第3話 精神に性別は関係ない
今回はちょっと真面目な回になっちゃいました。
マイノリティーとかジェンダーレスについて少し考えちゃいまして。
夕方6時過ぎ。
春馬帰宅。
「ただいま〜」
玄関のドアを開けた瞬間、美味しそうな匂いが鼻と胃袋を刺激した。
玄関に入ればすぐ横がキッチンで、すぐそこに真琴がいた。
「春馬おかえり」
「真琴が新妻になってる!」
「誰が新妻だァ!」
「あ、いや、エプロン姿がなんかいいなと思って」
「学校の調理実習で普通に見てるだろ!」
「いや、でもほら、仕事から帰宅したら可愛い同棲相手がエプロン姿でお出迎えってまんまそれじゃん」
「か、可愛いって………」
「ん?」
「お前、やっぱり僕のことそんな風に見てたわけ?女体化して?僕の裸見て?」
「いや……それは……なんつーか……すまん」
「…………」
エプロンのポケットに手を突っ込んで怒ったポーズ。顔を赤らめつつジト目で睨んでくる真琴。
なんでそんな可愛い仕草になるんだ……!!
堪らず体全体で真琴のジト目から逃げる春馬。
「春馬……?」
「はい、なんでしょう?」
「……ご飯にする?お風呂場にする?それとも……」
こ、この展開は……!?
「一回殴っていい?」
「なんで!?」
「女体化した僕でまさかシテないだろうなぁ?」
「な、ナニをですか……?」
「こンのぉ〜……分かって聞いてるだろ?」
「安心しろ真琴。今の新妻っぽいとこだけだから」
「普通に飯作ってただけだろーが!」
真琴が作ってくれたのは、野菜たっぷりの鍋焼きうどんだった。
入居してから今日までの数日間、カップ麺か外食か。あとは俺が帰りにスーパーから惣菜を買ってくるくらいだった。
「今日はなんで真琴が飯作ってくれたりしたんだ?俺が帰りに惣菜買って来るのに」
「春馬より僕の方が早く帰って来れるし、今日はたまたま鍋焼きうどんが食べたかっただけだ」
「そっか。サンキュ。美味かった。ごちそうさまでした」
「どういたしまして?」
洗い物を済ませ、食後のお茶で一息ついたところで、俺は真琴に聞きたいことがあった。
「そういえば真琴?」
「ん?」
「学校、サークルとかやっぱ入るのか?」
「あぁ、それね。一応いろんなサークルのプレゼン見てきたけど、まだ決めてない」
「どんなのあったんだ?」
春馬が興味津々で聞くと、真琴はスマホで大学のホームページ画面を見せてきた。俺はそれを見ながら。真琴は今日見てきた事を思い出しながら話た。
部活はスポーツ部と文化部があり、スポーツ部は野球、フットサル、バスケ、陸上、卓球、バレーボール。
文化部は、新聞部、ボランティア部、デザイン部。
サークルは、囲碁将棋愛好会、イラスト愛好会、軽音愛好会、映画研究会、俳句愛好会、ボカロ研究会、コスプレ愛好会、サブカル研究会等など。
「スポーツ部のは外でやってて、サークルとかは体育館だったんだけど。そのサークルのプレゼンがさ、各ブースに別れてて、なんていうの?コミケ会場みたいだったんだよ。特にイラスト愛好会と、コスプレ愛好会なんてそのまんまって感じで」
まだ他にもよく分からないサークルがあるらしいが、その中でも真琴が気になったのは『サブカル研究会』らしい。
――入学式閉会後――
運動部のプレゼンテーションは各部のフィールドで行われ、文化部とサークルは体育館にそれぞれブースを設けて行われた。それこそオタクの祭典、東京ビッグサイトで行われるコミックマーケット。『通称コミケ』の同人誌即売会のブースのような感じだった。
体育館入り口から順に、軽音愛好会、ボカロ研究会、映画研究会、囲碁将棋愛好会、俳句愛好会、イラスト愛好会、コスプレ愛好会、そして最後にサブカル研究会があった。
