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エピソード-α・10 私のこと、彼のこと、今後のこと[終]

 やってしまいました。


「あー……」


 どこかいつもよりもおぼろげな視界の先にあるのは体温計のデジタル数字でした。

 三十八度九分、立派な高熱ですね。


「けほっけほっ」


 思わず咳が出て、咄嗟に口を手で押さえます。


「これでは学校に……行けませんね」


 今日はいつもよりも寝起きが良くなくて、身体を引きずるようにしてリビングに来て、小物が入った引き出しから体温計を取り出して――

 現在に至ります。


 思わずリビングのソファに座って、ぼうっとします。

 まるで今も夢の中なのではないかという錯覚の中で、景色が滲んで見えます。

 現金なもので、体温計で具体的な熱の数字が分かった途端に頭が痛みだしました。


「っ……」

 

 右手で思わず頭を押さえてしまいますが、何の意味もなく視界ふらふら頭痛は止まりません。

 体の火照りを自覚して、怠さも加速して、どうにも不快な違和感に満ちた感覚ですね。


「結構辛い……ですね、これ」


 呼吸も荒いかもしれない、そして途端に堪え切れずに咳き込んで。


「こんなに……苦しいものでしたっけ」


 風邪を侮っていました、少なくともここ数年はここまで高熱を出しませんでしたから。

 

「でも……これもまた」


 良いのです!

 おそらくは河原でのゴミ拾いを続けたのがまずかったのでしょうが、これもコウタさんの為ゆえのこと!

 コウタさんが気持ちよくを絵を描く為の風邪ぐらい、どうってことはありません!


「電話した方がいいでしょうか……」


 いいえ、それは止めておいた方がいいでしょう。

 確かにコウタさんの声は聴きたいですが、こんな風邪をひいた私の声を聞かせたら不安にさせてしまうかもしれないですから。

 心配してくれるに決まってます、もしかしたらお見舞いに来てくれるかも!? という都合の良い考えも巡ります。


 看病……コウタさんによる看病……魅力的ですね。


 この時の私の思考はすでに熱のせいでおかしくなっていたのです。

 言っていることが支離滅裂になりつつあります。  


「けれど、少し残念です……ね」


 だって、コウタさんに風邪を移さない為にも学校には行けないのですから。

 コウタさんに会えないのはとても残念です。

 ……というよりあの幼馴染が何かコウタさんにするのではないかと、少し勘ぐってしまいます。


「…………」


 ……コウタさんを守る為に身体を動かして、自室に戻ると学校の準備を整えました。

 すごい気怠いですね、行きたくないと身体が訴えてきます。

 けれどもなんとなくパジャマを脱いで、なんとなく制服を着ます、一応カバンも用意します。

 ですが、夢の中のようにぼやけた視界で果たしてちゃんと出来ているのかどうか確証が持てません。

 

 それでも、どうにかしてコウタさんに会いたいと頑張ってしまうのです。


 さっき風邪を移したくないと思っていたはずなのに、今はとても会いたくて仕方がないのです。

 これは風邪で心細くなっているのでしょうか? 風邪ゆえに理性が暴走しているのでしょうか?


「けほっけほっけほっ」


 咳き込みやすくなり、いよいよ辛くもなってきて、壁に手を付きながら再度リビングを目指します。

 いつもより歩く廊下が長いです、というより少し歪んで見えます。

 やっとのことでソファに身体を傾れかけて、手元にある体温計で再度測ることにしました。


「……上がってる」


 三十九度二分、順調に熱が上がっています。

 頭の痛さは最高潮で、視界もなんとなく前方が見える程度にぼやけて、息を切らしているわけですね。

 

