第五十二話
「……うたのん、デートいこ」
「うんまぁそれは別にいいんだけど……なんで俺に跨ってんの?」
現在、すっかり夏になった七月のある日曜日の朝八時。
一応エントランスやらオートロックやら防犯設備はしっかりしているはずの我が家があるマンション。
なのにいるはずのない緋彩が寝ていた俺の腹の上に馬乗りになっているこの状況。
訳が分からないよ……。
──────────
「んで、なんで緋彩はここにいるんだ?」
葵衣はまだ寝ていたいとのことだったので寝かせたまま、俺と緋彩はリビングで向かい合っている。もちろんどうやってここに入ってこれたのかを聞くために。
「……デートのお誘い」
「そうじゃなくてだな……」
インターホンが鳴ったら流石に気づくし、俺が寝ていたとしても葵衣も隣で寝てたから万一でも葵衣が入れたなんてこともない。
じゃあどうやって入ったのかって話なんだけど、まぁ考えれば想像つくわな。
「カバンを見せろ」
「……嫌だと言ったら」
「デートな──」
「はいどーぞ」
早ぁ……言い切る前に 差し出されたんだけど……。まぁ遠慮なく漁らせてもらうけど。
「お、みっけ」
緋彩のボディバッグの中身はほとんど入っていなかったので、探していたものはすぐ見つかった。そう、我が家の鍵だ。
「これ、どういう事?」
鍵は葵衣にしか渡してないのにどうして緋彩が持っているのか。軽く圧をかけたら簡単に緋彩は白状した。
「……あおちんから鍵を借りて作った」
「本当に借りたの?」
「……本当」
「葵衣はなんて言ってた?」
「……私だけはずるいから、って」
てことは叶恵も持ってるってことじゃん……よし、葵衣は後でお説教。
緋彩は……無罪とは言えないんだけど、怒るに怒れないな……。
九……いや八、七割は葵衣が悪いからな。
「緋彩」
「……は、はい」
名前を呼んだだけで緋彩の肩がビクッと跳ねて、ギュッと目を瞑る。
何をされると思っているのか……。俺緋彩に手を出したことなんてないんだからそんなビクビクしないで欲しい……悲しいから。
「鍵に関しては葵衣が勝手にやったことだから緋彩を叱りつけるようなことはしない。でも、勝手に家に入ってきたのはダメだ。来るならせめて連絡をしてから来い」
「…………はい」
反省もしてるみたいだし、もういいかな。頭わしゃわしゃしてやろ。
「よし、反省できて偉いぞ〜!」
「……子供扱いしないで」
言ってることの割に頭ぐいぐいくっつけてきてるの緋彩だけどな。
無意識……なんてことはなさそうだな、離そうとすると「あぁっ」って声漏れてるし。感情が表に出てる緋彩は普段の数倍可愛いからな……やめられん。
でも反応楽しむのも悪くない……。ちょっと意地悪するぐらい怒られないだろ。
「はいはい、じゃあやめるよ」
「……やめろなんて言ってない」
「頭押しつけてくるぐらいだもんな」
「……うるさい笑うな」
結局俺が楽しくなって、葵衣が起きてきて怒るまで緋彩の頭を撫で続けた。あと髪せっかくセットしたのにボサボサにされたと緋彩にもキレられた。二つ目に関しては理不尽だと思う。
〈おまけ〉
「ひーちゃんばっかり撫でてもらってずるいです!」
「……起きてこない葵衣が悪い」
「朝弱いんだからしょうがないじゃないですか! その間に人が良かれと思って渡した鍵を悪用して──あっ……」
「へぇ……」
「ち、ちちち違うんです! 勝手に合鍵作ったりとかしてないので!」
「じゃあこれは何?」
「あっあっあっそれはそのえーと……なんて言いますか……!! お願いします何でもしますから頭グリグリだけは! お願いしま──ああああああああ!!」




