こういうシチュエーションが好き
こういうシチュエーションが好き。ってだけです。
「こちらA −1。バイタル正常。目標の痕跡があった地点に到達。どうぞ」
もう半分以上進んだだろうか。
二メートル先が見えない程ほとんど明かりのない、もう使われていないトンネル。
視界の端で何かが光っているが、それはただのバイタルチェック用のものだ。
一昔前のゲームに出てきそうな人型のデザイン。
初めは目新しかったが、今はもう邪魔なだけだ。
「切らせてくれよ…コレ」
そう言った小言はトンネルに吸われて消えていった。
無線機越しのザラザラした音声がトンネル内に響く。
『こちら本部M−4。そちらには先程、魔導隊の方が殲滅に向かった。特徴は、、、』
カツン
金属音
ここからは見えないがすぐ近くからしたように感じる
「ちょっと待て、なにかいる」
無線機を切り自動拳銃を構え、ジリジリと少しずつ前へ進む。
相手からは自分が認識できているだろうか。
だがこのトンネルには隠れられるような場所もなく、人が2人通れる程度の幅しかない。
こちらを害そうにも正面以外にあり得ない。
10秒ほどかけて1メートル半程進んだ時。
「あ」
向こうの視界にこちらが写ったのだろう。
見られたくないものを見られた子供のような、少し幼さの残る声が聞こえた。
警戒は解かずに無線機を入れる。
「その隊員の特徴は」
向こうも状況を理解したのだろう、すぐに返答した
「確か催眠系の能力者だな。そんでもってショートカットで右耳に銀のリング、身長は163の美人さんだ」
一致している。
向けていた銃口を少し下げる。
「失礼しました。自分は偵察部隊Aのものです」
「あぁ、うん。こっちこそごめんね、入ってきた段階で声かけるべきだったよ。私は魔導隊第二部隊の椎名奈七」
『あってる』
その言葉を聞いて一旦無線を切り、銃をしまう。
彼女はまるで最初から警戒していなかったような言い方だったが、実際していなかったのだろう。
彼女は自分たちのような普通の人間とは違うのだから。
相当気を張っていたのだろう。
頭が痛くなり、目線を落とす。
ふと、彼女の右手に何かが見えた。
「そちらは?」
彼女は少し恥ずかしそうにこちらに見せてくる。
ハンバーガーだ。
ここの近くで買っていたのだろうか。
某有名チェーン店のものだろう。
「さっきまで戦闘しててさ、まだ何も食べてなかったから食べながら戻ろうと思って」
「なるほど」
変わった人だ。
いやそれより、さっきまで戦闘をしていた?
続きを食べ始めた彼女に問う。
「先程まで戦闘を?ということはここで観測された目標はもう倒されたということですか」
「んっ、もう終わったよ。…そっか、それも報告するの忘れてた」
報告よりも食欲の方が上か。
と内心呆れながら、それを悟られないように彼女に話しかける
「自分が入れておきますね…こちらA−1、目標は先行していた椎名隊員が殲滅したようです。これから帰還します。どうぞ」
『M−4了解。油断せず戻るように』
プツと、無線が切れた。
これで今回の任務は終了だ。
彼女を見ると先程とは違うバーガーを食べていた。
その細い体のどこに入るんだか。
「自分が先導するので、食べながら着いてきてください」
「んー、あらふぁと」
なんとも気の抜けた返事だ。
「目標との戦闘はどんな感じでしたか」
後ろを歩いているだろう彼女に対し問う。
「まぁなんというか、相性が悪かったよね僕とはさ」
「そうですか、楽勝だったと?」
「いやいや…」
そんな会話をしていると早くも出口の光が見えてきた。
安堵、それと同時に何か違和感を覚えた。
背中にほんの少し、ただベッタリと張り付くような気味の悪い感触。
もう慣れたと思っていた、ほんの少量の殺意。
脳が今までにない程の危険信号を送る。
勢いよく振り向く。
「ッツ!」
間一髪で躱せた。
先ほどまで頭がいた位置には黒い物体。
何が起きた?