因みにだが、軽音愛好会とボカロ研究会は協力関係で、学園祭の時はこのタッグで学園祭のDJを務める。イラスト愛好会とコスプレ愛好会もまた協力関係者で、お互いのデザインセンスを合わせたキャラクターや衣装で学園祭を盛り上げる。
そして、真琴が気になったというサブカル研究会とは……。
「あの〜……?」
サブカル研究会のブースに恐る恐る近づく真琴。
「あっ、どうぞぉ〜。サブカル研究会でぇッス。興味あるぅ?どうぞ見てって聞いてってぇ〜!」
受付の長テーブルに座っていた男子生徒。まさかのオネェだった。イケメンなんだけど……。
「おっ、君カワイイねぇ!どう、ウチのサークル入らない?説明だけでも聞いてってよ!ウチのサークル女子私だけでさ。女子モドキは一人いるけど」
「ちょっと、アタシのこと言ってる!?女子モドキとはナニよ、この牛女ぁ!」
「誰が牛女じゃコォらぁ!」
二人目に声をかけてきた快活そうな女子生徒をよく見ると、確かに巨乳だった。
「牛女……」
真琴はついガン見してしまった。
「こらこらぁ、そんなにうやましそうに見るな。女の子でもお金取るぞ」
わざと恥ずかしそうに自分の胸を隠す女子生徒。
さっきからどうやら誤解されているっぽいので真琴は正直に言うことにした。
「あの……、僕、男なんですけど」
一拍時が止まり、
「「ウソォォォォォォ!?」」
『サブカル研究会』
主な研究内容は、マイノリティー(非一般的)(少数派)いわゆるマイナー志向、文化について考えていく事。
分かりやすい例が、
「女子モドキは撤回してもらうわよ。つまりアタシみたいな(オネェ)ってカテゴライズされちゃう人達とか、最近で言うと、ジェンダーレスとか?トランスジェンダーとか?そういうタイプ?キャラとかじゃなくて個性の人達が普通にいるってことを普通に受けとめてほしいの。アタシは」
「そう。個性なんだよね。みんなが同じ服装、同じ髪型、同じ趣味志向じゃないのと一緒でさ、みんないろんな価値観があるわけじゃん?性別もそれなんだよ」
オネェの方が寺田先輩で、もう一人の女子生徒が片桐先輩。片桐先輩も実は自分のジェンダーに関して思うところがある人だった。
「私は自分の身体が女であることにちょっとだけ違和感を持って今まで育ってきた人なんだけど……。女であることを否定したいわけでもないんだよね。ややこしいよねぇ〜」
「ホントにややこしいよねぇ〜。アタシだってただティンティン付いて生まれてきただけでアタシはアタシだし。牛女だって好きで牛みたいな胸になったわけでもないしね?」
「さらっとティンティンとか言うな!あと牛女ちゃうわ!」
この人達キャラが濃いなぁ………。
「ほ、他にも研究課題みたいなのはあるんですか?」
真琴の質問に答えたのは牛ちちの片桐先輩。
「サブカルチャーっていわゆるマイナージャンルってことなんだけど、いちおう都市伝説とか超常現象的な話題も取り上げてて、それをたま〜に新聞部に掲載依頼したり、学園祭でお化け屋敷をやるとなれば、妖怪やファンタジーモンスターのイメージイラストをコスプレ愛好会に提供したりとかしちゃったりして?」
なぜかちょっとドヤる片桐先輩。
「なぁんてちょっとカッコつけたけど、サークルなんてそもそも趣味の延長みたいなもんでさ、実際私なんてただラノベとかBL小説とか読みフケってるだけよ」
「ホントそれ!趣味趣向は勝手だけどさ、アタシにBL見せようしてくんのホントやめてよねぇ〜。アタシはノーマルよ!」
「こんなサークルに入っててノーマルもヘッタクレもないけどね……」
ノーマルってなんだろう……?マイノリティーって何……?
