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1.前世の記憶

 



 今日を迎えるに至った記念すべき復讐を決意したのはいつだっただろうか。私達にはとうに昔のように感じる。


 それは、私達が7歳、5歳だった頃に遡る―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 私達兄弟は、フォークス家。この国唯一の英雄とされる祖先を持つ家柄の子孫として暮らしていた。

 と言っても、私達の両親は若くに私達を置いて、亡くなったらしい。何故らしいなのかは、私達自身が転生し、前世の記憶が蘇ったことにより、元の私達の魂が入れ替わりのような感じで、体と記憶の所有権を持たなくなったからだ。この体の本当の持ち主だったシルヴィアとウィリアムの魂に干渉出来ず、上手く記憶が引き継がれていないのが現状だ。



 記憶が蘇り、落ち着いて周りの情報を整理する。すると、浮かんでくる。私達がどういった扱いを周りから受けていたのか…。



  私達の両親が亡くなってから、フォークス家は父の兄弟。私達の叔父にあたる、ザードネス・ムシナによって家門を仮継承されることとなった。私達が大人になり、家門の仕事を引き継げるようになるまで、叔父が代理フォークス伯爵家の家長となった。


 しかし、ザードネス家一家はフォークス家に元いた執事長やメイド長、古くから私達の両親やそのまた両親に忠実に仕えてきた者達を一斉に長期休暇に出し、家に戻した。そして、ザードネス家に仕えていた執事長、メイド長などをその空いた役割におき、フォークス家を我が物顔で自分達の所有物と化したのだった。





 私達は、前世では姉弟のように仲良く過ごしていたが、本物の姉弟ではなかった。出会ったのはある孤児院で、二人とも家族が事故や病気で亡くなり、面倒をみきれないということで親戚に小さい頃に預けられた。


 孤児院にいる子供たちは、赤ちゃんや小さい頃に親に捨てられた子供たちばかりで、実質的に親に捨てられていない私達はとても羨ましがれたと同時に距離を置かれ、ちょっとしたアウェイ感を感じていた。

 そんな私達が仲良くなるのは必然で、お互いがお互いを大切に想い、本当の家族の様な関係だった。


 ○○○<ウィリアム>が怪我をしたときは、○○<シルヴィア>が誰よりも早く駆けつけ、誰よりも心配したり、○○<シルヴィア>が風邪で寝込んだときは、○○○<ウィリアム>が1日中、自分が食事を忘れるくらい付きっきりで看病をし、次の日には風邪をちゃんと貰い、寝込んだくらいだ。そうやって、二人っきりの世界で幸せに過ごしていた。


 しかし、○○<シルヴィア>が15歳、○○○<ウィリアム>が13歳を迎える頃、二人の幸せな人生に幕が下りた。

 道路で車にひき逃げされたおじいさんが倒れ、それに気付かずに車が突っ込んできた。倒れるおじいさんを見た私達は一目散に車を気にせず道路に駆け込んだ。おじいさんの状態を詳しく見ようとしたところ、後ろに走る車に気付き、気付いたときには今のようになっていた。


 私達は、お互いを見てすぐに前世の姉弟だと分かった。それもあってか安心感が大きかった。自分達が死んでしまったショックはなく、まず今の現状に思考停止をキメていた。



 「…ねえ…さん?…だよね?」

 「…ええ。」

 「…あなた…も?」

 「……。」

 「…。」

 「…疑問は多いけど…私達の名前は…シルヴィアと、ウィリアムのようね…。」

 「…そ、そう…だね…。前よりかっこいいから…気に入っちゃった!」

 「私も!これからは…じゃなかった、これからも?ウィルといれるのは嬉しいわ!」

 「僕も!シルヴィア姉さんと一緒に…というか今世は本当の姉弟として生まれれるなんて…こんなに嬉しいことはないよ!!これからは、長生きしようね!姉さん!!」

 「ええ、いつも通り長生きをね!」



 二人の記憶が蘇った第一声と会話はこうして、締めくくられた。





 ドンドンドンッ


 荒々しくドアをノックする音が聞こえた。周りを見渡し、もう一度私達の状況を確認する。


 屋根裏部屋らしき、たった一人でもせまいだろう部屋に私達はいた。床や窓枠は埃っぽく、掃除の手が一切加わっていない感じが見受けられる。


 

