、そうなんだ。おめでと、コウちゃんっ」


 そうしてユイは言い残すと先に昇降口に向かって行ってしまった。彼女がどんな顔をしているのか見ることも出来ないほどに、急いで。

 この出来事を最後に、ユイはいつも休み時間には来ていた僕らの教室に来なくなった。



* *



「は」


 僕は次の日、広野君に話した。僕に彼女が出来たこと、同じクラスの長野秋さんであること。

 すると広野君はまたしても表情が強張った。


「コウタ……そいつぁヤバい――ぬっ!?」


 そう僕に何か言いかけた途端に寝てしまった。広野君のことだから女の子とのデートコースを考えたりとかしたんだろうなあ、もしかしたらそれで寝不足かな? 寝不足なら仕方ないよね。

 きっと広野君は「そいつぁヤバい、ぐらいの可愛さ」と言っていたのだろう、流石女の子を見る目だけはあるよね広野君!

 佐藤君にも話してみたところ、血の気が引いて。


「彼女は危険だ――っ!」


 何かに追われるように逃げ出すと離れた場所から断末魔が聞こえた。声を上げたからもしかしてお腹の調子が悪かったのかな? 結構佐藤君は辛いもの好きだから、仕方ないよね。

 きっと佐藤君は「彼女は危険だ……なぜなら、競争率が激しすぎるからな」なるほどー、あんなに可愛い子がモテないわけないもんね! ……でも、なんでアキさんは僕はなんだろう?


「コウタさん」


 僕の名前が呼ばれたので振りかえると、そこにはアキさんがいた。


「……邪魔者は除けましたからっ」


 笑顔で彼女はそう言った。


「(言ってる意味は分からないけど、可愛い笑顔だなあ)」


 ――――ってないからないから!

 そこまで僕は阿呆じゃない、ここまで友人が続いて倒れるなんて。それもアキさんのことを話題に出した時に丁度。

 そういえば、昨日も些細とは言ってたけど広野君の様子も変だったし。


「(もしかして)」


 もしかして彼女は――


「これからはずっと一緒ですよ、コウタさんっ」

「はいっ」


 独占欲が強い女の子なのかな? なんか……アキさんがそうだと思うと可愛いなあ。


 ――――可愛いのは否定しないけど、何か違う!

 朝もユイと話している間とか、あまり機嫌が良いようには見えなかったし、それにそういえば教室で感じる視線もアキさんと付き合いだしてから変わった気がする。

 というかもしかしてあの視線って……アキさんだったの?


「(これは……)」


 確か聞いたことある。これは――ヤンデレってヤツかな? 

 好きな人に基本はデレデレで、好きな人を脅かすような他の要素について牙を剥いたり、好きな人をそのことについて問い詰めたり。


「(あ、でも問い詰められたりしてないから違うね)」


 なーんだ、やっぱり可愛い彼女じゃないか。色々考えて損したなあ。



* *



 ……まあ、本当は色々分かってるんだけね。ちょっとだけ逃避してみたかっただけ。

 彼女が僕を好きな気持ちは十二分に伝わってくるので、広野君と佐藤君には悪いけど――ヤンデレであろうと気にしません!

 そうして僕とアキさんのちょっと不思議な学園ライフが始まったのでした。


「あの、コウタさん。お弁当一緒にしませんか?」


 ちなみにこの初お弁当は一緒にお弁当を食べただけでした。

 食べさせあいっこのようなことをしたのは、もうちょっと先の出来事――

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