表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/27

第7話(その2)

ふと、俺は「目が覚めた」。


家のキッチンに立っていた。


さゆりはテーブルの上で猫の腹を撫でている。


「おや、誰が私の小さな王子様?ぽっちゃりふわふわの毛玉ちゃん?メルメルメルメル~」


アマリが怒鳴った。


「5秒前に売りつけようとしてたのと別人みたいじゃないか!」


「メルメルメルメル…」


ああ、俺は時間を戻されたのか…


ちょうどベルが鳴る直前の…


手をグッと見下ろし、胸に手を当てる。……全部無事だぜ。。


俺…復活した?二人が目の前で殺されるのを見たのに、今は何事もなかったようにいる。そしてあの仮面の男はまだ襲ってくるのか――


「ねえカイ、大丈夫?」


心配そうにアマリが声をかける。


さゆりに撫でられる猫を見る。


あの猫を今までと同じ目では見られない。無実だと分かっていても。


そうだ、アライグマだ!


急いでその場を離れ、玄関へ全力で走った。


「カ、カイ!?どうしたの!?」


アマリが叫ぶ声を背に、ドアに飛びつく。


サンカルパを手に纏わせ、覚悟を決める。


アライグマ…いるのか?確かめなきゃ!


勢いよくドアをガチャッと開けると――


……


何もいない。ただ木々と、周りの家々の緑が広がっているだけ。


こんなに安堵と混乱が同時に押し寄せたことはない。


後ろからアマリがゆっくり近づいてくる。


「んー、カイ…具合悪いの?顔色が――」


さらに後ろから、頭に猫を乗せたさゆりが。


「おほー、この子ゴロゴロ言って、俺の帽子を巣にしちまったみたいだな!」


アマリが突っ込む。


「でぶ猫は子じゃない!巣も作らん!」


さゆりは帽子の猫を撫で続ける。猫は気持ち良さそうに身を任せている。


「修行すればできるわ!…で、カイ…大丈夫?」


頭を振り、平常心を装って笑顔を作る。


「あー、別に…ただ、すごく嬉しいんだぜ」


父さんの教え通り、笑顔でいよう。弱みを見せるな。


二人は無言で視線を交わした。


「じゃあ、まずは「巨大ネズミ50匹討伐」ミッションに行くぞ!金も必要だしな、頼むぜ?」


この言葉に嘘はないのか自分でも分からない。


ただ横になりたいのか、それとも何事もなかったように振る舞いたいのか。


多分後者だ。


あの出来事を話したい、警戒するように伝えたい…でも猫に止められた上、そんな選択肢はない。


二人を見るたび、あの無残な姿が脳裏に焼き付く…ただ考えるだけで恐怖が襲う。


いや、恐怖じゃない。むしろ…良かった。


何も言わない方がいい。全て無かったことにしよう。


難しいが、これが最善だ。


ただ一つ学んだ。もっと強くならなきゃ。全力で成長する。


***


午後5時頃、三人でギルドへ向かう。


金は底を突いてる。家賃も払わなきゃ。


とりあえず適当な依頼を探そう。


…って、誰か一人留守番すれば良くない?


まあいいか。


あの記憶を消せるだろうか。


必要だけど、あまりに生々しくて。


二人を見る度に思い出す。


でも乗り越える。いつも通りでいよう。


仮面を被るんじゃない。俺はいつもこうだ。


何もなかった。


何もなかった。


何もなかった――


「カイ、大丈夫?」


先を歩くアマリが振り返る。


首を振り、笑顔でうなずく。


「ああ!そうだぜ!」


速足で追いつく。


でもあのアライグマ仮面が頭から離れない。


あの男はどうなった?まだこっちを狙ってる?それとも猫が殺した?


まあ、考えても仕方ない。でもあの化け猫が助けてくれるなら俺は不死身じゃん?!


…考えるのやめよう。


「カイ、ちょっと…家で休んだら?」


横顔に笑いかける。


「ははは!それでお前らを誰が守るんだよ!」


「は!こっちが守ってやるわ!…でしょ、さゆり!」


さゆりは訝しげに横目で俺を見ていた。


「ふむ…実際のところ、私がいれば十分ですが」


アマリが言い返す。


「え!?遠距離専門の非力な魔法使いが!タンクが必要でしょ!」


「タンク?…アンタがそう言うの?」


「まあ…そういうこと?」


さゆりはアマリの目をじっと見てから、杖を地面にドンと叩きつけ宣言した。


「よし!ではタンク命名儀式を始めます。我、さゆりは世界一の魔法使い――」


「うわっつまんねえ!タンクとかやってらんねーよ!」


二人が言い争う中、俺が指を立てる。


「おいおい、俺は?俺は何になるんだ?」


さゆりは顎に手を当てて考え込む。


「んー、あなたは…ぶっちゃけ喧嘩屋って感じ」


アマリも頷く。


「スレイヤーとかDPSとかそんなとこね」


さゆりが首を傾げる。


「でぃーぴーえす?」


アマリが答えようとする前に、俺が叫んだ。


「俺は最強になりてえ!」


二人が同時に怒鳴り返す。


「そういう話じゃないの!」


***


少し落ち着いてから、アマリが聞いてきた。


「ねえカイ、シスはもう決めた?」


さゆりも小さく頷く。


「私も聞こうと思ってた」


にやりと笑う。


「ああ、決めたぜ!…でもアマリが治癒能力を秘密にしてるみたいに、俺も教えねーよ」


「誰が喋ったのよ!?」


アマリが即座に叫ぶ。


しまった、知ってるはずないんだった…


「えーっと、まあ…適当に言っただけ?」


アマリは本気でムキになっている。


「一回で当てやがって!?」


さゆりは半ば興奮状態。


「当たったってことじゃない!」


アマリは諦めたようにため息をつく。


「あー…そうよ。指輪の一つは治癒能力…でももう一つは内緒!」


近づいて観察する。


「よし、当ててやる!…」


アマリの手をじろじろ見る。


「気持ち悪い!手フェチみたいじゃない!」


んー、なんだろう…なんだろう…わかった!