 「オイッ、飯だ。…ッチ、まだ寝てるのかこいつらは。

 さっさと働けよ、タダ飯食らいが。」 



 男の足音が遠ざかり、全く聞こえなくなるのを待ち、扉を開ける。そのモノを引き取り、素早く扉を閉める。


 一切れのパンに、ほんの少し注がれた何の具もないスープだった。


 二人の頭に記憶が流れ込んできた。


 ムシナがこの家の権利を握った途端、私達は屋根裏部屋に入れられ、一日二回のあったりなかったりの食事が運ばれてくることを知った。その頃は、私達は3歳と1歳だったため、何も出来なかったことも。全ての今知れる記憶が蘇る。

 それと同時に、私達は私達に深く同情した。そして、この世の現状に酷く失望した。

 そして、決めたのだった。私達は今度こそ幸せに長生きすると。




 私達の中での長生きはただ願うことではない。


 私達は、前世でこそ長生き出来なかったが、それでも生きてる中で死に直面する困難を沢山乗り越えてきた。そして、その為に沢山努力してきた。



 ある時、○○○<ウィリアム>が小学校に通い始めた頃、あるおじさんが同じところをウロウロとして周りから不審がられ、無視されていた。

 困っている様子を感知した私達は話しかけ、迷っているおじいさんを助けた。すると、そのおじさんは武術の達人らしく、お礼にと護身術代わりに1ヶ月間、基礎とこれからの訓練方法を教えてくれた。

 普通不審がって断ると思うだろうが、お互いがお互いを守りたいと思っていたため、私達にはそんなことはどうでもよかった。

 それから私達は、おじいさんの教えを素直に受け取り、毎日密かに言う通りに体を鍛えたのだった。

 そのお陰か、学校のヤンキーに絡まれたときは二人で返り討ちにすることができた。それも2対10で。報復に連れてきた喧嘩の強いらしい人も余裕で半殺しにした。手加減が難しくて、、しょうがない…よね?

 格闘技のTVを見ても、何故かおじいさんの方が余裕で強いことが分かり、より一層修行に励むことに熱が入った。

 その日からだろうか、私達が強さを身につけることに力を入れ始めたのが…。


 それからは、私達に出来ることは何でもした。一心不乱に勉強勉強勉強。教科書はあっという間に内容を終え、上の学年、また上の学年と、教え合いながら勉強を進めた。


 私達は、得意分野が別れていたため、効率よく勉強が出来た。○○<シルヴィア>は文系、○○○<ウィリアム>は理系で、お互いが得意な科目を先に勉強し、それを後から教え合うといった感じで、○○<シルヴィア>が小学校卒業するときには、姉弟共に中学校の勉強範囲を終えていた。


 教科書もないのにどうやって勉強したかというと、丁度自分達が持っている教科書の範囲を終えたときに、おじさんのような出会いがあり、本屋を営んでいた老夫婦にお礼として、売れ残った参考書や教科書を借り受けていたのだった。


 お陰で、最終的には高校卒業までの勉強を亡くなる前に全て収めることができた。


 

 こうして、私達は自分達だけで生きるための最高のものを自分のものに出来たのだった。



 だからといって、周りに出さず、どれも平均で成績を収めていた。誰の恨みも買わず、長生きするために。

 どうしても自分達の身を守るときだけ、その力を使った。賢く生きてきたつもりだ。



 

 二人のその記憶と力は今世にも受け継がれていて、そのことに安堵したのは言うまでもない。神様に、努力は消えることはないと言われている気がして少しだけ神様に感謝してみた。


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