「はぁ……はぁ」


 体の火照りだけでなく寒気も押し寄せてきます。

 とっても気持ちが悪いです。


「会いたいです……コウタさん」


 そんな身体を引きずって、どうにか歩き出します。

 朝食なんて考えている余裕もありません、風邪薬を飲むという考えもなく、制服もきちっと着れているか怪しいです。

 カバンの中身の教材の確認さえしていません。


 コウタさんと会いたいという想いだけで、歩みを進めて玄関にやってきました。


「コウタさん……」


 そして玄関の鍵に指をかけて、ドアノブを回した瞬間に。


「あ――」


 力尽きました。

 扉にもたれるようにして倒れこみます、幸い崩れ落ちるように倒れましたので、どこも強打はしていませんでしたが――

 限界でした、記憶の中のコウタさんを思い浮かべながら視界は黒く染まっていきます。


 誰にも気づかれることなく、私は夢へと落ちていくのです。



* *



 それは、夢だったのかもしれません。

 もしかしたら記憶だったのかもしれません。




 

 私はずっと一人でした。



 親はもう居ません。

 別に死んだわけではありませんが、両親は双方の浮気が原因だかで離婚して子供の私を押し付けあった挙句に、お金だけを私に送る父親と、私を預かると言いながらも結局は実質私と別住する母親。

 そんな母親は新しい人を見つけてからは顔を出すこともなくなりました、お金だけが父親から送られてくるだけになりました。


 それからは本を読んだり、テレビを観たりで覚えた家事、あとは親戚の叔母さんだけ。

 親戚の叔母さんは良くしてくれますが、遠くに住んでいるので会える機会は少なくて、いつも一人でした。


 学校に行けば男の子の友人は居ませんが、女の子の友人は居ました、けれどどこか壁があったのです。

 きっとこの関係も学校を卒業してしまえばあっさりと終わってしまうことなんだろうなあ、と冷めていたのかもしれません。

 実際はといえば、優しくていい人達で小学校から高校まで仲良くしてくれているので、単に私が荒れていた上に非情だっただけです。

 話に出る、あの男の子がかっこいいだのあの服が可愛いだのの話題には簡単な相槌で済ませていました。

 

