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第六話

「ふおぉぉぉぉぉ!! これがショッピングモールですか!! 室内の噴水は流石に家にもありませんでした!!」


 大興奮の千代ケ崎さん。あっちをキョロキョロこっちをキョロキョロ、水族館か動物園にでも来たのかってレベルなんだが……。


「あと普通家にこのレベルの噴水はないんだよ……」


「えっ!? そうなんですか!?」


「逆にどうして全ての家にこのレベルの噴水があると思うんだよ土地足りないだろ……」


「た、確かに……」


 興奮で頭が回っていないらしい。


「人も多いし、何より初めてなんだからはぐれないようにな?」


 声をかけると、頬を膨らませた千代ケ崎さんが振り返る。


「子供扱いしないでください、私だって詩乃さんと同い年なんです!」


 そういうところだぞ、言わないけど。


「む、何か失礼なことを考えましたね?」


「いや別に? ほら、時間は有限なんだよ。まずは服からだな、行くぞ!」


「はい!」


 ……はぐれるとかより危ない人に騙されないか危険に思えてきたわ、しっかり目を離さないようにしないと。



 ──────────



「いらっしゃいませ〜」


 俺達の入店に気づいた店員さんがこっちに駆け寄ってくる。ショッピングモールで一番大きな衣料品店。人気も高く、時間帯的に混み始め、と言ったところだろうか。


「彼女さんの服をお探しですか?」


「いや、彼女では──」


「そうですかそうですか、いや〜青春ですねぇ」


 すごい強引に彼女という事にされた。しかもあなたどうみたってまだ二十代とかでしょ、ちょっと前まであなたも青春送ってたでしょ、綺麗だし。気付けよ、彼女じゃない事ぐらい。


「それで、どんな服をお求めで?」


 まぁでも、服を選んでくれるのはありがたい。俺の青春は灰色だったから女子の服装には疎いし、事前に聞いたところ、千代ケ崎さんも着せ替え人形にされるタイプだったので、服装などには疎いらしい。


「えーと、とりあえず似合う服を上下三着ずつぐらいお願いします。それでいいか? 千代ケ崎さん」


「え? あ、はい! よろしくお願いします!」


 声をかけると、隣でぽけ〜、と店の中を眺めていた千代ケ崎さんが、弾かれたように顔を上げ、ぺこりと店員さんにお辞儀をする。


「かしこまりました、それでは女性の方は試着室でお待ちください」


 クスクスと笑う店員さんに、羞恥で顔を真っ赤にしながら千代ケ崎さんは試着室に入っていった。


 それを確認すると、店員さんは口を開く。


「それでは。当店はジャンル問わず服をお選びいただけることが売りでございます。どのような服装で攻め──……もとい、どのような服を、彼女さんに着ていただきたいのですか?」


 この人攻めますか? って言いかけたぞ大丈夫か……? オシャレだから多分大丈夫なんだろうけど不安しかない。めっちゃ目がギラギラしてる。でもその気持ちはわかる。美少女は何着ても絶対似合う。そんな相手に服を着させたくない訳ないだろ。


「とりあえず、清楚系の服は、絶対似合うと思うんです。なので、カジュアルな感じのがいいですかね」


「かしこまりました。……清楚系はいらないですか?」


「……やっぱお願いします」


 自分に嘘はつけなかった。似合う服を着せないでどうする。俺は遠慮なんてしないぞ。


 だから店員さんよ、そんな大爆笑しないでくれよ。周りの人こっち見てるし。


「はー、笑いました。でも正直に言えたのはいいことです。それでは、彼女さんのところに行ってあげてください。この状況を作ったのは私ですが、寂しがってしまいますよ?」


 まだカラカラ笑っている店員さんにからかわれる。


「だから、彼女じゃ──」


「わかってますよ。でも、そっちの方が接客もしやすいですし、……あの子も嬉しいと思いますよ?」


 意味深な言葉を残して、店員さんは走っていった。



 ──────────



 試着室の中の千代ケ崎さんと喋っていると、店員さんがカゴ二つをいっぱいにするぐらいの服を持って戻ってきた。


「それ全部着させるんですか」


「い、いえいえ、そそ、そんなことはないですよ? 私一人では決めかねたので、選んで頂こうかと……」


「絶対違いますよね」


「すいませんお客様」


 カゴの中の服をいくつかの組み合わせに分けていく店員さんを見つつ、千代ケ崎さんに声をかける。


「千代ケ崎さんも選ぶか?」


「選びます! って、言おうと思ったんですけど、今回は結構です。……選んでもらう機会なんて滅多にないだろうと思いますし」


「後半よく聞こえなかったんだけど」


「聞こえなくていいんです!」


「わ、わかった」


 そんな強く言うほどの事だったのか……。なんか悪いことしたな。これがいわゆる乙女の秘密ってやつなのかね。


「そうだと思いますよ?」


「うぉあ!?」


 エスパーかよ店員さん!


「いや、ぶつぶつ声に出してましたけど」


「マジすか」


「マジです。それと、組み合わせができましたので、選びましょうか」


 どうぞ、と言われて机を見ると、七セットほどになった服が並んでいた。


「七、七かぁ……。とりあえず着せますか」


 ごめんな、千代ケ崎さん。ここからファッションショーだわ……。

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