パッと手から目を離し、立ち上がる。


「空を飛べるんだろ!」


さゆりがくすくす笑う。


「え?指輪の鎖で飛ぶですって?ふふふ、そんなわけないでしょう!」


アマリも笑い出す。


「それでどうやって飛ぶのよ!バカじゃないの?」


二人に笑われている。


今までなら腹が立ったはずなのに、なぜか嬉しい。


わざとじゃない、本気で思ってたことだ…でも恥ずかしさより、二人が笑ってるのがただ嬉しい。


これはもう仮面なのか?それとも本当に元通りなのか。


答えは出ない。


***


しばらくして、ようやくギルドに到着。


今日はかなり混んでる。何かパーティーでもやってるのか、音楽がガンガン鳴ってる。


アマリが指図する。


「いい?作戦通り。依頼を見て、すぐ帰る。誰とも話さない」


はっきりと言い放つ。


「了解!あとは――…ねえアマリ」


さゆりがゆっくりとアマリを見て、ゆっくりと言う。


「カイがいない」


アマリが慌てて周りを見回す。俺の姿はない。


「あのバカ!ほんとにもう!!」


で、俺はというと――ギルドの隅で面白そうなものを見つけちまった。


「おっ小僧!君も遊ぶかい!?」


壁に縛り付けられたデブの中年男。


パンツ一丁で、なぜか満面の笑みを浮かべている。


声をかけてきたのは、大きなゴムハンマーを持ったキザ男。


「ん、何これ?」


キザ男が説明する。


「ミスター・ポークゲームへようこそ!」


ミスター・ポーク…聞いたことある名前だ。


「ルールは簡単。このハンマーでポークさんの腹を全力で叩くだけ」


まばたきを二回。無反応。


きっと酷いゲームだと思ったんだろう、キザ男は慌てて続けた。


「その、ポークさんはこれが大好きなんです!金のためだけじゃなく、本当に――」


遮る。


「これ…超クールじゃねえか!!」


キザ男は一瞬たじろいだが、すぐに笑顔に戻る。


「そうこなくちゃ!参加費はたったの1シールド。秘密の報酬も超豪華!…詳しくは――」


「報酬とかどうでもいいぜ!とにかくあいつの腹を叩かせてくれ!」


「では1シールドいただきます。それだけ」


ポケットを探るが、財布は空っぽ。


「ねえじゃねえぞ、こんちくしょう!」


この世界で金を握ったことなんて一度もない!


「待ってろ!すぐ持ってくる!」


走り出す俺に、キザ男が声をかける。


「急がなくていいよ!優先的にやらせますから!ポークさんも待ってます!」


アマリたちがまだ入口にいる。急停止。


「おいカイ!どこ行ってたの!?もう――」


さゆりに窓を指さす。


「おいさゆり、あそこに鳥が!」


むっとした顔。


「そんな手に引っかか――」


「おいさゆり、超有名な魔法使いが!」


「どこ?」


振り向くさゆり。その隙に金を奪い、全速力で逃げる。


「え?あ…ちくしょう!また騙された!」


アマリの叫び声。


「お金取られてるよ!」


ポケットを確認するさゆり。


「えっと…あ…この野郎!金を盗んだ!」


アマリを指さす。


「アンタのせいよ!止められなかったの!?」


「は!?私にどうしろっての!?最も古典的な手に引っかかって!」


「だ、でもアンタも悪い!」


一瞬の沈黙。


「追いかけよう」


「そうね」


一方、俺は「借りた」1シールドをキザ男に渡す。


「ありがとう!はい、どうぞ」


ゴムハンマーを受け取る。


「楽しんでね。ポークさんも喜ぶから」


壁に縛られた変態の前に立つ。


ポークは熱烈な眼差しで言う。


「おや?今日の挑戦者は若い子だ!ああ、たまらん…」


俺はストレッチを始める。


「俺を叩くのかい?その調子だ、全力で来い…」


ふと気づくと、大勢の男たちが囲んでいる。


「ん?何か?」


腕組みした男が答える。


「いや、むしろ歓迎だ。ポークさんの事情を知ってるか?」


首を横に振る。


「ポークさんはゴムハンマーで腹を叩かれるのが病みつきなんだ。毎晩ここに縛られてる。『最大の満足』を与えた者には特別な報酬があるらしい。『最大の満足』ってのは、特定の痛みのポイントを突くことらしい。気絶するほど強くね」


まだストレッチ中。


「今まで誰も成功してないの?」


「ああ。最初はみんな本気で挑んでたが、そのうちカジノみたいになった。街一の力自慢も呼んだが、全員失敗。もう諦めてる奴が多い。挑戦者は大抵、自信家か初心者だ。でも――」


男は周りに手を広げる。


「見物は楽しいんだよ!」


観衆が沸き立つ。


「やれ!やっちまえ!」


「ポークをぶっ飛ばせ!」


「終わらせろ!」


どうやらポークに散々やられた恨みがあるらしい。


でも多分、誰も俺が勝てるとは思ってない。ただ見たいだけだ。


にやりと笑い、宣言する。


「よーく聞け!俺が…勝ってやる!」


その一言で観客は熱狂する。


ポークに向き直り、ゴムハンマーを握りしめる。


ポークは至福の表情で囁く。


「さあ坊や、全力でおいで。遠慮はいらないよ…」

本章は全3部構成となっており、こちらはその第2部になります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