大魔人イフリートは転生先で、もはや神。
――――我は爆炎の支配者。
豪炎の中で生を受け、マグマの産湯に浸かりし者。
全身からは炎が吹き出し、近づく者は骨まで燃やし尽くす。
振り上げた手のひらから炎弾を飛せば、大国であろうと火の海と化す。
姿を現せば虫けらどもはひれ伏し命乞いを始め、極上の酒と供物と女を差し出す。
生きとし生けるもの全てに恐れられ、崇められる我の名は。
炎を司る大魔人イフリート。
誰も寄り付けない世界最大の火山に住まい、たまに下界に降りては威厳を見せつけ我欲を満たす。
時折、我を倒そうとやって来る命知らずをいたぶり、なぶり、焼き尽くす。
そんな生活が五百年続いた頃、我の下に勇者が現れた。
いかにも勇者でございと言わんばかりの優男。負ける気なんざ微塵もない。
いつものごとく、手のひらを頭上高く掲げたその時だった。我の目の前に氷の大精霊フラウが現れた。
聞けば我に対抗するべく、無理やり使役されたのだとか。昨今の勇者は節操というものを知らんものかと憤る。
ただ、その効果はテキメンだった。ただでさえ炎と氷では相性が悪いのに、惚れた女が相手とあっては全力など出せるはずもない。
しかも、強制的な使役を解くには我の心臓が必要なのだとか。
そう言われて差し出さないのは男がすたる。我はフラウの繰り出す氷の魔弾を全身に受け、そして命を落とすこととなった。
その際、フラウが流してくれた涙を我は忘れないだろう。
永久に……
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と、思った瞬間に視界が開けた。目の前には女神が立っている。その憂いを帯びた眼差しで、とりあえず我が死んだのは理解できた。
「あの世界でのあなたは鼻つまみものでした」
――鼻つまみものって、そこまで言うか? この女神。
「ただ、その炎が必要だったのも事実です」
――まぁ生食が少なくなって食中毒が減ったしな。
何だかんだで我は違う世界に転生することとなった。とは言え、度重なる悪行のせいで自由に動くことは出来ないそうだ。
まっ、それもまた一興……だ。
ただ……
ただ、女神のやつは洒落たことをしやがった。あの世界に、我の特性を残して転生させやがったのだ。
炎の力を宿したままで……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
青い空、白い雲、爽やかな風、小鳥のさえずり、水の音。全てが穏やかに流れる世界。我が生を受けた世界とは比べ物にならないほどの平和さ。
こんな世界なら、自由に動けなくても言うことはない。
この世界に転生した我は現在、人間に利用されている。あっちの世界では虫けらだった奴らが今では我の主とは、皮肉なものだ。
とは言え動くことが出来ないのであれば、従うしかないというもの。割り切るしかないのが現実だ。
そして、この世界での我の名は……
「おぉい、そこの”チャッカマン”取ってくれ」
そう、今の我の名は”チャッカマン”。炎の創造主としてこの世界に生まれし"物"。人々に喜びと安らぎを与える、まさに"神"と言っても過言ではない存在なのだ。
なぜなら……
「チャッカマンってさ、キャンプには絶対必要だよな。もはや神」
「だよねぇ。火起こしが楽ぅ!」
――――なっ? 言った通りだろ?
しかしだ、それが良いこと言うにはいささか早計だった。元より女神の温情で転生させてもらった身、帳尻合わせが必要だったのだろうな。
「あれっ? 火がつかなくなっちまった。あれ、あったっけ?」
「おうよ。こんなこともあろうかと持ってきてたんだなぁ、俺。ちょっと貸してみ」
――――ぬぉっ! なぁぁっ!!! はぁぁぁっ……
昔は無尽蔵にあった炎のエネルギーも、この世界では使いすぎると枯渇してしまう。そんな時、主は我の尻にボンベとやらを突っ込み、エネルギーを注入してくる。
最初は吐き気をもよおすし、腹がパンパンになって気分が悪くなっていた。
ただ……
ただ、最近はそれも少しずつ……少しずつ、快楽になってきているような気がしないでもない。
気持ち良すぎて、直後は炎を二割増しで放出してしまうほどに。
新天地での、まさに新境地。
女神よ…………グッジョブ!
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ブクマ頂けたら……最高です!
【大怪獣クラーケンは、転生した世界を胃袋から支配しようとしているようです。】
【海洋の魔女セイレーンが転生先でイワシに釣られ水族館を救う件!】
と合わせてお楽しみ下さい。