 幼い頃、物心ついたころの両親というものはとても仲が良かったのです。

 それを覚えているからこそ、そのあと両親の変わりように心底失望しました。

 それが原因で特に男女の関係がウンタラなど、内心ではかなりどうでもいいというか、正直嫌いな話題でした。



 友人とちょっとしたことで喧嘩をした帰り道に怪我をしました。

 転んだのか、自転車にはねられたのか覚えていませんが、怪我をして地面にぺたりと座って傷を押さえていました。

 別にそれが痛い痛いアピールというわけでなく、実際あとあと捻挫していたことが分かるので痛くはあったのです。


 けれど誰も手を差し伸べることなく、見なかったフリをして通り過ぎていく中で心の奥底で渦巻いていくのです。

 ――他人なんてそんなものですよね、例え痛がっていようが、触れるのは面倒でしょうし。

 冷め切っていました。

 母親が家に一切来なくなった挙句に知らない他の男とイチャイチャしていた場面を目撃していた後であり、先ほどの喧嘩も手伝って心底、黒い感情が溢れ切っていました。


 私って、いらない子だったんだろうね。


 このまま維持でも動かない、テコでも動かない、きっと声をかけてくるのは下心しかない人間だと思い込み始める。

 そんな時に、差しのべられた手は――


「大丈夫ですか!?」


 その声の先を見上げると、少し私より身長が低いぐらいのなよなよ系? な男子がいました。

 そういえば見覚えがあります、中学のクラスにこんな顔をした男子がいたはずです。

 名前を探っても、思い当たりませんでした。


「……別に」


 差しのべた手を払いのける、すると男子は少しションボリしたような顔をする。


「……怪我してるよ?」 

「気にしないでください、ほっといてください」


 ピシャッと切り捨てる、けれど今思えば構ってほしかったという感情がないわけではなかったのでしょう。


「気にするよ」


 と、どこか真剣な面持ちで言った途端に。


「っ!?」


 私を抱き起し、更には両腕で抱き上げました。


「な、何してるんですか!? 勝手に触れないでくださいっ、痴漢・変態・変質者!」

「まあまあそう言わずに」


 私よりも身長が低いはずの男子は、言葉こそ穏やかなものの、真剣さに満ちていました。


「降ろしてください!」

「とりあえず学校の保健室まで運びますね」

「聞いてください!」

「んー、まだ保険の先生いるといいんだけど」


 穏やかというかのんびりとした話し方というのに、聞く耳持たず、腕の力もそれなりに合って、そこで私は恐怖さえ覚え始めるのです。


「……な、何が目的ですか」

「目的?」


 そう聞くと、なんとも不思議そうに首をかしげるのにイラッと来て。

 

「では、何かのお礼目当てですか?」

「お礼かー、んー別に」


 その顔は嘘を言っているようには見えない、けれどそれが信じられるわけもなく、私はどうなってしまうのだろうと、考え始めます。

 叫びをあげるべきか、助けを求めるべきか、と。

 いえ、このままこの男に好き勝手やられてもいいや、とも思い始めていました。

 冷めて、荒れている私は半ばもうどうにでもなれという思いで抵抗を諦めかけていたのです。


「でも、僕がこうしてる理由なら言えるかな」

「…………」


 別にその男の答えが気になったわけでもなく、黙っていました。



「慣れ、かな」



 その一言には、思わず口をぽかんと開けました。

 何を言っているのだろう、というか何が慣れなのだろうと、疑問符が上がり続けます。


「いやー、僕の幼馴染の女の子とは喧嘩をよくするんだけど、あっちが一方的に怪我することが多くてね。結局僕がこうしてお姫様だっこで抱えて行くんだ」

「はい?」

「なかなかに野性的な幼馴染故に運ぼうとするために腕の中で暴れるんだけども、特にドクプ飲んだ時はやばいんだ。けども慣れてきちゃってね。そっとのことじゃ抜け出せないように、僕も力を付けたんだ」

「……???」


 突然の身の上話に、私も困惑します。

 より一層なに言っているのだろうこの男は、と恐怖心が募り始めました。

 もしかして本当に危ない人なのでは? とも思い始めます。


「腕の使い方によって編み出した、対幼馴染用っ! 怪我した女の子を無事保健室に送り届ける為だけの能力”天使の揺り籠”という力をね!」

「……意味が分からないんですが!?」


 というか本当に抜け出せない!?

 え、単なるお姫様だっこのはずですのに!?

 どうして、特に身体を掴んでいるわけでもないのに降りれる気がしません!

 

「まあ、そう言わずに。痛くしませんから」

「構わないでください! やめてください! いやー!」


 ついには叫ぶものの、なんと誰も周囲に居ない!

 通学路なのに、本当なら人通りの多いはずの道のはずなのに、なぜ今日よりにもよってなんですか!


 男の腕でもがきながらその時、私は色々と覚悟しました。

 ひょっとしてひどいことをされるのではとか、もしかして最終的には……死!?

 などと考えて思わずパニックになりそうだったのに、なぜかでした。


「(あれ……)」


 なぜか落ち着いてきました。

 怒りや恐怖などがすっと抜け落ちて、なぜか安心感を覚えます。

 本当になぜか分からないんですが、安心してきました。

 薬でも盛られたのでしょうか、よくわからないツボを押されたりしたのでしょうか、などと考えていても次第に降りる気は無くなっていったのです。

 

 実際目の前にある男の顔が真剣そのものであったからでしょうか?

