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第7話: やめて……

床に倒れ、血まみれになった俺は壁にもたれかかり、胸を押さえて苦悶の叫びを上げていた。


ホールの中央を見やると、あの男は俺を見もせず、ただ家の他の部屋へと続くドアを奇妙に見つめていた。


「カイ!? 何が起こってるの!?」


駆けつけたアマリとサユリの姿に、男は静かに視線を移す。


アマリが叫んだ。


「カ、カイ!? あ、あなたは誰!?」


サユリは目を見開き、完全に恐怖に凍りついた。


「か、カイ待って、こいつは……『アライグマ』……!」


男は微動だにせず、片手にナイフを構えたまま、地面を見つめて言った。


「違う。私はアライグマではない。アライグマの守護者だ。アライグマと私は別物。私はアライグマを守護する」


サユリとアマリはパニック状態で俺を見た。アマリがサユリに囁く。


「さ、サユリ! 魔法を使え!」


「杖、キッチンに置いてきた……それに閉所だと精度が……」


アマリが歯を食いしばる。


「ちっ……でもカイが優先よ! 『指輪』!」


彼女の指輪の一つが伸び、俺に向かって飛んでくる――が、男は一閃でそれを両断した。チェーンの半分がアマリに戻ると、男は再び俯いた。


「守護。それが私の全て。私は無だ。アライグマの守護者以外何者でもない」


まるで独り言のように、男は呟き続ける。


あの異常な速さに、アマリは震えた。


「くっ……カイはもう失血死しそう……あれ? サユリは――」


するとサユリが杖を持って戻ってきた。


「戻ったよ!! 私の大切な杖と一緒に!!」


男は彼女を無視し、依然として床を見つめている。


アマリがサユリに耳打ちする。


「時間を稼いで……カイを助ける隙が欲しいの!」


サユリが力強く頷く。


「了解!」


杖を男に向けると、男はようやく視線を上げた。


「見て! 魔法使いの力、ビウム!」


白いビームが放たれるが、男は軽々と回避。


サユリは動揺した。


「避け……!? こ、これならどうだ!」


連続で『ビウム』を放つが、男は壁を蹴りながら全てを回避。その様子を、いつの間わり現れたメルメルが微笑みながら見ていた。


サユリは汗だくで笑う。


「はっ! 罠にはまったわね! アマリ!!」


アマリのチェーンが俺を包み、彼女の元へ引き寄せられる。男は距離があり、手出しできなかった。


「サユリ、やったわ!」


「当然よ!」


アマリは廊下へ走り出す。サユリの小指のチェーンが俺の胸に突き刺さる。痛みはなかった。


「小指の力は『治癒』……時間はかかるけどな」


サユリがそう言った瞬間――


「サ、サユリ!?」


男が彼女の眼前に立っていた。次の瞬間、男が下がると――サユリの額から血が噴き出した。


頭を貫かれた彼女は、その場に崩れ落ちる。


「あ…アマリ! やめろ…戻れよ、サユリが――」


「とにかく隠れましょう――!」


アマリの顔には恐怖の色が浮かんでいた。泣きそうになりながら走る彼女の胸から、突如ナイフの先が現れた。


「ぐはっ……!」


俺を床に落とすと、男はアマリの頭を掴み、三度胸を刺し、その体を投げ飛ばした。


恐怖、混乱、怒り、絶望――全てが混ざり、もはや刺された痛みさえ感じない。


「どうして……なんで俺がこんな目に……サッカーやってた時に戻りたいぜ……友達に会いたいぜ……」


涙が溢れる中、仮面の男がナイフを振りかざす。


「『アライグマ』とは何か。誰か。それはお前の想像を超える。『アライグマ』は私を怖がらせる。私は『アライグマ』になりたかった。最初の『アライグマ』に。これは復讐以上のものだ」


ナイフが俺の心臓へ向かう――その時。


「もう十分だろう」


遠くから声が響き、男の腕が地面に落ちた。


廊下の奥から、何かが歩いてくる。メルメルだ。


「今日死ぬ運命ではないからね」


猫は俺の横に止まり、にやりと笑った。


「質問には答えられないが……」


もはや喋る猫にも驚かない。疲れ切っていた。


「メルメル……? いや、お前は……」


「君が名付けた猫はあくまで『メルメル』。私は違う。元に戻ったら、このデブ猫は普通の猫だと覚えておいて」


「元に……戻る? つまり……?」


「ああ、文字通りさ」


「じゃあ……あの二人も助かるんだろ?」


猫は首を傾げた。


「え? なぜ? 気にかけるのは君だけだよ?」


「な……! ダメだ! 俺だけ助かるなんて!」


すると猫は恍惚の表情に変わった。


「おお、この反応! たまらない! 君が大好きだよ、カイ!」


猫は狂ったように早口でまくし立てる。


「カイカイカイカイ! 完璧だ! 愛してる! やっぱり君だった! 会いたかった! 一緒にいたい! 君になりたい! 永遠に傍にいたい! 愛してる、カイイイイ!」


猫の狂気じみた顔が俺に迫る。何も理解できない。ただの悪夢であってほしい。


猫は一息つくと、慈愛に満ちた目で俺を見下ろした。


「苦しむ顔さえも美しい……さあ、秘密にしよう。そして――」


首に鋭い痛みが走る。ネックウォーマーは無傷のまま、首が斬り裂かれる感覚。


「私を探してね、私のバカちゃん」


猫は幸福そうに微笑みながら、俺の意識を奪っていった。


アマリやサユリに会えるのか。友達には――


なぜ、俺だけがこんな目に……



本章は全3部構成となっており、こちらはその第1部になります

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