第五十五話
目の前にはずらりと並んだ各種タイプの水着。
正直、この中から何着か絞れって言われても俺には無理な気がする。緋彩なら多分何着ても似合うし。
「どうしますか? 彼氏さん。私の独断と偏見でいいのであれば、これとかこれとか選びますけど?」
「は?」
店員さんが手に取ったのは極端に布面積が少ない二着。見たくないことはない。でも無理に着させるほどじゃないし、何よりあれじゃ周りからの視線とか気にしすぎて楽しめないだろ。
「いやー、すいません。ちょっと調子乗っちゃいました。そうですよね。貴方、めちゃくちゃ女の子のこと大切にしますもんね」
だからそんな怖い声出さないでくださいよー、と店員さんが笑う。
「笑うぐらいならそんな怖くないですよね」
「いえいえ、普通に怖いですよ? ……と、あんまり脱線して時間かけちゃうと彼女さんに怒られちゃいますね」
話逸らすし……まぁ実際緋彩待たせたら悪いから何も言わないけど。
「彼女さんってスタイルいいんですか?」
「俺はいい方なんじゃないかと思いますし、なんでも似合うだろうなって思いますけど、そういうのって女性からの方がわかるんじゃないですか?」
体の凹凸もパッと見しっかりしてるし、身長に対しては脚も長い。ただ裸を見た事なんてないし、お腹がどうなってるかは分からない。
「女性から見て、ですか……敗北を受け入れろと?」
「い、いや……そんな事は……」
地雷踏み抜いたっぽい。てかさっき一回同じこと緋彩がやってただろ気づけこの馬鹿野郎。今のは完全にトラップだったけど!
「まぁいいです。素直に負けを認めるのも重要です。さ、なら彼女さんはスタイルいい方ですし……」
探してる時だけ店員さんっぽいな……。普通に綺麗なお姉さんって感じ。
「あ! ありがとうございます!」
「だからなんで心読めてんだよ」
今日は大丈夫そうだなと思った瞬間思考読んでくんのまじでやめて欲しいんだけど。そもそも読まないで欲しいけども。不意打ちは尚良くない。
「じゃあ不意打ちで褒めないでください」
「それは知らないです」
「じゃあ私もやめません。……はい、こんなもんでいいですかねー」
にっこり笑う店員さん。今回もカゴの中はいっぱい。
「またすごい量ですね……」
「可愛い子には可愛いものを着ていただきたいじゃないですか……ぐふっ」
最後の笑い声は聞かなかったことにして、試着室に向かう。
「……遅──え? その量着るの……?」
「おう、際どいのはないし、量が量だからここから更に絞るならそれもそれでいいぞ。ただ、店員さんと二人でどれも似合うなって話してたから個人的には全部見てみたい」
「わぁ完璧。そんな事言われたら女の子逃げられないですよ?」
なにが狙ってますか? だ。狙ってるわけないだろ次から気をつけるわ! 笑ってないで仕事してくれ!
「それで彼女さんはどうしますか?」
「……全部着て見てもらう」
顔を紅くして恨めしそうにこっちを見る緋彩に、申し訳なさしか感じることが出来ない。別に、悪気はなかったんだ、ただ純粋に……ね?
そして、試着室のカーテンを閉める間際。
「……耳澄ますのもだめだからね」
そう言って、べー、っと舌を出して、引っ込んでいく。
「耳澄ますなってどういうこと?」
こういう時にやっちゃいけないのって覗きだけじゃ──
「あ、あー……」
一瞬で言いたいことわかったわ。衣擦れか。確かに見てなくても……うん。まぁ……控えめに言って最高って感じかもしれない。
シュルシュル滑る音とか、ベルトカチャカチャする音とか、服が床に落ちる音とか。俺だって男だもの!
「彼女さーん、彼氏さんが聞き耳立ててますよー!」
「ちょっ!? ご、誤解だ!」
全く誤解じゃないけど!
「えー? あんなに顔に出てたのにですかぁ?」
「嘘!? あっ!?」
カマかけられた!?
やらかした……うん、お説教受けよう。んでちゃんと謝ろう。俺はちゃんと謝る。
「…………そんなに聞きたいなら、どーぞ」
「「へぁっ!?」」
二人して予想外の返答に固まるしかなかった。




