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第5話 コソコソ話は小声でするべし

 高卒で新社会人として入社してから一週間。仕事はとにかく先輩に付いて周り、営業と名刺交換と、その会社のことを覚えること。あとは書類作成の仕方など。メモること、覚えることが山積みで俺の脳はキャパオーバー寸前だった。そんな感じのあっという間の一週間だった。



「桜庭」


「はい」


「今日は何の日か分かってるか?」


 デスクが向かいの田代さんが楽しそうに話しかけてきた。3つ歳上の先輩だ。


「え、いえ……」


「今日は金曜日だ!」


「そ、そうっすね」


「そして……!」


「そして?」


「ウチの部所の新入社員の歓迎会だ!この意味がわかるか?」


「飲み会ってことっすか」


「そうだ!しかも、金曜日だ。更に定時で終われる!もっと言えば、会社の経費で落とせる飲み会だ!」


「会費とか出さなくていいってことっすか?」


「おいおい、歓迎すべき新入社員に金を出させるわけないだろ。タダだ。タダで飲み放題だ!」


「おぉ~!」




 夕方4時頃。俺は真琴にLINEを入れておいた。 


『今日は新人歓迎会で飲み会があるからたぶん遅くなる』


 その後、仕事は予定通り定時で終わり、みんなで歓迎会をするお店に直行した。その間に、真琴からLINEが入っていたのだが、歓迎会と二次会が終わる夜10時過ぎまで、俺はそのLINEに気付かなかった。そして、そのLINEに気付かないままアパートへと帰宅。

 キッチンで水道水を一杯注いでイッキ飲み。ひと息着いたところで、俺は特に何も考えずに着替えを持って風呂に入ろうと脱衣場のドアを開けた。それとほぼ同時に浴室の扉も開いた。

 出てきたのは当然真琴だと思った俺。しかし、何故かすぐに脱衣場から退散するという動作が遅れた。浴室に立つ”真琴だと思っていた人物”の全裸をまじまじと見詰めてしまった。

 3秒か、それとも5秒か……。

 俺の視線は裸に釘付けになっていた。真琴はこんなに”ボリューミー”な体ではなかったはず。そう脳が判断すると、俺の目は今度は上へ。顔を見て、相手と視線がぶつかる。

 また数秒。


「誰?」


 春馬のその一言でようやく時が動いた。瀬戸つかさの全身イッキに真っ赤に染まり……、


「きゃああああああああ!!」


 瀬戸つかさは悲鳴を上げながら、春馬にバスタオル投げつけて視界を奪い、直後に顔面平手打ちを喰らわせた。


「へべぷっ!?」






 リビングにて。


「すまん……。全然LINEに気付かなかった。まさかお客さんが来てたとは……」


 鼻血止めのティッシュを鼻からぶら下げた春馬。


「いや、僕もごめん。お酒飲んで普通に寝ちゃってました。春馬が帰って来たの気付きませんでした」


「……もう私お嫁に行けないかも」


「マジですいません」


「私の裸を見た責任、取って」


「……え!?」


「……え!?」


 ボソリと呟いたつかさの言葉に固まる春馬と真琴。


「春馬?」


「……は、はい?」


「なんか、おめでと」


「は……?いや、ちょっと待ってくれ!?」


「二人とも真に受けすぎ。冗談だよ」





「改めて本当にすいませんでした!」


「いやいやいや、私も思わず顔面殴っちゃったので、ここはお互い様ということで。それに、男同士でルームシェアしてるところに、まさか女がお風呂に入ってるなんて思わないだろうし」


「LINEで友達来てること教えてたけど、春馬まだ既読付いてない」


「いや……すまん。全く気付きませんでした」


「春馬にLINE送った後、勝手に安心してつかさとお酒飲んじゃって。つかさがお風呂借りるって言ったあと、気付いたら寝ちゃってました」


「ちょっと待て真琴」


「ん?」


「酒飲んだの?」


「うん?そうだよ?ほら!あれ。『マスカッシュ』ってやつ。梅ッシュも少し味見した」


 真琴はキッチンを指差した。そこには、飲み終わった空の缶酎ハイの缶が干しってあった。


「え〜……と、つかささんでしたっけ?」


「うん!瀬戸つかさ。よろしくね!」


「失礼ですけど、年齢を聞いてもいいですか?」


「18だよ。まこっちゃんと同じ大学1年」


「マジか……。一応聞こう。真琴、お前は今何歳だっけ?」


「何言ってんだ春馬?お前と同級生だろ」


「うん。知ってる……」


 春馬はゆっくりと額に手を当ててため息を着いた。


「18歳で酒飲んじゃダメだろ……」


 すると、真琴とつかさは顔を見合わせて、


「あ……!」


「そうだった……」


「おいおい。マジかお前ら……」


 外で飲んでないだけまだ良かったが。







「ところで真琴、ちょっといいか?」


「ん、何?」


 俺は風呂に入るついでのタイミングで真琴を脱衣場に呼びつけた。瀬戸さんの前では話せない話があったからだ。


「ちょっとだけ失礼」


「あ、どうぞどうぞ。お構いなくぅ〜」


 一応瀬戸さんには断わりを入れて。


「何?」


「お前、入学早々あんな綺麗な人とどーやって仲良くなったんだ?しかもいきなり部屋に呼ぶとか?てかお前、彼女にはどっちの性別で?てか、まさか女体化がバレてんのか?」


 俺は思った疑問を全てイッキに投げかけた。

 

「質問多すぎ。イッキに聞くな!女体化してることはバレてないから」


「どーやったらあんな美人と仲良くなれるんだ!?」


「ん〜、たまたまだ」


「どーすりゃ入学初日から部屋に呼べるんだ!?」


「ん〜……それもたまたまだよ」


「出会ったその日にどーーして男の部屋に来れるんだ!?」


「僕に聞かれても困るってば!」


「あの……、全部聞こえてますけど?」


「……え」


「……あ」


「女体化って……どういうこと?」





 続く……

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