第6話(その2)
「到着だぜーーー!!!」
午後3時、ついに俺たちは新居に到着した。
アマリは目を丸くしていた。
「で、でっかい家じゃない!?」
さゆりはそれほど驚いていない様子。
「クラウンの屋敷」
その家は石と黒い木材でできた二階建て(多分屋根裏部屋もある?)の大きな建物だった。低い石塀ときしむ鉄門で囲まれた、少し手入れされていない前庭が石畳の道路から続いている。
めっちゃ豪華で、今まで住んでたアパートとは比べ物にならない。
「早く中見たいぜ!」
俺はドアを開けようとしたが、鍵がかかっていた。
「あーもう…スーパーキックだぜ…」
ドアを蹴破ろうとした瞬間、アマリの"友情パンチ"が飛んできた。
「バカ、鍵持ってるわよ…」
そう言って彼女がドアを開けた。
広々とした玄関ホールが広がっていた。床は黒と白のチェス盤模様。頭上には、クリスタルではなくカラフルなガラス玉でできたシャンデリアがぶら下がっている。意外にもピカピカに掃除されていた。
三人でしばらく呆然とその豪華さに見とれていた。
「キッチン見るぞー!」
俺はそこからキッチンへと走り出した。
アマリは小さく呟いた。
「…風呂入ろっと」
するとキッチンから声が聞こえた。
「うん、臭いからな!」
「あ、あんた!? 一週間貧乏だったんだから仕方ないでしょ、あんただって臭いわよ!?」
さゆりが考え込むように言った。
「確かに臭うね」
「うるさい!」
「…私は部屋を選ぶわ。一番大きいのをゲットするんだから! ムハハハ!」
彼女は二階の寝室があるフロアへ駆け上がっていった。
冷蔵庫を開けると、
「いっぱい入ってる! うわー、美味しそうなものばっか!」
ふと気がついた。
「待てよ…クラウンはプレゼントがあるって言ってたよな…なんだろう… あっ、もしかしてこの冷蔵庫と…」
パントリーも開けてみた。
「このパントリーか!?」
まあ、悪くない。
その時、階段を降りてくる足音が聞こえた。
「私、もう部屋決めたわ…次はあんたの番よ」
パントリーから出ると、さゆりの顔が見えた。
「おっ、さゆりか! 了解!」
俺は二階へと駆け上がった。
二階はただの廊下で、左右にたくさんのドアが並んでいた。
「うーん、どれにしようかな…」
近くで水の音が聞こえた。
「ん? 何だ…」
音のする方向へ歩いていくと、一つのドアにたどり着いた。
なんだろう? 家の中にプールでもあるのか?
ドアを開けると――
「な、なにしてんの!?」
アマリが風呂に入っていた。
「あ、悪い!」
ドアを閉めた。
んー、あれは部屋じゃないな。他のドアを探すか。
次のドアにはシールやら何やらが貼ってあった。
「許可なく入るな!(怒)」「世界一偉大でクールで、将来世界一の魔法使いになるさゆり様の部屋!!」なんて書いてある。「危険」マークもたくさん。
「あ、さゆりの部屋か…よし! 空いてるのを探せば… ん?」
廊下の奥に何か目に入った。白い階段がさらに上へ続いている。
「おっ、屋根裏部屋か!? ここは俺の部屋に決まりだ!」
急いで階段を駆け上がり、天井の扉を開けて屋根裏へ出た。
真っ暗で何も見えない。
でも、
「めっちゃカッコイイ! わーい!」
何かが足の間を走り抜け、俺は床に転がった。
「あれ…何だったんだ…まあいいか」
立ち上がる。
「懐中電灯か何か必要だな… あ、この家に懐中電灯あるのか? じゃあランプとか?」
階段を降りようとしたその時、一階からさゆりの声が響いた。
「みんなー!! 何か見つけたわよー!!!」
ふと思いついた。このまま隠れてたら、みんなが探し回るのを見てやろうかな、なんて――
「猫がいるのー!!!」
見に行かなきゃ。
階段から飛び降り、一階へと駆け下りた。
そこにはさゆりが猫を抱えていたが、見たことのない種類だった。
その動物は全身黄色で、黒い目をしており、とんでもなくデブだった。
そして何より奇妙なのは、明らかに笑っているように見えること。
