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アラマテス教

「取り敢えず無事移動できたみたいだな」


ここが異世界。

一面に広がる野原。この場所が丘だからか、遠くにある建物まで見える。

中世って感じのイメージしていた通りの異世界だ。

よくある異世界ってのでテンプレ過ぎて余り上がらないと思っていたが、いざ自分がこの立場になると燃え上がる何かがある。

すぐ近くでは隊員が拠点の設営を始めていた。


「あれ?転移門が閉じてない?」


「お前話して聞いてなかったのかよ?」


俺の素朴な疑問に対してレオンが辛辣に返してきた。


「先遣隊はどっちも人1人なら転移できる装置を各自持たせていたのに、帰ってこれたのは2人だけ」


「転移装置があるなら全員帰ってこれるだろ?」


「いや、帰ってきたやつが言うには転移が必要な程の緊急時に溜めの必要な道具なんて使う暇がないとの事らしい」


「溜めって……、10秒かそこらだろ?」


「それが命取りになるんだろ?知らねえけど」


シビアな世界すぎる。

今の所、危険な場所に来た実感はない。

まだ武器の使い方も殆ど教えてもらってないから、何かが起きた時に成す術がなく諦めているだけかもしれない。

景色が牧歌的なせいもあるだろう。

とにかく、俺は未だ遠足気分でいる。


「今日中に軽くで良いから拠点作りは終わらせたい」


少し離れた場所で日貫が話している。

場にいるのは隊長格、大隊長、小隊長を合わせた計25人が体調会議に参加している。

少しすると滝沢さんと響が一緒に戻ってきた。


「ひとつお前らに言っておくことがある」


響が妙に真剣な顔つきで語りかけてきた。


「この世界で広く信仰されてる宗教。アラマテス教は知っているよな?」


「勿論です。先遣隊によって確定した情報はアラマテス教と魔女の2つだけですから」


滝沢さんが響の話す話の意図が読めてなさそうな辺り、さっきの会議では話していなかった事なのだろう。


「そのアラマテス教信者の殆どはそこまで敬虔な信徒じゃない。日常に溶け込んでいて何の宗教を信仰しているか聞かれたら、強いて言えばアラマテス教と答える程度だ」


「話が見えてこないんですけど」


「何が言いたいかというと、アラマテス教はそういう浅く広くな宗教なんだが、一部過激な奴らがいる。そいつらは思想が過激な上、圧倒的に強い。最低でも小隊長レベル。幹部なら多分私や日貫、大隊長レベルなきゃ対応出来ない。だから、相対しても戦おうとは考えるな?怪しいと思ったら全力で逃げろ」


「大袈裟じゃないですかぁ?」


「会わないことが1番だけど、もし会ったら一目でわかるよ。大袈裟じゃないって」



###





「り、理人。レオン。戦おうとは考えるなよ?間違っても私より前に出るなよ?」


「はっ、はっ、はっ、はっ」


呼吸が乱れて止まらない。

普段どうやって息をしていたかを思い出せない。

軍のエリートである滝沢さんでさえ、表面上は取り繕っているものの焦りが隠せていない

レオンに至っては目がブレて焦点が定まっていない。

こんな状況で戦おうなんて思う奴はいないだろう。

俺が持っているのはつい先程支給されたナイフと拳銃。

どちらも通常のものとは比較にならない程の性能がある事は知っている。

それでも()には届く気がしない。


「あー、君達()()()()()()()()?」


俺達が必要以上に恐怖している事に困惑した様子で話しかけてきた。

一向に答えない俺達を不思議に思ったのか長い髪を揺らして男は首を傾げた。


「“響”って人知ってるかな?用があるんだけど」


男の衣服。

白一色で揃えられたその礼服は響によって伝えられたアラマテス教の特徴と合致していた。

別にそういった視覚的特徴がなくとも、この男が件の教徒であることに確信はあった。

何せ纏う空気が違うのだ。

普通の人間からは感じない空気が漏れ出ている。

その男の力そのものとでも言うべきなのだろうか?

そういう不気味なオーラが立ち込めているのだ。


真っ白な礼服とは裏腹にドス黒いこの世の悪意を煮詰めたような空気が、オーラが漂っている。

それに触れるだけで自身の生命活動に何らかの支障をきたしそうな面妖さだ。


本能がこれ以上その男に近づくなと告げている。

脳に口があって俺に話しかけてきているわけではないのに、大声で警告されているかの様にうるさい。

その警告とも取れる騒音が、本能から来る恐怖なのか心臓の鼓動なのかは俺にも分からない。


「あれ?無視?傷つくなぁ」


男は軽薄な笑みを浮かべて言った。

何だ?何が目的なんだ?目的は響だ!さっきそう言っていた!何でここに来たんだ?響がいるからか?何故この場所が分かった?GPSでも付いていたのか?こんなピンポイントで拠点近くに現れることなんてあるのか?


「話してくれないなら、()()()()()()()()()?」


「「「!?!?」」」


男の姿がブレた、その次の瞬間には目の前に立っていた。

男は俺とレオンの頭を掴むように手を伸ばした。


やばいやばいやばいやばいやばいやばい!

駄目だ!駄目だ!駄目だ!

触れられたら終わる!触られたらやばい!

俺もレオンも頭では分かっている。

けれど体が言うことを聞かない。

圧倒的強者を前にして身が竦む。


「あっ」


その大きな手で顔を覆うようにして掴まれた。

否、捕まえられた。


「いただきまーす」


男はそう言って手に力を込めた。

と、同時に何かが吸われるような感覚に陥る。

まるで自分自身を吸われていくかの様な感覚。

このままでは本当に死んでしまう、そんな予感がした。

しかし、体は動かない。抵抗する程の力がない。


ああ、やばい────────


「!」


瞬間、男の腕が切れた。

腕。正確に言うと手首から先と腕とで分たれた。

腕が切れたことで男の“吸い出し”も止まった。

誰かに助けられた。

誰かが助けてくれた。


ぼやける視界に映ったのは長身の女性。

男の纏う泥のようなオーラとは違った、綺麗な黒。

その黒が風に靡き揺れていた。

彼女は右の手に日本刀のような武器を携え、俺やレオン、滝沢さんを庇うようにして男と向き合っていた。


「響ぃ!会って話したかったんだ!」


男はその整った相貌を歪ませて笑った。

ゾッと寒気の走るようなオーラが向けられる。

そんな不気味な波動を受けても尚、普段の態度を崩さずに相対した。


「私と話したきゃ金払いな。狂信者(ブリュアウグ)が」




狂信者ブリュアウグとは異世界にて「目を焼かれた者」という意味です。

異世界では畏怖と軽蔑からそう呼ばれています。

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