第10話: アライグマとピチュウと俺の拳!!
振り返って、俺はトンネルに向かって走り始めた。
アマリが俺を背負って、その場から連れ出してくれている。
「ごめん、ちょっと痛いかも」
彼女の小指の鎖が伸び、俺の体を貫いた――ちょうど心臓のあたりを。
「治癒用の鎖だから、心配ないわ」
「アマリ……待て」
女の子たちは困惑した表情で俺を見て、走るのをやめた。
アマリは首を傾げる。
「ん? どうして?」
「聞くぞ、あとの2匹のアライグマはどうした?」
「えっと、またちょっと戦ったけど、すぐ降参したわ。そこにあったロープで縛っただけよ」
「ふむ……なら、アマリ、もっと早く治してくれ」
……
「はァ!? なんでそんなこと言うのよ!?」
俺はまだ彼女の肩に乗ったままだった。
「まだ助けるべき人がいる。それに、イリウスの実力がわからん。戻って手助けしないと!」
さゆりが割って入った。
「よよよ、待った!……まず、サンカルパが切れて動けないんでしょ? アマリの鎖は傷を治すだけ。疲労は取れるかもしれないけど、サンカルパは回復しないわ。それには数時間かかるの」
「ふん……構わねえ。あいつのケツを蹴飛ばすだけだ。サンカルパがあろうがなかろうが」
さゆりは囁くように言った。
「力もないのに倒すつもり?……」
「ああ、そういうことだぜ!」
アマリが叫んだ。
「ありえなーい! あの男……強いじゃない! サンカルパがあっても勝てなかったのに、ない状態で勝てるわけないでしょ!」
さゆりも頷く。
「そうそう……それで、えーと、あの時のアレの話してくれる? サンカルパの用途だけでも」
ちくしょう、早く歩けるようにならねえ!
まだ片付いてねえことがあるんだ!
【非参加型ナレーター視点】
大きな石造りの空間――壁や天井に無数の穴が開けられたその場所で、イリウスと《アライグマの守護者》が対峙していた。
イリウスは空間の中央付近、守護者は門から離れた壁際(カイとブロンドの戦いで既に破壊されていた部分)に立っている。
守護者は微動だにせず、声にも一切の感情を滲ませずに言った。
「お前は弱くない。片足がないにも関わらずな。先ほどの一撃でわかった。あの道化師と同等か、あるいは少し劣る程度だろう」
イリウスは薄笑いを浮かべた。
「褒めていただき光栄です……ですが」
彼は剣を握る右手を少し広げると、無数の赤い雷が迸り、剣を覆った――カイのものとは違い、小さな火花ではなく、幾つかは巨大な雷光となった。サンカルパだ。
イリウスの表情は一転、極めて集中した険しいものに変わった。
「ここには目的がある。邪魔者は排除させてもらう」
守護者に向かって素早く跳躍し、数メートル手前で着地すると、彼は宣言した。
「『神迎え』」
そして、千分の一秒単位で、剣を右から左へ――水平に振り抜いた。
守護者は幸運にも胸を反らせて回避したが――
「斬撃の目的は直接当てることじゃない……常に何かがある」
剣が左へ到達した瞬間、剣の軌跡に沿って巨大な斬撃が現れ、一直線に飛んでいった。
その斬撃は空間内に収まるとはいえ、とてつもない大きさだった。中央部は天井すれすれまで届き、両端(空間の角近くまで届く)に向かって次第に細く鋭くなっていく。
斬撃自体は薄紅色で、中心部には白い光が混ざっている。不規則な形で、激しくうねる水平の稲妻のようだ。
放たれた斬撃は壁を完全に破壊しながら一直線に進んでいった。
イリウスはその場に立ち止まり、守護者がもはや眼前にいないことに気づいた。おそらく斬撃で吹き飛ばされたのだろう。
彼は冷静沈着で、剣から赤い雷を収束させた。
「死んだとは思えん。探すとしよう」
剣を構え、再びサンカルパの赤い雷を呼び起こす。
「『不見不聞』」
そして、剣を地面に突き立てた。
見えないが、地面の下ではイリウスのサンカルパ(赤い雷)が超高速で360度全方位に広がり、ターゲットを探っている。
「見つけた。森の真ん中か? よし……」
剣を鞘に収め、洞窟の外へ歩き始めた。
外では、背景の森がひどく破壊され、多くの木々が真っ二つに切断されていた。
しかし、一歩外へ出た瞬間、彼は森の手前で守護者が立っているのを認めた。
イリウスは小さく笑った。
「わあ、俺のサンカルパが感知した時は森の真ん中だったのに、もうここまで来てたのか?」
守護者の胸には大きな斬撃傷が走り、衣服が裂けて胸の大部分が露出している。血に染まっていた。
イリウスは鞘から剣を素早く引き抜き、鮮やかにサンカルパを発動させた。
「ラウンド2?」
守護者はしばらく無言で立ち、虚空を見つめた後、言った。
「ナイフで防がなければ、死んでいただろう。ナイフはたくさんある。それで十分だ」
イリウスは微笑んだ。
