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第1話 ダブルブッキング

 女体化系の新作です。気まぐれ投稿です。よろしくお願いします。

 高校最後の初詣。

 俺は親友と地元の神社の初詣に来ていた。

 今まで一度も初詣などというものに来たことは無かったが、卒業後は俺は就職。親友は進学という訳で、別々になるため記念にと思い、親友の誘いに応じて来たわけだ。



 二人で揃って賽銭箱に小銭を入れる。親友が大きな鈴を鳴らし、俺は親友の動作を見て真似る。俺は神社参拝の所作をあまりよく知らない。


 二礼。


 パン パン

 二拍。


 そのまま手を合わせてお祈り。


 〜気が合うカワイイ彼女が出来ますように。……真琴みたいな〜


 一瞬妙な雑念があった気がしたが、何を思ったのか自分でもよく分からなかった。


 願い事が終わって目を開けて隣を見ると、親友の真琴は俺が祈り終わるを待っていてくれた。


 最後に一礼。




「春馬は何お願いしたの?」


「これって他言していいのか?」


「参拝の所作とか知らなかったくせにそこは気にするんだ」


 軽く笑われた。


「願い事は他言しない方が叶うっていうしね。秘密にしとく?」


「じゃあ秘密で。真琴は?」


「僕の願いは無病息災と恋愛成就?」


「言っちゃうんだ」


「私利私欲じゃないしね。別に問題無いと思うけど」


「恋愛成就は私利私欲に含まれないのか?」


「花のキャンパスライフの為だ!」


「普通に私利私欲だな」



 こうして話せるのもあと3ヶ月。春にはそれぞれの道へか……。


 この時の二人の願い事が後になって、まさかとんでもない形で成就するとは、二人は夢にも思わなかった。


 それから月日は流れ……。


 高校を卒業後、俺は実家を出てアパートに引っ越すことに。

 中々苦労して見つけたアパートに到着すると、そこにはもう既に引っ越し業者も到着していた。


「あのすみません。今日ここに引っ越しの依頼をしてました、櫻庭春馬といいます。今着きまして、お忙しい中どうもすみません」


 社会人になったのだからそれらしく丁寧に挨拶をしてみた。すると、


「いやぁ〜、待ってたよー櫻庭さん!ちょっと問題が起きてて困ってたんですよ」


「え、な、何ですか?」


 何か契約に問題でもあっただろうか……?




 話を聞くと、自分たちよりも少し前に着ていた別の引っ越し業者が来ていて、俺が契約したアパートの同じ2階に入っているようで、まだこちらが中に入れないということだった。


「櫻庭さん、実はもう一つ問題があってね」


 まだ何かあると……。


 もう一つ話聞くと、業者さん曰く、


「もしかしたらね、まさかですけど、入る部屋、ダブってるかもしれませんよ?」 


「……は?」


 意味が分からず、思わず素の反応をしてしまった。


 『ダブルブッキング』。

 不動産屋のミスで、俺一人の入居契約だったはずが、もう一人別に人も契約されてしまっていること。


「なんだって。なんじゃそりゃ。それダメでしょ。ありえないって。待って待って待って。マジで無いわ。俺今すぐ確かめて来ます!」


 俺は大慌てで自分の部屋になるはずの201号室に向かった。


「ちょっと待って下さい。俺もその部屋で契約してるんですけど!?」


 すれ違う引っ越し業者に言いながら部屋へとたどり着き、中にいた俺ではない入居者に問い詰めようとした。


「あの、すいません。櫻庭春馬という者なんですが、この部屋、俺も契約してて、あの、ダブルブッキングってやつみたいで、だから、今すぐ不動産屋に電話しないと……!」


 内心テンパってはいたが、なるべく喧嘩越しに聞こえないように丁寧に簡潔に状況を伝えようとそこまで言いかけたところで、俺は思わず息を飲んでしまった。


「ま……、まこ……と!?」


「えっ、春馬、何で、ウソ!?」



 なんと、ダブルブッキングの相手は真琴だったのだ。



 スマホをスピーカーモードして、俺と真琴と、それぞれ二つの引っ越し業者のリーダーも交えて、不動産屋と電話で話し合いをした。

 簡潔に結果から言うと、俺と真琴二人で入居することとなった。いわゆるルームシェアというやつだ。全く知らない他人同士ではないわけで。真琴と俺は長い付き合いの親友だ。ダブルブッキングは予想外だったが、まあまあ結果オーライだろうか。

