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異世界転移

「おい、起きろ」


まだ日も昇っていない早朝。

部屋のカーテンは閉められ、辛うじて近くにいる人の顔が見える程度の暗さだ。

つまり、見たくもない顔が割と見えるのだ。


俺を起こした男。レオン。

昨日の俺との殴り合いで出来た右頬の傷にガーゼを貼っている。互いに中々の傷である。

それを知ってか知らずか、こいつは傷のある俺の腹を足で蹴って俺を起こした。

端的に言って馬鹿痛い。


「怪我人を労われ。花の様に丁重に扱え。乱暴にしてたら意外とすぐに散るぞ俺は」


「お前、寝てる俺の顔に毛布かけただろ?朝起きたら死にかけてたわ!陰湿なんだよお前!」


「元はと言えば出会い頭に殴りかかってきたお前のせいだろ!」


「それはお前が響さんとイチャイチャしてるから!」


「イチャイチャしてねえよ!思春期のガキか!テメェは!」


「思春期じゃないわ!お前と同い年だ!!」


「なら思春期真っ只中じゃなえか!居るよね!偶に!高校入ってから反抗的になる奴!」


終わらない言い争いを続ける理人とレオン。

2人の居る部屋にコンコンとノック音が響いた。

時刻は朝4時。多くの人が活動が始める時間より遥かに早いが、ここは軍事施設である。

言ってしまえば、対魔術機動隊にとっての4時は社会人や学生にとっての朝9時と考えてよい。

そう聞くと分かるだろう。

朝4時は早くない。むしろ遅過ぎるくらいだ。


部屋の扉は開かれ、そこに分隊長が仁王立ちしていた。


「集会始まってんのにアタシの小隊だけ誰も集まってないのは、アタシの教育不足?」


まさに怒りが爆発する寸前といった様子の小隊長。

滝沢カレン(たきさわかれん)

彼女の後ろには頬に綺麗に紅葉のついたパジャマ姿の隊員が2人眠そうにしていて立っていた。


「アンタら寝巻きのままでいいから、はよ来い」


女性ながらも低く威圧感のある声。

有無を言わさないその佇まいに理人とレオンは頷く事しか出来ず─────


「「はい!行きます!」」


カレンへと駆け寄った瞬間に2人の頬にも紅葉が刻まれた。

そのビンタは昨日の喧嘩で出来た傷よりも痛み、数日間2人は飯を食うのに苦労した。



###



「すみません。うちの馬鹿どもが」


「んー?いいよー、大丈夫ー」


小隊長が上官的な人に謝っている。

その隣で右頬にビンタ痕がある俺たちの隊員を見て響が爆笑している。

いやまあ、確かに全員同じ位置に同じ手形があって面白くはあるが流石に笑い過ぎではなかろうか?


全員で大隊長に頭を下げて集会の列へと並んだ。

見たところ大隊長は5人。

壇上端に座っている5人が大隊長なのだろう。

座っているのは日貫と響。そして先程小隊長が謝っていた間延びした喋り方の女の人。

そしてクールな雰囲気の男に男?女?どっちかは分からないが中性的な出立ちの人。

その計5人が200人はいるであろう大隊をまとめているのだ。


「はい、今日は異世界に行きますよー?ちゃんと寝ましたかー?お菓子の用意はしたかなー?」


まるで幼稚園児を相手にしているかの様に響が話す。

何というか緊張感のない人である。

一応、世界の命運がかかっているはずなのに響はどうでも良いかの様に振る舞っている。

もしかしたら本当にどうでもよいと思っているだけなのかも知れないが………。


「えーと、準備が出来たら順次転移門で移動しちゃってください。常に位置情報共有して迷子になっても分かるようにしてくださいねー。なんかヤバいの居たら大隊長に言ってくださーい。出来るだけ頑張って対応するんでー」


言っている内容は滅茶苦茶物騒なのに緩く話しているせいで上手いこと気持ちを切り替えられない。

多分そう思ってるのは俺だけだろう。


周りを見るに皆、神経を張り詰めた様子だ。


彼らは分かっているのだ。

これから行く世界の危険性を。

200人もいるこの部隊で殆どは青褪めたり、高揚していたり落ち着きがないが中にはちらほら余裕を持った隊員の姿が見える。

よっぽど実力があるのか、それとも能天気なのか、何故それほどまでに落ち着き払っているのかは分からないが雰囲気からして他の隊員とは違うのが見て取れた。


武器の使い方も分からない、異世界ってのがどんなのかも知らないから何の実感がない俺と違って様々な情報を知り得た上で余裕を持っているのだから大したものだ。


俺は支給された服に着替えて、小隊の元へと向かう。

支給された服は服というよりも全身タイツに近かった。

よくあるロボットアニメのパイロットが着るような奴だ。体にピッタリとくっつくアレだ。


聞いたところによると、この服はマグナム弾程度なら至近距離で受けても何の損傷も受けない耐久性を誇るという。

流石に同時箇所に数十発も喰らえばダメージは通るが、それでも青痣が出来る程度だと言うのだから凄まじい性能を持っていることがわかる。

体のラインが強調されるというデメリットを除けば、完全無欠な代物だ。


が、しかし、そのデメリットが気になるのか皆、パイロットスーツ(仮)の上にフライトジャケットの様なブルゾンを羽織っている。

これもまた、軍の支給品である。

そのブルゾンは隊の人間であることを証明する様に背に対魔の文字が刻まれていた。


俺はパイロットスーツに上着のオーソドックスな服装だが、人によってはパイロットスーツの上にショートパンツを履いたり、Tシャツを着たり意外と個人個人で着こなしが変わっている。


何て事を考えているうちに既に俺達の大隊が移動する番になっていた。

それぞれ40人で構成される第1〜5大隊。

その中にまた4つの小隊がある。

それらが順に転移を進めて行って1分もかからぬ内に我が隊の番になった。


「転移開始まで10秒前」


俺を取り囲む空間が煌めきだす。


「5」


視界が歪み、景色が見えなくなってくる。


「4」


自分が何処に立っているのかも分からない。


「3」


「2」


「1」


世界は暗転し、体の中を何かが通り抜ける様な感覚に襲われた。

転移にかかる時間は僅か15秒なのだが、それが途轍もなく長く感じる。


五感の殆どが効かなくなり、いわゆる第六感なんてものでしか物事を判断できない。

そんな中で確かに聞こえた。

耳元で誰かが囁いたのだ。


「ようこそ」


理人は響が大隊長を務める第5大隊の滝沢小隊に所属しています。

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