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ヒューマンドラマ

スカッとアリとキリギリス

作者: 地野千塩
掲載日:2025/11/19

「スカッとアリとキリギリス」


 あるところに働き者のアリくんがいました。アリくんはとても優秀で真面目で勤勉で労働に励んでいました。おまけにイケメンでアリ族の中でもリーダーです。夏の間も冬に備えてコツコツ働きます。


 一方、キリギリスくんは怠け者です。おまけに不細工で下手なバイオリンを奏でているだけ。福祉にたかり、偽の診断書をもらって働きません。


 そして冬がきました。当然、アリくんは生き延びました。食料もいっぱいですが、キリギリスくんは飢え死にしました。


「ざまぁ!」


 アリくんはキリギリスくんの死体を見つめながら笑いました。


 めでたし、めでたし。


 ◇◇◇


「おかしい。こんな素晴らしい話を書いたのに、ポイントがゼロ!? pvも一桁!? そんだけ!?」


 僕は働き者のアリ。日々の労働にイライラし、「スカッとアリとキリギリス」という小説を書いた。WEB投稿サイトにあげたが、ポイントもpvも伸びない。感想も何もつかない。ランキングは一握りの人気作に独占。もともと芸術の才能があるキリギリス族の作者が多いらしく、歯軋りする。最近は、キリギリスがAIを開発し、自動で小説や音楽も生成できるらしく、お金も簡単に生み出しているという。


「なぜだ? 小説書いて一発逆転しようと思っていたのに! ここでもキリギリスが優位か!」


 愚痴しか出てこないが、労働がある。仕方ないので行ってくるが、季節は冬だ。夏の間に採取した果実を加工し、ジャムやジュースを工場で作っていた。


 ライン作業だ。立ち仕事でとても疲れるが、冬に備えないと。飢え死になりたくないし。僕の書いた小説通りにキリギリスは餓死してスカッとしたいもんだな。


 そんな空想、いや、妄想を楽しみつつ労働を終え、家に帰ってきたら、予想外のことが起きてた。


「お腹が減った……」


 家の前にキリギリスが倒れているではないか。木枯らしが吹いていたが、キリギリスくん、防寒もせず、顔も真っ青。せっかくのイケメンが台無し。


「お前、キリギリスくんか? どうした?」

「お腹が減って動けない。夏の間にサボていたツケだ……」


 弱っているキリギリスくんを見下ろし、笑ってしまいそう。「ざまぁ!」と思った。自分が書いた小説通りじゃないか。冬の風も暖かいと思えるほど、嬉しくなってしまう。


 とはいえ、僕だって鬼じゃない。キリギリスくんを介抱し、ご飯も与えてやった。


「ごめんよ、キリギリスくん。こんな怠け者の僕に君はやさしい」


 ますます楽しい。キリギリス族は嫌いだが、反省し、弱っているキリギリスくんを見下していると、毎日スカッとし、一緒に暮らすようになってしまった。


「というか、キリギリス族は音楽や小説の歌の才能があるじゃないか。それで生計を立てればいいだろ」


 ある日、一緒に食事中、疑問に思ったことを聞いてみた。なぜ餓死寸前まで追い込まれたか疑問。そもそも福祉に頼ってお金でも貰えばいいのに。


「それは無理だ。もうAIの脅威に逆らえない」

「へえ」

「福祉も君が思っているより厳しいぞ。役所の人間だってバカじゃない。水際作戦で追い出された」

「ふーん」


 キリギリスくん、なぜか遠い目をしていたが、僕が色々と指導し、一緒に工場で働き始めた。最初は全く使い物にならないポンコツだったが、なんとか僕がフォローし、とりあえず一日八時間の労働は耐えられるようになったみたい。


「なあ、キリギリスくん。仕事終えた後のビールと唐揚げは最高だろ?」

「うん! おいしい!」


 仕事終わった夕方、キリギリスくんとよく飲むようにもなった。


 その頃には世界はもっと変わっていた。AIが音楽チャートを席巻し、漫画や小説も同じような状況だった。夏でも冬でも季節に関係なく、キリギリス族は餓死し続けているらしい。工場にもキリギリス族が働きに来たが、なかなか仕事を覚えるのも難しいみたいだった。


 それでもなぜかキリギリスくんは嬉しそうだ。時々、バイオリンを引っ張り出し、演奏を聞かせてくれた。爽やかな秋空のような音色。聴いているだけで元気が出てくる。


「すごい、うまいじゃないか。キリギリスくん!」

「ありがとう。実はこれ、全く商業にならなかった作品だ。でも今はいいよね。AIが商業主義の音楽を作ってくれるから、かえって僕は好きに芸術を追求できる。生活については最低限工場で働けばいいってことに気づいた」

「キリギリスくん……」

「だったら仕事も頑張るよ。辞めないで続けようと思う」


 こうして完全に改心し、工場で働きながら好きな音楽を追求しているキリギリスくんは幸せそうだった。


 もちろん、芸術の追求だけしたキリギリスくんの音楽は認められていなかったが……。


 こんなキリギリスくんと同居し、仕事をしながら時が流れた。


 工場の仕事もAIに奪われそうだったが、なんとか耐え、僕らは定年退職の歳になった。もうすっかり老いぼれだったが、キリギリスくんはさらに芸術を追求できると楽しそう。


 一方、僕は何もない。毎日暇だった。思えば仕事以外、何もなかったと気づいてしまう。燃え尽きた感じ。


「アリくんも芸術を追求したらいいんじゃないか?」


 そんな僕を見ながら、キリギリスくんが歌うように言う。


「君、昔WEB小説書いてるって言ってただろう?」

「えー、でも全くポイント伸びなかった」

「芸術はお金や認められるのが目的かい?」


 キリギリスくんの言葉、重い。ずしんと胸に響いてしまう。


「商業主義の芸術はAIが代わりにやってくれるよ。芸術への情熱はAIには持てない!」


 なんて言われたら、もう書くしかない。そうだ、昔書いた「スカッとアリとキリギリス」を手直し、子ども向けの童話にしても良いかもしれない。


「だよな! どうせ暇だし、芸術を追求してみるよ!」

「おー! アリくん、嬉しいよ!」


 キリギリスくんと笑い合い、僕の心もスカッと晴れていた。


 めでたし、めでたし。

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