婚約者の勘違い
思い付きで書いたリハビリです。
「僕は君のことを愛しているんだ。ミア。」
いつものようにヒーラル様はわたくしに愛をささやいてくださいます。
ヒーラル様は幼い頃からわたくしをミアと呼ぶ。
婚約者故か、他の方とは違う特別な愛称です。
彼だけの特別な存在になったようでわたくしはそれがとても嬉しかった。
周りの方たちは
「あのお二人はいつ見ても仲睦まじく、羨ましい。」と称してくださるのが本当に嬉しい限りだわ。
わたくしとヒーラル様の関係は良好だけど、それに伴っていつからかヒーラル様はミラナリーのことを敵視しているように感じます。
わたくしとしてはミラナリーは仲の良い友人だから、ヒーラル様にあまり邪険にしてほしくはないところだけれど。
「ミラナリー嬢は君と僕の関係に嫉妬しているに違いない。」
そんなことばかりを言う。
確かにミラナリーとはこれまでほとんどの時間を一緒に過ごすことが多かったけれど、わたくしたちが16歳になって正式に婚約を結んでからあまりお茶会もできていなかったし先日も「婚約者殿が大切なのはわかるけど、たまには私にも時間を作ってくれないと寂しいよ。」と言われてしまったわ。
「確かにそうかもしれませんね。先日も(わたくしが)構ってくれなくて寂しいと言われてしまいました。」
「なんだと!?そんなことを君に伝えていたのか!」
何故かヒーラル様は憤慨した様子でした。
「ねぇ、ミリー。最近君の婚約者殿が私におかしなことばかり言うのだけど。どうにかしてくれないかな。」
「まぁ、ヒーラル様が?ごめんなさい。…おかしなことって?」
「ミアに嫉妬するのはやめてくれ!愛しているのは彼女だけだ!とか。」
「…それをヒーラル様が?もしかしてヒーラル様って貴女のことを好きなのかしら?」
「そんなわけないでしょう。私には明らかに嫌悪感を抱いた眼をしてくるし。」
それからもヒーラル様のおかしな忠告は何度も続いた。
「醜い嫉妬はやめろ!僕が愛しているのはミアだけだ!」となぜかミラナリーに言う。
彼が人目も憚らずミラナリーに当たるので、周りから「本当はミラナリー様の気を引きたいのでは?彼こそ婚約者を蔑ろにしているのでは?」と噂をされていた。
そんな噂も流れていたある日、ヒーラル様のご実家で友人たちを招いたお茶会が開かれました。
婚約者であるわたくしも招待されるのはもちろんのこと、なぜかミラナリーも招待をされているようでした。
敢えてわたくしの友人を招待してくださるなんて、お優しい方。そう思っていましたのに。
「ミラナリー!君にはほとほと疲れたよ。婚約は解消させてもらおう!僕は真実の愛に目覚めたんだ!僕の婚約者はここにいるミリナリアとする!」
なにを言っているのでしょう?
「ヒーラル様?どういったことでしょう。なぜミラナリーと婚約破棄を?」
「それはミア、君を愛してしまったからだよ。」
「…そもそもの前提として、ヒーラル様の婚約者はわたくしですのよ?なぜミラナリーなんです?」
「…え?」
さすがにお茶会の席でこれ以上の失態は良くないと、お開きとなり、お義父様お義母様も交えた5人で話し合いの場を設けることとなりました。
「まず、ミラナリー嬢、すまないね。愚息がとんだ勘違いを。そしてミリナリア、君にもいらぬ心労をかけたね。」
「いえ、…なぜヒーラル様は勘違いを?」
「はぁ…本当に愚かなことだと思うのだがね、婚約はまだ君たちが幼い頃だったろう?ミリナリア、君も覚えていると思うがヒーラルは中々言葉を覚えなくてね。人の名前を覚えるにも2文字でしか覚えなかった。だから余計に混乱させてもいけないと思って私たちもそれに合わせていたんだ。ミリナリア、君を紹介した時もヒーラルはミアと覚えた。きっと最初に聞いた文字と最後に聞いた文字だけを覚えていたのだろう。」
確かにヒーラル様は幼い頃、周りの人の名前を全て愛称のようなもので呼んでいた。
両親にも遠回しにではあるが、言葉が拙いと教えられていたように思う。
聞けば、私のことはミアと覚えた。でもお義父様たちはいつもの癖で
「婚約者はミリーに決まったからね。」そう伝えていたそう。
ミリー。ヒーラル様以外の方が呼ぶ私の愛称だが、ヒーラル様はミラナリーだと勘違いしたらしい。
長年婚約関係にいたし、婚約者として一緒に夜会に行く機会も多かった。
誰かが違和感に気が付いても良いものを、なぜかヒーラル様の勘違いを今日この日まで誰も気が付かなかったようです。
「私は気が付いていたよ。“ミリーは私だ”と勘違いしているようだって。」
「…え?」
「勘違いはわかったけど、どうして私に突っかかってくるのかまではわからなかったけれどね。まさか婚約者だと思われていたなんてね。」
「…すまないミラナリー。いやミラナリー嬢。貴女を勘違いとはいえ正式な婚約者だと思っていた。それなのにもかかわらず、ミアのことがずっと好きだったんだ。だから、…その。」
「いいのかい?ミリー。彼目線で言うなら、彼は婚約者がいながら不貞を働くような男だぞ?」
ヒーラル様は苦虫を噛み潰したような顔で俯いていた。
「ふふふ。でもわたくしからすれば、仲の良い友人にまで嫉妬してしまうような一途な婚約者だわ。これが本当に不貞だったならいくらお慕いしていたとしてもわたくし自身身を引いていましたしそもそもミラナリーと一緒に過ごしたりなんかしませんわ。」
「…ほ、本当に二人には迷惑をかけた。申し訳のないことをした…。」
それからのわたくしたちですが、ヒーラル様は浮気をしているという後ろめたさがなくなったからかこれまで以上にわたくしを溺愛してくださいます。
ミラナリーはそんなヒーラル様を見て「これが不貞じゃなくてよかったですねぇ?」なんて言うし、言われるたびに顔を青くして「そ、その説は本当に…。」と身を縮こまらせている。