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第五十三話

 緋彩たっての希望により、一度別れて駅前で緋彩を待っていた。


 緋彩が指定してきた時間は十時で、今時計はその五分前を指している。


 日曜日ということもあって、緋彩が集合場所にしてきた駅前は大混雑。一応わかりやすいように噴水の前に立っているが、そもそもここまで人に流されずに来れるのか……。


 わかりやすいように噴水の前に、なんて言ったけど、俺だってここまで流されただけだし……。


「……おまたせ」


「うぉっ!? ……と、びっくりし、たぁ……」


 突然耳元で囁かれ後ろを向くと、少しいつもよりおめかしした女神……もとい緋彩。


 白い大きめのTシャツに色が薄めのデニムのワイドパンツ。高い位置でベルトを締めているから体の凹凸が分かりやすい上に、足が長く見えてめちゃくちゃスタイルがよく見えるし、いつもつけている黒のキャップとボディバッグも相まってボーイッシュに纏まっている。


 服装だけ見れば、いわゆるかっこかわいいって感じ。


 でもそれを可愛いに振り切れさせるのが緋彩。


「……うたのん見つけたから……イタズラしてみた」


 ちょっと顔を紅くしているのがまた可愛い。葵衣から聞いたところ、緋彩がこんなに感情を表に出しやすいのは俺がいる時だけらしく、その事実が更に緋彩を可愛く見せる。


「……なんか反応して」


 プクっとほっぺたが膨らむ。感情が出やすいと言っても、基本無表情なので、ほっぺたが膨らむだけ。


 それもそれで可愛いっていうか、それが可愛いんだけど。


「……うたのん……!」


「っは!?」


 やばい……完っ全に見惚れてた……!


 表情は薄いのに紅くなったり、ほっぺた膨らませたりして可愛さがえぐい……! なんか的確に可愛いって思うポイントを刺してくる!しかも狙ってないっぽいのがさらにやばい!


 あー、緋彩超可愛い……ってまたどっかいくとこだった……! 見惚れてたこと自体は悪くない……はずだけど、その前にやることがあるだろ小野寺詩乃!


「ごめん、緋彩可愛すぎて見惚れてた」


「え」


「あ」


「「………………」」


 本当は、「服似合ってるね」って言うつもりだったんだよ。全然違うのが口から出たけど。


 おかげで顔は熱いわ緋彩もフリーズするわ……何より話しかけづらい!


「「……えっと」」


 あっ、と小さく呟いて真っ赤な顔を俯かせる緋彩。それでもこっちを見ようと視線だけ上にあげる。そうすると必然的に上目遣いになる訳で……。




 俺の頭は真っ白になりました。


「……先緋彩からでいいぞ」


 これを何とか絞り出すので精一杯。色仕掛けなんかよりこっちで勝負された方が耐えれない。これ普通に簡単に落ちる。


 深呼吸して心落ち着かせてるのも小動物っぽい。


「……じ、じゃあ……その、ありがとう……褒めてくれて」


「い、いや、ほんとに思ったことだから……」


「……そ、そう……うたのんも、シンプルな感じでか、かかかっこいい、よ?」


「あ、ありがとう……」


「…………………………」


「…………………………」


 死ぬほど長く感じる無言タイムは、緋彩が吹き出す声で終わった。


「ぷっ」


「くくくっ」


「……なんで一回目でもないのにガチガチなの」


「ほんとにな、二人して何してんだよ」


 すっかり元の調子に戻った緋彩はいつものように胸を押し付けるように抱きついてくる。


 そして何ともなさそうな俺を見て一言。


「……さっきの方が反応良かった」


「こういうことしてくる緋彩には慣れてるからな」


 毎回耳が真っ赤になるぐらい恥ずかしがりながらくっついてくる緋彩には、ね。


「無理にくっつこうとしなくていいんだぞ? 暑いし」


「……私の武器──」


「さっきみたいなウブな感じのだって武器だろ」


「……そっか」


 我ながらくっさいセリフだな……ほんとに。緋彩の反応も薄いし、恥ずかしー!


 ってあれ? 腕に当たってたものがない?


「……じゃあ、こうする」


「! ……っおう、そうか」


 ……恋人繋ぎでその真っ赤な顔で笑ってるのは反則じゃない?


「……ふふっ」


 なんかもう俺手玉に取られてないか? 次ぐらいには完全体緋彩が出てきそうなんだけど……。


「……どこいく?」


「暑いからまずカフェかなんか行こう」


「……分かった、熱いから、ね」


 ……なんかもう完全に手のひらの上な気がしてきた。

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