 そしてよく見れば、どこか可愛らしい顔つきですね、などと思い始める様になります。 

 もう自分でもよくわかりません、彼を糾弾する気が一気に失せていきました。





「川中先生、長野さんが怪我していましたので連れてきました」

「また拾ってきたのか……って、今日は久々に美桜じゃないのな」

「はい、クラスメイトの長野さんが通学路で怪我していたのを見つけましたので」

「……で、拾ってきたのがこの長野か」


 本当にあのまま中学校の保健室に来たかと思うと、ベッドにそっと丁寧に寝かされました。

 そのあとの保険の川中先生と彼の謎の会話に、ベッドに寝かされた私は混乱し続けています。

 すると川中先生がこちらに顔を向けるなり話しかけてきます。


「長野、突然のことにビックリしただろ?」

「え、あ、はい」

「だろうな、せめて拾ってくるのは知人にすべきだ篠井」

「つい、ですね」


 拾ってくる? 私助けるとかでなく、拾う? 物扱い!?


「え? え?」

「あー、そうだな。長野、コイツはいわゆるボランティアみたいなもんで、人畜無害だから安心していい……って、もしことがあったら今更なんだが」

「しませんよー、ついユイを運ぶ要領で身体が勝手に動いてしまうだけですから」

「というわけで、特に気にしないといい。コイツはこの保健室に連れてくる際の担架みたいなもんだと思ってくれていい」

「担架……」


 先生にとっては彼も物扱いなんだ……。


「僕、保健委員ですからね!」

「言っておくが、危なっかしいユイを幼馴染に持った故の反面教師で保健委員になったまでは分かるが……だからって学校外活動をするな!」

「つい、ですね」 

「今や地域名物だから良いとしても、最初はフォローする身にでもだな――」


 地域名物の、担架?

 下心もない、というより担架扱い。

 実際に運ばれてくるまで、会話しかしておらず、あくまでも触れる部位は抱きかかえる為で……その、ヘンなところは触られていませんし。

 それでこのとぼけたような会話に、 


「あはははははっ! おかしい」

    

 私は笑うしかありませんでした。 

 

「まあコントだよなー、これ」

「失礼ですね。僕はこれでも真剣に怪我している女の子を放っておけないだけです」

「とか言って女の子しか運び込んでこないのは、やっぱり下心があるんだろー?」

「いえ、ユイの身体ベースの抱きかかえなので男に対応し難いだけです。あと男は重くてしょうがないですから、自力で頑張ってもらいます、肩ぐらいは貸しますが」


 余計に面白かったのは、確かに彼から下心のようなものは感じなかったということ。

 そういうのは意外と分かるものですから。


「……ということは、私にはそういう魅力がないってことですか?」


 つい皮肉交じり、だけども茶化すようについ聞いてしまっていました。


「そ、そんなことないよ!」

「じゃあ、どんな魅力があるの?」

「それは……守ってあげたくなるオーラ、かな」

「……なに言ってるの?」

「本当にお前は何を言っているんだ」

「えぇー、素直に答えただけなのに」


 私と川中先生に非難された彼の様子がおかしくてしょうがなかった。

 彼、篠井君。

 その時に名前を憶えて、そして自分でも良く分からない初恋が始まりました――



* *



「っ!」

「気づいた!? アキさん!?」


 私は夢から覚めると、そこにはコウタさんの顔がありました。


「コウタさん……?」

「うん、僕だよ」


 そういえばこの感覚懐かしい、揺られている安心感。

 これは確か夢に有ったような……って!?