 引っ越し業者に繰り返し頭を下げて、冷蔵庫と洗濯機とレンジは機能性の高い方を配置してもらい、余ったもう一機は一旦業者に預かってもらい、後日買った店に返品してもらうことにした。




 畳5畳間の和室と、同じく5畳間のフローリング部屋。キッチンダイニングの共有スペース。お風呂トイレは別。本来の一人暮らしにはさすがに贅沢かな?と思ってはいたけど、会社の友達だったり、あるいは彼女が出来て同棲なんて未来も可能性はゼロは無いと予想しての物件だったのだ。真琴とのルームシェアは予想外過ぎだったけど……。




 引っ越し業者を見送り、雑多な荷物で溢れかえった部屋に戻り、二人でキッチンの床に座る。


「ふぅ〜〜〜……」


「いやぁ〜〜……」


 それぞれに長いため息が漏れた。予想外のルームシェアというまさかの事態にはさすがにちょっと疲れた。


「彼女を連れ込む前にまさか真琴と同棲になるとはなぁ……」


「初めての一人暮らしにドキドキワクワクしてたけど、まさか春馬とルームシェアになるとはねぇ……」


「ところで、真琴は部屋どっちがいい?和室とフローリング」


「僕はフローリングがいいかな。掃除楽だし。クイックルワイパーでツイーっとね」


「俺は畳に座椅子でゲームしてみたかったから和室で」


「うわっ、それズルぅ!」


「部屋隣……ていうか同じ201室だろ。お互いここが自分ん家なんだし。また一緒にゲームやろうぜ」


「おう!」


 そう言うと、真琴は鼻息荒くガッツポーズをして見せた。

 やっぱりちょっと可愛いと思ってしまう春馬だった。




 テレビ、ゲーム機設置完了。本棚は荷解きして空いた段ボールを補強した物で本棚にした。我ながらナイス省エネ。衣類は段ボールのままとりあえず押し入れへ。寝床は敷布団ひとつ。畳には敷布団。まさに和室。

 これで大体の荷解きとレイアウトは完了。

 お気に入りの壁掛け時計を見ると、時間はそろそろ18時になるところだった

 予想外のダブルブッキングとルームシェアという流れにはなったが、部屋はこれで整ったし、思った以上の時間のロスも無かった。


「端から初日は外食する気だったし、真琴誘って晩飯に行くか」



「真琴〜、晩飯食いにどっか行かないか〜?」


 隣の部屋に行くと真琴も部屋の片付けは済んでいた。真琴の部屋はフローリングに畳二畳程度のカーペットを敷いて、そこに小さなちゃぶ台があり、窓側に大きくて分厚いマットレスが敷かれていた。