このサークルの思想の奥深さに感動と混乱を覚えた真琴だった。
場面は真琴と春馬の食卓に戻り。
「……で、結局?」
「面白そうだけど謎すぎて……」
「加入を決めかねてるって訳か。なるほど。確かに謎に深いサークルだな」
春馬も腕組みをして、そのサークルの奥深さに関心してしまった。
性別とは、あくまで肉体的特徴の基準でしかなく、精神面においてはその二択で縛るべきではない。十人十色の価値観と同様、個人の性格もまた十人十色。
マイノリティーといえば真琴。
真琴の容姿は男子にしては可愛すぎる顔をしている。少なくとも春馬は昔からそう思っていた。そこに来ての女体化。真琴本人は男子として生まれ育ってきた。本人も男のつもりだ。でも、脱いだら誤魔化しようがない女の身体。まあ、胸の大きさは置いておいて。男みたいに平べったい女だっていっぱいいる。……とにかく、この可愛い顔立ちで体も女だと分かれば、誰がどう見たって性別は女として見られる。これはつもり、見方によっては、肉体的性別は女で精神的性別が男。いわゆるトランスジェンダー。というカテゴリーになるのか?ある日突然女体化なんて二次元な展開に混乱しなくても、真琴はそういう個性の人間なのだと……。
「春馬……?おーい!」
「……え?」
「そんなに難しい顔して、何考えてたんだ?」
「え、あ、いや……別に。大したことじゃない。マイノリティーって難しいなぁと思って」
「だよなぁ〜」
真琴は自分の身に起きた突然の女体化という境遇に何の違和感も無いようだった。そんな真琴を見て春馬は、このまま本当に普通の女の子として暮らしていって、もしかしたら俺の気持ちを伝えられる日が来るのか……?
また思考の海に沈みかける春馬。
「僕今のこの体で乙女キャラになったらどうする?」
思考の海に沈みかける中で、しおらしい乙女な真琴の偶像が現れた。
「抱きしめる」
「へ?」
無意識に、反射的に出てしまった自分の言葉の意味に気付き、一気に顔が赤くなる春馬。
「お……俺風呂入ってくるわ!」
慌てて風呂場に逃げる春馬。一拍おいて真琴も、何故か恥ずかしくなる感情に困惑するのだった。
やっぱり春馬、僕のこと異性として意識してきちゃってる?マジで?なんでキモいとか思わないんだろう?だって……だってウチら男同士なのに……。胸だって無いし……。でもやっぱり……。
そう思いつつも、真琴が検証したいくつかの春馬の反応。あれを思い出し、やはりそうなのだと確信する真琴。
春馬が風呂から上がり、真琴も風呂に入り、自分の体が女になったことを改めて意識して思った。体は女なのだと。でも、中身はそんなの関係ない。片桐先輩みたいに、女で生まれようと巨乳になろうと性別に関係なく、自分は自分なのだと。
春馬が女体化した僕のことをキモいとは思ってないのと同じく、僕も、春馬に女と意識されることに対して、正直なところそんなに悪い気はしていない。なんならむしろ、恥ずかしがる春馬をちょっとからかいたいと思う自分がいる。ちょっと色仕掛けみたいなことをしてみたくなる。
僕はゲイではない。精神が肉体にひっぱられて女性化することがあるのなら、もしかしたらいずれ春馬を恋愛対象として見てしまうことがあるかもしれない。今それを考えるとなんとも複雑な気分だ。
翌日。
今日からが初めての講義。
大学は高校までと違って自分の席というのが無い。各講義ことに教室があって、みんなその都度席自由に席を選んで座っている。すでにグループを組んでいる人たちは一カ所にかたまり、対して単独の人たちは、必ず一つか二つ席を空けて座っていた。
映画館のように段々に席が連なる景色を見渡して、
「ほあ〜……」
ついマヌケな声が漏れてしまった。すると、すでに席に着いていた何人かの生徒達が僕を見てからコソコソと話始めた。
「ん?」
ちょっと不審には思ったけど、その時は特に気にはせず、適当に空いている席を選んで座った。
受ける科目の教科書、ノート、筆記用具を準備して、あとは担当教師が来るのを待つだけ。時間までまだ5分以上ある。
自分の他にどんな生徒がいるのかと、少し周囲に視線をやると、結構な数の人が僕を見ていた。ような気がした。
自意識過剰かな?
初めての環境で人の視線がやたら気になるのはよくあること。真琴はそう解釈して時間を待った。
少しして、席を一つ空けて隣に誰かが座った。いきなり無理に交流しようとは思わなかったが、どんな人かととりあえず見てみたら、その人とバッチリ目が合ってしまった。
「あっ、ど、どうも」
気不味さに慌てて挨拶をしたら、いきなりスイッとお尻を滑らせてこちらに近付いて来て、
「君が噂のジェンダーレス美少年?」
至近距離で声を潜めてそんな質問を投げかけられた。
「うぉっ……。なっ、なんスか!?」
スタイリッシュな茶髪ショートボブの美人さんだった。
続く……
皆さんは自分の身近に、あるいは当事者として、ジェンダーレスやトランスジェンダーに関わったことはありますか?




