第8話(その2)
「おはよう、ダーリン達♡ その赤髪、気に障ってた? なら良かったわね♡」
俺たちは、にやりと笑いながら目の前に立つクラウンを見上げた。
まさかここで会うとは……びっくりしたぜ。
アマリが口ごもった。
「あ、あんたがさっきの――」
クラウンは彼女の言葉を遮った。
「さて、そろそろアライグマ殺しのアジトに向かうとしようか? 心配いらないわ、場所は知ってるから」
サユリが口を開こうとしたが、またもや先に喋られた。
「プロバティオネムは持ってる?」
サユリは、何か大事なことを思い出したみたいにぴょんと跳ねた。
「あ、それ忘れてた……」
そして俺たちを見て、こっちが何のことか分かってないのに気づいた。
「えーと、それはね、ギルドが君たちが依頼をクリアしたかどうか確かめて、報酬を渡すための証拠を入れる魔法の箱みたいなもの……で、だけどそれってつまり……」
サユリはクラウンを不安そうかつ驚いた表情で見つめた。
「こ、これを渡さなかったら、屋敷もらえなかったかも……」
クラウンは何も答えず、バーのドアに向かって歩き出した。
にやりと笑いながら、最後に俺たちを見やる。
「外で待ってるわ。準備ができたら来なさい」
そう言って去っていった。
ったく……アイツ、マジで変な奴だぜ……
で、今は例の森を歩いてるわけだ。
もう何度も来すぎて飽きてきたな……
クラウンはあの箱をどこかにしまい込んだ。多分魔法で消したんだろう。
アジトの場所を知っているはずのクラウンが、わざわざ少し離れた後ろの方でニヤニヤしながら見ているだけだ。
振り返らないようにしてるけど、正直ドキドキするぜ。
横の女たちの顔を見ると、サユリはなんか落ち着かなそうだし、アマリは平然としてる。
こんなみんな黙っちゃってる感じ、マジで嫌だ。クラウンのせいだよ!
しばらく歩いてると、どうもジグザグに進んでる気がする……
突然クラウンが言った。
「右よ、ダーリン達」
俺はイラっとしながら振り返った。
「また森かよ?! もうウンザリだぜ! 行ったり来たりで意味わかんねー!」
「おやおや、そんなに騒がないで……秘密の場所なんだから、ぐねぐね道は仕方ないわ。もうすぐよ」
だったらいいけど!
その時、突然目の前に人影が現れた。
アライグマの仮面を被った中年男だ。
「おい! この先に行く用件はなんだ!」
その仮面を見ただけで、たとえ雑魚だろうと、俺は少し震えが止まらなくなった。
三人でクラウンを見る。攻撃すべきか、話すべきか迷ってる。
クラウンはため息をついた。
「あら、ようやく現れたのね……」
そいつにふらりと近づく。
「おい! 用件を聞いているんだぞ! ここで何をしているんだ――」
男は突然混乱した様子で辺りを見回した。
「は? 煙?! い、いつ……」
煙? 何もないぞ、何言ってんだ?