「コ、コウタさん!?」

「ああ、良かった……とりあえずこのまま僕の家に運ぶね。僕、運動は普通だけどお姫様だっこには自信があるんだ」

「ええええっ! その、えええええ!?」


 夢から覚めると、コウタさんにお姫様抱っこをされる私が居ました。

 これまででも限りなく近い距離、それに思わず心臓ばくばく、胸が高鳴り、鼻血が出そう。


「僕の家はダメ? ……なら保健室の方がいいのかな」

「あっ」


 記憶の中の彼と重なる、保健室・担架。

 それを思い出して、懐かしくて、思わず笑ってしまいます。


「ふふふ……」

「あのそのですね、勝手にごめんなさいアキさん、実は――」


 コウタさん曰く、学校に連絡なく休んでいた私が気になって教師の静止も振り切って私の家へと向かってくれたそうです。

 そこには、玄関の扉が半開きになっていて、その扉にもたれ掛るように眠る私が居たとのことでした。


「ごめんなさい、ご迷惑を」

「そんなことないよ、僕こそもっとはやく気づくべきだったよ。彼氏失格だ、ごめんなさいアキさん」

「コウタさん……!」


 いいえ、そんなことはありませんよ。

 こうして今お姫様抱っこしてくれたのも嬉しいですし、彼氏と言う響きも嬉しいですし、なによりもこうして気にかけてくれたことが嬉しくて仕方ないんですよ。


「こちらこそありがとうございます……コウタさん」

 

 思えばこうして喋っていると、体調が良くなっているような気がしてきますね。

 でもきっとそれは、嬉しさに打ち消されているだけで、きっとまだ熱はあるのでしょう。

 ……別の熱は更に帯びているかもしれませんが。


「……覚えていますか、いつか私をこうして運んでくれたこと」

「え? えーと、うーん……ごめん覚えてないや」

「そ、そうですよね」


 それもそのはず、コウタさんの彼女になる前にこっそりその類の記憶をコウタさんの中から消しておきました。

 だ、だって! その時の私荒れてますし、感じ悪いですし! 

 悪印象しかないでしょうし、それは確かにあれがキッカケでコウタさんが気になりだしたのは確かですけれど……黒歴史です。

 なので通信教育で習った催眠術で、交際前にさっぱり消し飛ばしてあります。

 だから覚えていないのも無理はないでしょう。


「……むぅ、ひどいです」


 でも、ちょっと納得がいきません。

 自分で消しておいて難ですが、やっぱり最初の出会いがなかったことになっているのは納得がいきません!

 自覚はしていますが、私理不尽ですね。


「ご、ごめんアキさん! 本当に覚えてなくて」

「いいですよ、別に……でも」

「でも?」


 更に風邪で、ふわふわした気持ち故に出来ることというか言えたことというか。


「コウタさんの家で看病してもらえたら、許してあげます!」

「わ、わかった! じゃあそうするよ」

「お願いします♪」


 と、いうことで初めて彼氏のコウタさんをからかった日になりました。

 助けてくれたのになんてことを! 私のバカバカ! と、あとあと悔やむことになります。

 からかった日と同時に、なんと初めて看病してくれた日にもなりました。


 看病の途中で、嬉しさのあまり気を失ってしまったのが惜しまれますね。





* *





「朝からデートをしましょう! コウタさん!」


 と、朝にアキさんから家に電話がかかってきた。

 その電話で受け答えたアキさんの声に微妙に照れというか恥ずかしさのようなものが混じっているのが気になるけども……更には母親がニヤニヤしていたのはスルーして、少しだけ早めに家を出ると家の前で彼女が待っていた。


「おはようございますっ、コウタさん!」

「おはよう、アキさん」


 すっかり風邪も治ったアキさんに、一安心しながら。


「手を繋ぎましょう!」

「う、うん」


 なぜか病み上がってからかつてよりもアグレッシブになっていたアキさん。

 ちょっと戸惑うけど、可愛い!


「…………コウタさんの体温を感じます、幸せすぎます」

「お、大げさだよ」


 ちなみにアグレッシブな理由について聞いてみると、内心では実はこんなもんだったとのこと。

 意外性の彼女、アキさん! 可愛い。


「このまま私もコウタさんの血となり肉となりたいです」

「……ちょっとグロテスクすぎるかな」


 などと会話をしながら、歩くのは通学路。

 それぞれ学校の制服を身にまとい、繋いだ手以外にはカバンが揺れている。

 そう、登校デートだった。


「こんな幸せな時間がずっと続けばいいですのに」

「うん」  


 周りの通学する生徒を気にも留めることなく、ラブラブ空間を作り出していた僕たちはこのまま学校に着くかと思われた。

 しかし!