さゆりは平静な顔で、その動物を前足の下から抱えていた。
不気味な笑顔だが、めっちゃ可愛い。
「おー! 超可愛い! 名前は!?」
さゆりが答える前に、アマリが階段から降りてきた。青いパジャマ姿で、髪は濡れ、あくびをしている。
「何騒いでるの… わあああああ!?」
今、三人でキッチンにいる。
アマリは目を丸くしてさゆりに駆け寄った。
「かわいいいいいい!! 触らせて…」
「…」
「ください!」
アマリが触れようとした瞬間、さゆりは身をかわしてダイニングテーブルに飛び乗った。
「下がれ凡人ども!! この猫を発見したのは私だ! だからどうするかは私が決める!」
さゆりは猫をトロフィーのように抱え、得意げにしていた。
俺とアマリはイラっとしながら彼女を見上げた。
「もう…でも名前はあんたが決めるんじゃないわよ!」
「それにテーブルから降りろ!」
さゆりは首を傾げた。
「え? どういう… この猫、売るんだからな!」
俺とアマリは衝撃を受けた。
アマリが叫んだ。
「は!? な、何言ってんの!?」
俺も激怒した。
「お、お前頭おかしいんか!?」
さゆりは天井を見上げた。
「あー…外国人だったわね…」
ため息をついて説明した。
「この猫、ペルソナ猫っていう種類なの」
俺たちはきょとんとした。
アマリが聞いた。
「ペルソナ…? どういう意味?」
「猫の品種よ、ただの猫じゃないの… 超がつくほど高価なのよ! この家と同じくらいの値段がするわ!」
アマリと俺は顔を見合わせた。
そして同時にさゆりに言った。
「で?」
さゆりはイラついている。
「だから売って、そのお金でここに住むのよ! この猫がクラウンのプレゼントに決まってるでしょ!」
さゆりは呆れたように言った。
「でもお金あるじゃん…」
俺も続けた。
「そうだよ…まあお前はあるけど」
さゆりはそれを聞いて激怒した。
「な、何言ってんの!? 三人で住むマンション代を私一人で払えると思ってんの!?」
アマリが小さく言った。
「その…ギルドのミッションで稼げば…」
俺も叫んだ。
「そうだ! 猫を売るなんて絶対ダメだ!」
アマリも叫んだ。
「そうよ! この子は私たちのペットになるの!」
さゆりが反論する前に、玄関のベルが鳴った。
ドアを見る。
「んー、アマリ行けよ」
「え!? ダメよ、パジャマなんだから!」
「なんで昼間からパジャマなんか着てんの!?」
さゆりはまだテーブルの上で小さく言った。
「私は猫抱えてるから無理!」
「そんなの理由にならねーよ… もう…」
再びベルが鳴る。
「今行くぞー!」
俺はドアへと向かった。
さゆりとアマリだけが残された。
二人はしばらく見つめ合い、アマリが突然ジャンプして猫を奪おうとしたが、さゆりはかわした。
「こっちよこしなさい!」
「は!? なんでよ!」
アマリは再びジャンプした。
「だ、だって…重いし、あんた力なさすぎで持てないでしょ!」
さゆりはさらに後退り、テーブルから落ちそうになった。
「言い訳にならねーよ!」
アマリはテーブルに飛び乗った。
「と、とにかく…売るのはダメ!」
アマリはさゆりに近づき、猫を掴もうとした。
「売るしかないのよ、これが一番いい方法なんだから!」
「他にも方法はあるわ!」
アマリはさゆりに飛びかかり、二人は床に転がった。
もみ合いになり、猫はテーブルへと逃げ、にやにやしながら見物していた。
二人は髪を引っ張り合う、とても…子供っぽいケンカを始めた。
「猫は私のもの!」
「みんなのためを思ってるの!」
「でも猫は猫なの!」
「猫! そんなの関係な…」
突然、二人は動きを止め、ドアを見た。
そこには俺が、少し困惑した顔で立っていた。
「ん? 何してんの?…」
二人は床の上で恐怖の表情を浮かべた。
「か、カイ… まさか…」
俺は大きく笑顔を広げた。
「何してんの!? 俺も混ぜろ!」
「ダメよカイ!!! やめてー!」
「いくぞーーー!」
「やめろーー!」