「マジか……。いいなこれ。低反発的なあれだよな。ちょっと寝てみてもいいか?」


「ダメ」


「ちょっと座るだけ」


「ダ〜メ」


「えぇ〜、ケチ」


「晩飯食いに行くんだろ?早く行こう」






 晩飯から帰って来たその夜のこと。


 新生活初日のお風呂を満喫し、キンキンのアイスコーヒーで一服。


「真琴〜、次風呂いいぞ〜!」


 キッチンからそのまま呼びかけると少しして、タオルと着替えを持って出てきた。


「引っ越し初日の新しいお風呂かぁ〜」


「いや、俺の出汁が入ってるから新しくはないぞ」


 いたずらでそう言うと真琴はジト目で睨んで来て、


「男同士の風呂で出汁とか言うなよ」


「ナハハハハ!」


 「オエェ〜」と言いながら風呂に向う真琴を笑って見送る春馬。ところが、


「まぁでも、春馬の出汁なら別に悪くないか」


「……!?」


 真琴は何気なく言ったようだったが、思わぬ返しに春馬は心臓が跳ね上がる思いだった。


 同性で幼馴染みで親友な真琴。そんな真琴のことを春馬は本当は好きなのだが、その気持ちに本人はまだ気付けていない。近すぎるが故に。同性であるが故に。



 シャワーを出す音が聞こえて来る中、謎の動揺を紛らわすようにアイスコーヒーを喉に流し込む春馬。と、その時だった。


「なんじゃこりゃあああああああ!!」


 風呂場から悲鳴が聞こえ、春馬は飲むかけのコーヒーを勢い良く吹いてしまった。しかしそれを気にするどころではなく、春馬は急いで風呂場に向かって浴室の扉を開けた。


 バタンッ!


「真琴どうした!?」


 そこには当たり前だが全裸の真琴が、こちらに背中を向けた形で立っていた。


「おい真琴、大丈夫か。何があった!?」


 問いかけても、真琴は何か俯いて小刻みに震えているだけですぐには何も返答がなかった。


「おい、真琴!」


 春馬は堪らず真琴の両肩を掴んでこっちに振り向かせた。


「大丈夫か真琴、何があったんだ?」


 俯く真琴の顔を見ようと屈もうとして、真琴の股間が視界に入った。それは目を疑う絶景……いや、光景だった。

 本来そこに有るべき男のイチモツが無かったのだ。


「……え?」


 思わず何度も瞬きをして目前の現実を疑ってしまった。こんなありえない状況をどう受け止めればいいのか……。

 思考が止まってしまった春馬に代わって、真琴本人がこの状況をハッキリと口にした。


「僕の……ちんこ、無くなっちゃた……」


「…………」


「僕の、ちんこ、無くなっちゃったんだけど……」


「ま、真琴……」


「ちんこが無くなっちゃったんですけどおおおおおお!?」


「頼むからそれ以上ちんこちんこ連呼するのやめてくれ!」


「春馬……」


「ん?」


「これってまさか……」


「真琴……」


 俺もこの状況にある三文字が頭に浮かんでいた。


「これって……もしかして……女体化ってやつ?え……、僕、女の体になっちゃったって……こと?」

 

「……」


 俺はあえて無言で風呂場から出た。


「ちょっと、待って春馬?」


 すぐに戻って来た春馬は大きめのバスタオルを真琴に渡した。


「と、とりあえず体、隠せ」


 春馬の顔は真っ赤だった。


「え、あ、ありが……と?」


 春馬の頭の中は今、女の体になってしまった真琴のあられもない姿でいっぱいだった。

 男だが、もとから女の子のようなカワイイ顔立ちと華奢な体型だった真琴。未だ無自覚ながら、そんな真琴のことが好きな春馬。そんな真琴が女の体になって、しかも全裸状態。健全な男子ならば心が乱れるのは必然。たとえついさっきまで同性だった相手だったとしても。


「春馬、なんでそんな顔赤いの?」


「…………」


「ん?」


「すまん。ちょっと頭冷やして来る」


 それだけ言って、春馬はアパートを飛び出した。

 時間は夜9時を過ぎていた。静かな住宅街に等間隔で並んだ街灯の控えめな灯りの通りを、行く当てもなくとにかく歩いた。

 ちゃんと前を向いていても、春馬の脳裏には、同性とは思えないあの可愛い顔に女の子の裸そのものの姿がチラついてしまう。タオルを渡すと、華奢な体を控えめに隠した姿。どうみても裸の女子にしか見えなかった。

 

 