「よ、よっ! コウチャン」

「う、うん。おはよう、ユイ」


 なぜかカチコチのユイが僕の肩に手を乗せていた。

 それを疑問に思いながら挨拶をすると、ちょっとアキさんにごめんと手で謝る。


「(ごめんねアキさん)」

「(彼女たるもの、器は大きいべきですからね。私以外の女の子と話しても、もう許可とかはいいですから)」


 彼女の風格! を滲み出しながら、いいですよ、と視線が帰ってきたのでユイとも話し始める。


「どうしたのユイ?」

「いや、その、だ。大変申し上げにくいというか」


 ユイが妙にかしこまっているのが、いよいよ怪しくてつい身構えてしまう。

 こういうことは今までにないだけに、少し警戒。

 何が来るか、と思っていると――

 


「私と、コウちゃん許嫁らしいんだ」



 あまりに予想外なものだった。


「……は、はい?」

「…………」


 僕が効き返し、アキさんが固まっていた。


「その、私も今まで知らなかったんだ。本当だよ!? 別に隠していたわけではなくて、そう両親が口約束という程度なんだけど、今も時々そのことを話していたそうで――」


 僕は動揺しっぱなし、そして隣のアキさんは固まっていながらも彼女の風格は鳴りを潜め、どす黒いオーラを滲み出しはじめていた。


「へ、へぇ……許嫁ですか。そうですか、ふふふ」

「アキさん……?」


 というか隣の彼女が病みはじめている、これはいけない! 


「お、おいユイも今更なんでそんなこと……」

「……そんなこと?」


 あ、地雷踏んだ気がする。

 で、カバンから何か取り出したかと思うとユイは一気飲み……ドクプってラベルは見なかったことにしたい!


「今更!? そんなこと!? ふざけないでっ、そこのちんちくりんな彼女よりも、付き合いの長い私に向かって!?」

「ちんちくりん!? ……いいでしょう、ユイさん手加減しませんよ」

「臨むところだっ! もとはと言えば、アンタが横からかっさらっていったのがいけないんでしょうが!」

「幼馴染というポジションに甘んじていた、自身の責任でしょう!?」

「はぁ!?」

「はい!?」


 二人睨みあった、周囲の人間もさすがに足を止める。

 「おっ、修羅場か」「一人の男を取り合う構図か」「いいぞもっとやれ!」「優柔不断男死ねー!」

 などと言うヤジが聞こえてくる、え! 僕優柔不断なの!?

 

「行くぞおおおおおおお、この旧彼女っ!」

「覚悟してくださいっ、この幼馴染止まりっ!」

「あのね、二人とも……あ、聞こえてない」


 僕とアキさんで二人のんびりと付き合ってくかと思えば、まさかのユイが許嫁発覚。

 僕は一体どうなってしまうのか!?


 ……まあ、きっとなんとかなるよね。


 二人をどうにか宥めようと、僕は歩み出す――

ヤンデレパートナーお読みいただきありがとうございました。

色々書きたいことを最終話に詰め込んで書いてしまったので、こんな出来ですゴメンナサイ。

最終話の構想は風邪に関連する話というのは決めていましたし、アキさんのことについて書くことも、このオチについても決めていましたが、もう少し伏線を入れるべきだったと反省ですね。


どうにかメインのキャラクターを三人のみに絞りましたが、本来ならばコウタとアキさんの物語の予定でした。

付き合ってからという甘々だけどコメディーな展開を書きたくて始めまして、それでも話を膨らます為にユイを投入してしまいましたので、自分の実力不足ですね。


オチがアレですので、割と未練もあります、もしかしたら何らかの形でいつか続くかもしれませんね(すごいあやふやですね)



長い間お付き合いいただきありがとうございました。


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