俺は二人の上に飛び乗った。
…
しばらくして、三人は立っていた。
二人はぐったりと疲れ切っている。
俺は満面の笑み。
「ははは、俺の勝ちだ!」
二人は同時に叫んだ。
「何が勝ちよ!?」
俺はただ誇らしげに笑い、二人はため息をついた。
アマリが俯いて言った。
「で、誰だったの?」
「ああ、ドアか? それが…」
包まれた手紙を渡した。
「郵便配達員だと思う。『この家の名義は?』って聞かれたから『カイ』って答えたよ。あと何か受け取るかとか聞かれて、最後にこれ渡された」
アマリとさゆりは興味深そうにその紙を開いた。
アマリが言った。
「クラウンからの手紙かしら?」
そして読み始めると、彼女の表情がだんだん恐怖に変わっていった。
「これ…家の請求書じゃないの!?」
さゆりが紙を奪い、金額を読んだ。
「え、えっ… こんなに!?… 私一人じゃ払えないわ!」
二人を見る。
「だから猫を売るしかないのよ!」
アマリは歯を食いしばったが、仕方ないと思っている様子。
「で、でも… ミッションで… なんとかなるかも…」
俺も必死だった。
「そ、そうだ! 俺たちスイサイダーズだぜ!」
さゆりはため息をつき、テーブルで眠る猫を指差した。
「わかったわ! 難しい道を選ぶってなら… でも…」
腰に手を当て、自分を指差した。
「名前は私が決める!」
アマリと俺は震えた。何が出てくるか覚悟していた。
「で、どんな名前にするんだ」
さゆりはきょろきょろし、少し赤くなって言った。
「メルメル」
意外な名前で、アマリと俺は驚いた。
アマリは驚いた顔で俺を見た。
「あれ… まあまあじゃない?」
俺も頷いた。
「ああ、彼女の魔法の名前もこんな感じならいいんだけどな…」
さゆりはテーブルの上で猫の腹を撫でていた。
「おっと、誰が一番の王子様かな? ぽっちゃりふわふわのメルメルちゃん? メルメルメルメル…」
アマリが叫んだ。
「5秒前まで売るって言ってたくせに!」
「メルメルメルメル…」
「そういえば、なんでそんな名前にしたんだ? メル…メル… あっ! もしかしてニャンニャンをそう聞こえて…」
その時、再びベルが鳴った。
二人が同時に言った。
「カイ!」
「さっき行ったばっかだぞ! 今度は…」
さゆりは猫を撫でながら言った。
「私は忙しいの」
「猫撫でてるだけじゃねーか!」
アマリも言った。
「家の男の子でしょ、行きなさいよ」
くだらない言い訳ばかり…
ため息をつき、ドアへ向かった。
部屋も決めてないのに、もうこんな時間… 晩飯作る時間もないじゃないか! たまったもんじゃねえ!
ドアノブに手をかけ、開けた。
「俺がこの家の所有者だ… 待てよ、所有者なら本来は俺が… 何…」
胸元を見ると、ナイフが突き刺さり、血が流れていた。
ゆっくりと顔を上げると、ドアの外に立った男がナイフを引き抜くところだった。
「ガキ共め…」
俺は後ろに倒れ、胸を押さえて苦悶の叫びを上げた。
その男はアライグマのマスクを被り、黒いジャケットとパンツ、右手に血塗れのナイフを持っていた。帽子で髪は完全に隠れ、顔は見えないが、怒りというよりは疲れ切った、あるいは自信に満ちた表情をしているように感じた。背は高く、前に見た三人組とは明らかに違う。
血を吐きながら痛みに叫ぶ俺を、男は片手で首根っこをつかみ、宙に浮かせて顔を合わせた。
重々しい声でゆっくりと言う。
「お前らは何者だ。生意気なガキ共め。俺はアライグマの守護者。若いもんに手を出したら、守護者の責任で始末する」
片手で俺を横へ投げ飛ばした。その力は凄まじく、壁にぶつかるまで減速せず、床に転がり落ちた。
「カイ!? 大丈夫!?」
キッチンからさゆりかアマリの声が聞こえる。
まずい、ここに来たらどうなるか… くそ! 痛すぎて動けねえ! 叫ぶのも止まらねえ!
こいつ強すぎる… あいつらに勝てるか… くっ… ちくしょう!
以上、第6章はこちらで完結となります。




