4.初めてのフィーカ街
「孤児院への奉仕活動をこっちから持ち掛けようと気を引き締めた瞬間に向こうから言ってくるなんて…私達ツイてるわね!」
「だね!これで、長時間外に街に出ててもいい理由が出来たし。
でも、一概に運が良いとも言えない出来事にもついさっき出会ってしまったよ、姉さん。」
「そうね…。何て運が悪いのかしら、私達。」
「ははっ、さっきと言ってること逆だよ?」
あの危機的状況を乗り越え、今はやっと街に繰り出したところだ。
ディーカと目が合ったとき、何か言われる前にスリープの魔法をかけた。…が、流石にディーカだけ眠らせても、王子達がディーカに嫌悪感を抱いてる以上、全員の意識を私達から反らすことは不可能だ。
しかし、そうではない。思ったより事は簡単に収まるのだ。
それは、倒れた子供の親を事に乗じて呼べばいいのだ。子供が子供なだけに親も親だ。面倒臭い要因を増やせばそっちの対応に人員を割かざるをえない。
私達は騎士の腕から下り、困惑し慌てふためいてる王子達をよそに家に戻る。ムシナとジンシナに外に王子達が来てることを告げれば、私達を怒鳴る暇もなく外に駆け出す。
そして、誰もいなくなったところを裏口からこっそりと脱出したのだった。
「姉さん…本当に大丈夫?ごめんね。
…今度会った時はアイツをぶっ殺してやる。(ボソッ)」
「大丈夫よ。心配かけてごめんなさい。
今度からはあんなことはしないわ。約束する。本当にごめんね。ありがとう。
それにしてもムシナが領主だからか、とんでもなくどんよりとした感じの雰囲気をイメージしてたんだけど…流石私達のお父様とお母様ね!」
「だね!とても活気のある街だ。会ったことないけど流石英雄の子孫。ここまで繁栄してるの中々ないんじゃないかな?」
そこは商いに栄え、とても賑わっていた。フィーカ街は、王都と並ぶ街の賑わいで、領地外からも商人や貴族が商売や視察に頻繁に来るなど、とても有名なところだった。
それも、ここまで栄えるようになったのは両親のお陰だと聞いたことがある。何て誇らしいことだろうか。
今となっては両親に一度も会えないことが悔やまれる。せめて顔を実際に見たかったな…。
「ウィル、服買う?私としては、このままの方が街に合ってると思うんだけど…。」
今着ている服は二人が屋根裏部屋でずっと着ていた服で、市民が着ている服と同じだった。というか、毎日魔法で洗濯していて、デザインもシンプルで悪くないことから市民の上流階級の服そのものだった。
この地がいくら栄えているといっても王都程ではない。王都では、街を貴族の子息や息女は、ドレスで歩いたり、制服で歩いたりしても普通だが、フィーカ領は貴族が街をドレスで歩く程貴族よりではない。だから、もし貴族が歩いていたら、とても目立つのだ。
「いや…僕もこのままでいいと思う。それより、早く行こう。」
カランカラン
「どうぞ、お客様。本日は何用でごさいましょう?」
「服を二着、ドレスとタキシードを買い取って貰いたいのだけれど。」
「そうですね~。これは、一着中銀貨5枚でどうでしょう?」
「もっと上げられないかしら。」
「では、中銀貨8枚はどうでしょう?」
「嘘よ。これらは、それぞれ小金貨1枚以上はしたわ。パーティ用に作られたドレスなんだから、そのくらいは当然よ。」
「…そう言われましても、こちらにも評価基準があるので…。」
「へーそう。お姉さんは僕達の格好で信じてないんだぁ。市民だからそんな高価なもの買えないって思ってるんでしょ?」
「違います。お客様には平等に対応しています!私はドレスの査定にそこまで詳しくないだけなんです!!」
「なら、詳しくないのに、適当に値段を言ってぼったくろうとしてたんだ。」
「今までもそうしてたの?」
ドンッ
「いい加減にしてください。私がいくらドレスの査定にそこまで詳しくないと言っても、きちんと私の評価により、決めた金額です。
まず、そちらのドレスは、とても良いデザインではありますが、とっくに流行を過ぎていますよね?そして、新品ではなく、ある程度着古されたもの。宝石がついていますが、それも小さく、一つしかありません。それに、私が見たことのあるパーティドレスより随分華やかさに欠けます。
次に、そちらのタキシードはほとんど新品ではありますが、デザインが流行に合ってません。着れる方も限られており、このデザインのタキシードは万人受けはしないもの。宝石も複数飾られていますが、安物ばかり。よって二着とも、高くても大銀貨1枚です。」
私達は感心して、思わず拍手を贈る。店員さんは驚いた顔をして、私達を見つめる。
「流石、古くからあるお店は若い店員さんでも一味違いますね。先程は、文句を付けてしまい、申し訳ありませんでしたっ。」
「…僕達、店員さんとその店主に一つ今後の提案があるんだけど、また1週間後、時間を空けてくれませんか?その時は二人揃って僕達の話を聞いて貰いたい。話を聞いてくれるだけでいいので…。」
「…少し待っててもらえますか?」
店員さんは、すぐに店の奥に姿を消した。店主の元に行ったようだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おじいちゃん、どうしたらいいと思う?今店に来た子供達がね―――――――――――――――――。」
「なるほど…。悩んでいるということは、ただの子供の遊びとしてお前が扱ってないということじゃろう?それなら、その勘を信じて話だけでも聞いてみたらどうだ?」
「で、でも…ただのイタズラで、なんの中身もない話だったら、お店を休むのが無駄になっちゃう。」
「大丈夫じゃよ。儂もお前の話を聞いて、その子達に気になることが出来たし…。
その席には、儂も同行するように言われたんじゃろ?儂も居るから安心するんだ。それに、お店はここだけではない。お前の両親がしっかりとまとめておるから大丈夫じゃ。一日くらい無駄になったとしても、怒ることはせんよ。そこまでお金に困っているわけでもない。」
「ほ、本当にね、少し真剣な顔をしたところがただの子供じゃない感じがしただけでね…。
…ううんっ、決めた!話だけでも聞いてみる!おじいちゃん、ごめんね。」
「構わんよ。儂も気になるというたろ?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
それにしても、奥に儂がおると気付いておったとは…。それに敢えてこの店に聞いてもらいたい話……まさかな。
いやっ、慢心はいかん。念の為連絡はしとかんとな。…はぁ、これはどう連絡するのが正解なのか…。説明するのは面倒臭くて嫌なのだが。。
店主は店の奥に足を踏み入れ、ドアの前に立つ。この店には似つかわしくない古びたドアノブに手をかけ、右に1回、左に3回、そして、また右に1回ノブを回す。
ガチャッと小気味よい音を響かせたと同時にドアが変化を始める。木製の長年使用された形跡のある木目が特徴的なドアから、カラスの漆黒を思い出される黒に、金色のドアノブのドアへと変化を遂げた。
店主は慣れたように何の反応も起こさずにすぐさま部屋へと入り、顔くらいの大きな水晶に手をかざす。
長い間水晶に呟いていたかと思ったら、いつの間にか止め、今度は部屋の絨毯を見るように下を向いて呟いた。
すると、全身黒尽くめの服を着た男とも女とも見分けがつかない者たちがどこからともなく現れ、店主に跪ずく。
怪しい雰囲気を醸し出すその空間が、より異様さを際立たせ、店主の人当たりの良さそうな顔がいつの間にか鋭い眼光を灯すようになっていたことは誰も知ることはなかった。