 ❨真琴サイド❩


 春馬が頭を冷やしてくると言って出て行った直後。真琴は春馬に渡されたバスタオルを胸に抱えたまま、お風呂にも入るに入れず、呆然としていた。


「これ、僕、どうすればいい状況……?」


 手に持ったバスタオルを見て、それから自分の体を見おろした。


「無くなっちゃった。僕のジュニア。でも、胸は……あるのかこれ?めっちゃ控えめ……。女体化したってわりに貧乳なのが何かムカつく!」


 そう口にしたら段々とムカついてきた真琴は、その勢いでお風呂に入ってしまおうと思った。お風呂に浸かって気分を入れ替えようと決めた。

 自分の体が女体化しても、自分の体に興奮することなど全く無く、普通にしっかり体を洗って入浴を済ませた真琴だった。


「あれ、結構な時間お風呂に入ってたはずだけど、春馬まだ帰って来てない?」


 スマホで時間を確認すると、もう10を回っていた。


「1時間以上経ってない?どこまで行ったんだろ?」


 気になった真琴は春馬に電話をかけてみた。




 ❨春馬サイド❩


 真琴とのことをあれやこれや、グルグルと、ごちゃごちゃと考えながら歩き続け、気が付くとコンビニの前まで来ていた。


「ここどこだっけ?」


 スマホで時間を見ると、もう10時を過ぎていた。


「げ……。1時間近くも歩いてたのか俺!?」


 と、その時。スマホから電話着信のメロディが鳴った。画面を見ると真琴からだった。





「春馬?今どこ?頭冷やしてくるってどこまで行ってんの?」


「あ、いや……。今近くのコンビニに来てる」


「この辺、近くにコンビニあったっけ?」


「適当に歩いてたらコンビニあった。適当にアイスでも買って帰るよ。真琴、何食べたい?」


「え?あぁ……アイスかぁ〜。ジャリジャリ君……いや、やっぱりコンビニスイーツかな。プリンかエクレアで」


「了解。すぐ戻るよ」


「うん。気を付けて」





 真琴はプリンを食べながら春馬の方を見つめ、春馬はカップのチョコミントアイスを食べながら真琴の視線から目を逸らしていた。なにやら不穏な雰囲気。


「春馬?」


「……はい?」


 目は合わせずにとりあえず返事だけで答える。


「さっき、僕の体見て顔赤くしてたけど……」


「…………」


「まさかぁ〜……」


「…………」


「春馬って童貞?」


「っ……!?」


 そう来たか!?


「あっ、図星だった?」


「ち、違うわ!……いや、違わないか」


「アハハハハ!大丈夫大丈夫。僕も童貞だったし。あ、今は処女になるのか」


「お、お前な……!」


「ごめん。ちょっとだけからかいたかったんだ。でもこれで少し気が楽になった気がする」


 そこから少し真琴と話をした。

 やっぱり真琴自身本音ではパニクってはいたらしい。そりゃ当然だ。風呂に入ろうとしたらいつの間にか女体化していたなんて。漫画とかだったら、『ある日朝起きたら〜』っていうのが定番だ。でも真琴の場合は起きてる状態でいつの間にかという展開だ。なおさら訳が分からない。


「ホントびっくりだよな。女の子になっちゃった。胸あんまり無いけど」


「あった方が良かったのか?」


「そりゃあまあ、せっかく女の体になったんならナイスバディの方が嬉しいじゃん?」


「……マジか」


「あ、それだと春馬には精神衛生的によろしくないか」


「真琴はそのままの方が俺は可愛いと思うけどな」


「ん、今なんて?」


 春馬が小声で言った本音はギリギリ真琴には聞こえ無かったようだった。


 男同士の幼馴染みなのに、中学の頃から気付けばどんどん可愛くなっていく真琴に対して、無自覚ながら心が惹かれていた春馬。高校生になり、好きな女子がいても良かったはずなのだが、春馬はいつも真琴のことを見てきた。それが今、なんと女子になった真琴が目の前に。しかもルームシェア。つまり同棲状態。真琴がナイスバディでなくてももうすでに精神衛生的にダメージは受けている。

 今まで通りの幼馴染み、親友として、真琴とは男女の関係にならずにうまく暮らしていけるのか、春馬の頭の中は混沌を極めていた。




 ……続く


 少しでも面白いと思ってもらえたら嬉しいです。

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