クラウンは男の背後に回り、耳元で囁くように言った。
「私を忘れたの? 前に会ったでしょう……」
男は驚き、ぐるりと回ってクラウンを捕まえようとするが、なぜか見えないらしい。
「もう……関わらないでくれ……」
そして、クラウンは手のひらをまっすぐに伸ばし、一瞬で男の首筋を叩いた。男はその場に倒れ込む。
一瞬、アマリと俺は驚いてクラウンを見た。サユリはそうでもないようだが。
アマリが言った。
「あ……殺したの?」
クラウンは首を傾げた。
「え? そうするべきだった?」
「い、いや! てっきり……」
「ムオホホホ、道化師は取るに足らない相手とは遊ばないのさ」
誰も返事をしなかった。
「さて……続きましょ、ダーリン達。右よ」
無言で、俺たちは森の中へと進んだ。
みんな、なんか喋るの怖がってるみたいだ……
しばらくして。
「到着でーす……」
クラウンが歌うように宣言した。
俺は言った。
「は? まだ森の中じゃん……」
「心配いらないわ、もうすぐよ。あと二歩歩いてごらん」
文字通り二歩進むと、木々の間から見えるものがある。
岩だらけの空地で、目の前には岩壁――いや、入口のある洞窟だった。かなり大きく、明らかに人工的に作られたものだ。
待てよ、この洞窟の形……岩の配置……
アマリが叫んだ。
「クソッ、アライグマの形してんじゃねーか!」
その通り、洞窟の外観は明らかにアライグマの形をしていた。
俺も叫んだ。
「なんで誰も気づかなかったんだよ?!」
サユリが小声でつぶやく。
「秘密組織だし、こんな辺鄙な場所だし……まあ、もっと目立たないようにするべきだったとは思うけど……」
クラウンは洞窟を眺めながらにやりと笑った。
「さあ、みんな準備はいい?」
緊張してたが、俺は自信ありげにうなずいてみせた。
洞窟に入ると、中は意外と明るかった。ランタンや松明がたくさん灯されている。
まっすぐな通路を下り、しばらく歩くと、広い空間に出た。
平らな地面が広がり、そして何より――大きな石の門が立ちはだかっている。
クラウンは門の前で振り返った。
「さて、ここが入口ね……でも実は、ビッグ・サユリちゃんやもう一人の小娘さんには別の用があるみたい……」
アマリは「小娘」と呼ばれたことに気づいてないようだ(良かった……)。
だが誰も反応する前に、クラウンは続けた。
「つまり、勇敢な坊やにはこっちの道がお似合いかな……ムオホホ。とはいえ、君たち二人にもごちそうがあるわよ!」
突然、壁にカモフラージュされていた二つの扉から、二人のアライグマ殺しが現れた。
「侵入者だ!! もう逃がしはしない!」
すぐにわかった――昨日の緑髪の女と茶髪の男だ。どっちも俺のターゲットじゃない。
クラウンが言った。
「こいつらを片付けなさい。カイは会いたい人に会いに行く……じゃあね」
「ちょ、待って――」
アマリが叫んだ時には、クラウンはもう門を閉めていた。
二人のアライグマ殺しも門を見て驚いている。
「あ……あれ?! ボスのところに直行したのか?! 本当のボスのところに!!」
アマリはサユリに寄り添い、サンカルパを手に構えた。
「どうする……?」
「閉所だから最大火力は使えないけど……とにかく一緒に行こう――」
「セレクト!!」
「セレクト!!」
二人のアライグマ殺しがサユリとアマリに向かって手を差し伸ばしながら『セレクト!!』と叫ぶと、俺たち四人は一緒に消えた。
「あれ? ここは……てめー!」
アマリは広い岩の廊下のような場所にいた。向こうには緑髪の女が立っている。
「サユリも同じ目に遭ってるはず……ったく、一対一がいいなら付き合ってやる!」
一方、クラウンに門の中へ押し込まれた俺は、すぐに人影を見つけた。
広大な秘密の部屋のような場所の中央――フードとアライグマの仮面を被った男がぽつんと座っていた。まるでずっと誰かを待っていたかのようだった。
あの仮面を見た瞬間、奴だとわかった。
「お前を探していた。見つからなかったが……来てくれたな」
今まで誰かを殺したいなんて思ったことなかった。
殺したいのか? よくわからねー……怒ってるのか、怖いのか、興奮してるのか、悲しいのか、自信があるのか、なんかマジで変な感じだ。
震えてるけど腹立ってる、怖いけど奴を倒したい……いや、殺したい?……
やるしかねーぜ。
そういえば、クラウンはどうして俺とアライグマ殺しの因縁を知ってたんだ?
それに、このアジトのことも詳しすぎる。怪しい。
「我はアライグマの守護者……人類の終焉をもたらす者の守護者なり」
以上、第8章はこちらで完結となります