「そうか? 剣士を甘く見るなよ……」
守護者はただ、手を上方へと動かした。
「《アライグマの秘技》第二の力――『ラーム・ドーロラ』」
イリウスがゆっくりと空を見上げると、そこには予想だにしなかった光景が広がっていた。
空はナイフで埋め尽くされていた――無数のナイフが完璧な間隔で配置され、空全体を覆っている。
「おお、千本はあるな。まさか――」
前方を見ると、小さな岩の壁が視界を遮っていた。
剣を一閃して壁を切断するが、守護者はもう向こう側にはいない。
「面白い……だが、今はこれらのナイフを処理しなければ。彼が消えたのは巻き添えを避けるためか? つまり範囲攻撃だと?」
イリウスはナイフたちに向かって笑い、剣を構えた。
「よし、待ってやろう。逃げはしない」
そしてすぐに、無数のナイフがイリウスに向かって降り注ぎ始めた。
一斉ではなく、一度に3〜5本ずつ、途切れることなく飛来する。
イリウスはナイフの動きを観察し、すぐに理解した。
「なるほど、範囲攻撃ではない……隙ができるまで何度も飛んでくるわけだ。問題は、俺は疲れを知らず、隙も作らない剣士だということ」
イリウスは素早く剣を振り、飛来するナイフを弾いていった。
剣が触れたナイフはターゲットを失い、ただ地面に落ちていく。
イリウスはただそこに立ち、極めて速い間隔で飛来するナイフを弾き続けながら、周囲にも注意を払っていた。
「全てのナイフを一撃で薙ぎ払うこともできるが、彼の不意打ちを誘うかもしれん。このままナイフを弾き続け、周囲に気を配るのが良さそうだ」
片足だけでも、イリウスにとっては3秒ごとに3〜5本のナイフを弾きながら周囲に注意を払うのは造作もないことだった。
「『全血』」
突然、赤い血の根がイリウスに向かって伸びてきた。彼は血を斬り払おうとしたが、その隙に肩にナイフが突き刺さった。
「あっ……待て、まだあるのか?」
ナイフを弾くために振り返ると、遠くに傷だらけのブロンドの男が地面に倒れているのを見つけた。
ブロンドは動けないまま、独り言のように呟いた。
「は、は……体中の傷から……既に流れ出ている血を使えば……自らを刺す必要もない……そのうち死ぬだろうが……構わん……『全血』」
再び血の奔流がイリウスに向かってきた。今回はナイフの防御を優先し、血が胸を貫くままにしたが、すぐに斬り払った。
しかし、考える間もなく、背後から声が聞こえた。
「『床』」
遠く離れた場所から、守護者が地面に触れ、イリウスの足元で地震を起こした。地面が急速に割れ始める。
「『全血』」
そしてブロンドが再び血の攻撃を放つ。
地震で足場が不安定(片足だから尚更)、迫りくる血の攻撃、そして飛来するナイフ――全てが同時に起こっている。
全てを認識したイリウスは、笑みを浮かべた。
「全員、俺の圏内にいる……サンカルパを大量に消費するから使いたくなかったが、仕方ない」
剣を構え、赤い雷が迸る。
「『孤立無援』」
ナイフと血が到達する直前に、イリウスの剣から大爆発が起こった――淡紅色のエネルギーの衝撃波、サンカルパだ。
瞬時に広大な範囲を覆い、ブロンドと守護者にまで到達した。
赤い雷光が走り、守護者の胸の傷が即座に開き、立ち続けるのも困難なほどの圧力がかかる。ブロンドは即座に気絶した。
空のナイフは飛来を止め、無数の破片に砕け散った。血の噴流も同様に切り裂かれる。
地面の震えも止み、守護者の『床』は無効化された。
約10秒後、爆発は急速に収縮し、イリウスの剣へと戻っていった。赤い輝きは視界から消え、すべてが元に戻った。
イリウスはゆっくりと振り返り、守護者を見据えた。
「どうだ、あの異常な速度と筋力はシスの能力か?」
胸から血を流し、明らかに疲労している守護者は、冷静かつ無感情に答えた。
「違う。訓練の賜物だ」
「ふむ、ならば」
イリウスは剣を右手に構え、腕を広げた。
「速度と筋力、どちらが上か試してみようか?」
「……」
こうして、二人は超高速での連続攻撃――斬撃と衝突を繰り広げ始めた。
あまりの速さに、遠くから見ればただ二つの閃光が行き交っているように見えるだろう。
守護者は両手にナイフを持ち、イリウスはサンカルパを纏った剣で応戦する。
数分間でありながら長く感じられる、互角の戦い。
しかし、ついに守護者の右足が切断され、地面に落ちた。
二人は見つめ合った。
イリウス:
「終わりか?」
「違う。両手で戦う。お前も片足だ。これで公平だ」
「はは、そうか」
そして、再び同じ攻防が繰り返された。
一方、洞窟内の門の中では、カイは既に(アマリに治癒された後)立ち上がっていた。
本章は全3部構成となっており、こちらはその第1部になります




