地獄の沙汰も...
「また、こどもが死んだのか」
男は流れ着いた生後間もない赤子を拾い上げて荷車に乗せる。今月だけで3桁を超えるこの作業は、現世の流行によって起きている。
20××年、「こどもの前世の分かる機械」なるものが開発された。
閻魔大王が浄玻璃鏡の技術を現世に渡し、作り上げられたその装置に人間をスキャンすると前世が見えるシンプルなものだ。
魂は、一定の徳を積む事で輪廻の輪から外れて所謂極楽浄土に永住する権利を持つが人間の生涯ひとつで積める徳には限度があるので生まれ変わり、と言うものが存在する。
地獄に堕ちたものは地獄で受ける呵責を経て、前世で犯した罪と向き合い、来世こそ全うに生きて徳を積む為に因果応報の様な生涯を懸命に生きる事を目的として生まれ変わる。
そのシステムが誰の目でも確認出来る様になった結果、現世で子殺しが横行している。
輪廻転生の前者はともかく、後者は現世の法において軽犯罪とされるものを犯した犯人から、世間を騒がせた重大事件の犯人である事も多い。
仏教徒やスピリチュアルに詳しい人間でも無い限り、「宗教上の教義にはそんなものは存在しない」と言う人間であっても、自分のこどもが前世が犯罪者だと言われれば尻込みするしそれが重大事件の犯人ともなれば尚のこと。
男が先程荷車に乗せた赤子は前世、とある強姦殺人の罪で裁かれ刑を受けて地獄に訪れた。
前世の人物とも面識があり、転生前は「次こそは全うに生きてみたい」と言っていた。そいつの両親になる人間は生まれる前に我が子の前世を知ったが、「罪を禊ぎ、罰を受けたのだから、全うに愛情を注げば普通の人間になる筈だ」とこどもを全面的にサポートするつもりだった。
ただ。
生まれてきたこどもの前世を知った、前世の事件の遺族がこどもが幸せになる事を許さなかった。
こどもは遺族の手で親元から引き離され、そして今こうして賽の河原に流れ着いている。
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、とは言うが...」
生まれ変わる際、人間は深層心理にほんの僅かに前世の影響が出るがそれ以外はなんの問題も無い。
深層心理に前世の影響を僅かに残すのは、徳を積み極楽浄土への永住権を手に入れる為。
前世で犯した罪と向き合いケジメをつける為。
「後でシバキ回しておくか...」
男は上司の顔を思い浮かべながらそう呟いた。