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エピソード2 席替え

 それはロングホームルームのある日のことです。

 月に一回はクラスでの長い自由時間であるロングホームルームを利用して席替えを行っています。

 アキさんと付き合い始めたのが四月の終わりの四月二十九日で、五月にさしかかる前日である四月三十日金曜のロングホームルームに席替えが行われることになりました。


「(少し恥ずかしいけど、アキさんの近くの席だといいな)」


 そんな希望を胸に、僕は当日の席替えの時を迎えるのですが。


「(ああ……やっぱり)」


 くじ引き。至極、厳正な決め方です。


「(でも僕はくじ運がないからなあ)」


 商店街での福引では残念賞であるティッシュより一歩手前の醤油の小瓶だけが何度も当たったし、遠足のバス席では毎回酔いやすい後部座席。

 懸賞が当たったことは一度もなく、友人が少ないというのに今までの席替えでは友人とは遥か彼方へ飛ばされ、それも廊下に面した場所の柱部分。

 あまりくじ引きでいいものを引き当てた記憶はなかったりする。


「(というかアキさんと付き合えたことで、もう一生分の運を使い果たしたんじゃ――)」


 そう思ってくじ引きを行う為に席を立って、教卓の前へとやってきます。


「あ、ちょっと待て」


 これを引けば、と言おうとしたところで強面の担任教師に呼び止められて手をその空中で硬直させてしまいます。

 担任教師は袋の中身をじっと確認します、あまりシャッフルがされていなかったのでしょうか? 

 それでも、何故か担任教師の表情は強面とはまた違って強張っているようにも思えます。


「……先生?」

「だ、大丈夫だ! よし篠井引け」

「あ、はい」


 言い忘れていましたが僕は篠井コウタです。

 背は平均的で、細っこく影が薄めで特徴の無く冴えないのが僕です。

 

「き――」

「九番だな、よし」


 僕の引いた紙を速攻見たのか、すぐに席をあらわす表の書かれた黒板に名前が書かれていきます。

 ちなみにこのクラスは三十六名で、六×六の席配置になっていて、僕は前から三番目窓側から二番目の位置。

 黒板も見やすいし、悪くない席だと思う。


「じ、じゃあ長野」


 ちなみに……え、えと僕の彼女は長野アキさんと言います。

 長い黒髪しなやかでちょっと小柄で可愛らしいそんな彼女さんです。


「はい」


 一番前の席という、教師に近ければ指名率もおのずと高くなるこの位置はあまり好きではありません。そんな席に戻って、見えるアキさんの姿を横から見ます。


「(本当に彼女が僕の彼女さんなんて信じられないや)」


 やはり彼女は少し小柄ではあるのですが、かなりの美人さんなのでした。

 昨日の今日のことで浮かれ過ぎかもしれませんし、もしかしたらお遊びでした――なんて発想が浮かんでくる辺り、僕は相当なネクラです。

 そう悪い方へ悪い方へと発想が行き始めたその頃でした。


「コウタさんっ、お隣ですよ!」

「え、そうなの」


 内心かなりに喜んでいますが、恥ずかしいですからつい抑えこんでしまいます。

 しかしその間にも彼女は気付かぬ内に沈んでいって――


「……私が隣じゃダメだったのでしょうか」


 それに少し涙目です。え、なんでという感想の前に、ちゃんと僕の意見を――


「嬉しかったですよ! ぼ、僕もアキさんの隣に座れて嬉しいです」

「よ、よかったぁ……」


 安堵するアキさんも可愛らしく、見惚れてしまいます。このまま毎日彼女を近くで見ていられると考えると、嬉しさがこみあげてきて仕方がありません。


「…………」


 ただふと顔を上げた先に見えた担任教師が少し青ざめていたのは何故なのでしょうか?

 こうしてアキさんは僕の右隣の席になりました。



* *


 

 六月の初めです。

 ロングホームルームの金曜に合わせて、また席替えの時です。


「(あー……もしかしてこれでアキさんが隣にいる生活も終わりかなあ)」


 そう思うと今行われるであろうこの席替えが、少し残念です。

 しかし、奇跡は起きるもので――


「コウタさん、また一緒の席ですね!」

「本当だ! すごい偶然だね!」


 位置こそ、前から四番目廊下側から三番目へと変わりましたが右隣にはアキさんがいます。


「嬉しいです。これからも……よ、よろしくお願いします」

「こちらこそです」


 こうしてまたアキさんが右隣にいる学校生活が再スタートしました。

 少し気になってはいたのですが、担任教師が青ざめていました……温度変化が激しいですから風邪でしょうか?



* *



 七月の初めです

 またこの時が来てしまいました。


「(今度こそ終わりだよね)」


 三度も、こんなに幸せな事は続きません。そう分かってはいるのですが、


「(せめて近く席でありますように)」


 と願ってしまいます。しかしその願いは裏切られました――いい意味で。


「コウタさん、一緒です!」

「びっくりした! 本当に一緒だね」 

「はい……運命を感じます」

「う、うん」


 運命なのかもしれない、普段ネクラな僕がそう思ってしまう程のラッキーでした。

 こんなことがあっていいのだろうか、何か悪いことの前兆なのだろうか――そう思う事さえ忘れて喜んでしました。

 ああ、夏休みまで短いけれどずっとアキさんと一緒なんだ……と考えて胸が熱くなります。

 

「これからもよろしくね、アキさんっ」

「はい! コウタさん!」


 ちなみにこの日は担任教師は休みでした、前日から体調が悪そうでしたね。

 そういえば今代理で来ている副担任もどこか、調子が悪そうですね……顔も青ざめていますし。

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