わかるのは何かが明らかな殺意を持って飛んできたこと。
彼女の後ろに黒い[それ]が浮かんでいることだ。
暗くてもわかる程、異様な雰囲気を纏っているそれは彼女から生えているらしい。
「すごいね!完全に頭潰したと思ったのに!」
半ば興奮した様子で彼女ではない何かは言う、隠す気もなく殺意をこちらに向けながら。
「勘だけはいいんでね」
無線機に手を伸ばす。
が、先の攻撃で吹き飛ばされていた。
運は悪いらしい。
万事休すとはこのことか。
会話を試みるべきか。
いや、無駄だ。
会話など意味を成さないだろう。
逃げるか。
背後の確認をする。
先ほどまで見えていた光は消えていた。
違和感の正体はこれか。
「幻か」
呟くと同時にどうするかを考える。
逃げるのは不可能、ホルスターから自動拳銃を取り出し、構えるのと同時に前に走る。
その考えが読まれたのだろうか。
一歩目を踏み出そうとした瞬間。
「ゴプ」
後ろから、二度目の奇襲。
身体は宙に浮いていた。
背中から腹にかけて[それ]が貫通している。
不思議と痛みはない。
アドレナリンだかドーパミンの所為だろうか。
普通なら意識が飛んでいただろう。
頭も冷静だ、限りなく死に近いと言うのに。
右手に持った自動拳銃を離さないようにしっかりと握る。
化物が近づいてくる。
何か言葉を発そうとしたのだろう。
ニヤついている口が動いた瞬間、
カカカカカカカカカカカカカカカカキン
発砲、軽快な音が反響する。
八割程命中しただろうか。
片腕で打ったにしては上々、化物には複数の風穴が開いている。
バケモノでさえなければ致命傷。
だが、腹に突き刺さった[それ]は消えていない。
つまり、殺せていない。
「クソが」
「こっちのセリフでもあるんだけど」
先ほどまでの少女の声とは違う。
様々な人間の声が混ざったような声。
腹の[それ]のように黒く、液状となった化物は気味の悪い音を立てながら再び人のような形状を取る。
御伽話に出てくるような怪物。
苛立ちながらも笑っているような声。
余裕なのだろう。
決死の銃撃の効果は無かったようだ。
ただ殺意は消えているように感じた。
いや、もう勘も鈍ったのだろう。
もう何をしても無駄だ、コイツの好きなタイミングで俺の命は終わる。
最後に聞きたいことがある。
「お前は何だ」
瞬間、感覚がなかったはずの背筋に緊張が走った。
後悔とはまた違う、知らない感情が身体を蝕む。
「いいの?」
気付けば目がそこにあった。
いつの間に近づいてきたのか。
息が浅くなる。
瞬きができない。
「ハハッ」
口から笑いが漏れた。
恐怖で頭がおかしくなる。
今腕が動いたら、どうなっていただろうか。
ゴリュ
断ち切る。
肉が切れる音。
「うるせぇよ」
口から血を流しながらもう一度笑う。
どうせ死ぬのに何を考えていたのだろうか。
舌を思い切り噛んだ影響で発音しにくい口を動かす。
「死ねよ、バケモンが」
「いいんだ」
目が離れ、代わりに触手が視界を覆う。
後悔しかない人生であった。
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「ご馳走様」
最後のひとかけらを喰らい言う。
「本物じゃないからわかんないな」
あれからしばらく歩いた。
先には出口のようなものが見える。
明るく発光していないことから外は雨でも降っているのだろう。
「久々の外は雨模様かな…」
少し、いやかなりガッカリしながらそこまで歩く。
予想通り、小雨程度ではあるが降っていた。
「ハァ」
先程拾っておいた無線機に手を伸ばす。
使い方はわかる。
後は声を作るだけ。
深呼吸。
パチンと電源を入れる。
「…こちら椎名、出口付近で目標に奇襲を受けた」
少し待つ。
『…A-1は…どうしましたか』
しばらく間を空ける。
『…そうですか。あいつの最後は』
どいつもこいつも揃って勘が良い。
少し空ける。
「奇襲された私を庇い、吸収されてしまいました。遺体は回収しようと思いましたが、倒すと同時に消滅してしまいました」
淡々と、感情を察することがないように。
また、しばらくの間。
『いえ、目標の殲滅を確認しました。お疲れ様でした。迎えをよこしますので…』
「いえ、大丈夫です。自分で帰りますので」
泣いているのだろうか。
『そうですか、では』
プツリと通信が落ちる。
無線機をしまい、通信が復活した端末を取り出す。
ここから1番近いバーガー屋を調べる。
かなり遠いがすぐに着くだろう。
慣らすのにもちょうど良い
「便利な時代になったもんだ」
道案内をオンにして向かう。
「美味しければいいけど」
地面を蹴る。
これから起こるであろう出会いや出来事に想いを馳せながら。
この後美味しそうにバーガーを頬張る椎名さんがいたらしいですよ。




