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第四十九話

『さぁ人借り競走も後半戦! 一部生徒を取り合うようなこのレース! 引っ張りだこの小野寺詩乃の体力は持つのかぁぁぁぁぁぁ!?』


 いやもうしんどいとか超えたわ。俺だけ部活の走り込みさせられてるぐらい走ってるよ。


 この時間だけでペットボトル五本ぐらい消費してる。


「あー、また無くなった……買いに行かなきゃ……」


 トイレに行きたくならないのは汗で全部ながれてるからなんだよなぁ……もう走りたくないけどまだ葵衣達走ってないし、隠れるに隠れられない……。


『おーっとここで注目選手だ! 一年生で旧美少女四天王、現在三大美少女と呼ばれる三人の一角! 小鳥遊叶恵だぁぁぁぁぁぁ!!』


「やっとか……」


 三人とも出るからまだ一人目だけど、ここまで長かった……!


「やっぱり、あの子達待ちだったんだ」


 そんなことを言ってくるのは熱中症の症状も知らなかったあの先輩。結構頭おかしいカードの時に呼ばれているし、人気なんだろうとは思っている。実際亜麻色とマッチするゆるふわなセミロングの髪とか、同じ色の瞳とか、三人と並ぶぐらいの可愛さはあるかもしれない。まぁだからなんだよって話ではあるんだけど。


「なんで貴女が反応してくるんですか」


「君に昨日今日で惚れちゃった人代表として?」


「……そうですか」


「あれ? 案外すぐ引き下がるんだ。じゃあ好きでいてもいいってことよね」


「そうは言ってませんよ」


「でもそう取られてもいいような発言をしたのは小野寺くんだよ?」


「ぐ……」


 なんも言い返せない……。熱中症気づかないぐらいの人だから大したことないと思ってたけど、前言撤回だわ。なんか人を手玉にとることに長けてそう。


「貴女こそ、これだけ走らされてここにいるって、誰か待ってるんですか?」


「強いて言うなら小野寺くんと話してたいから。あと私、風見結愛、っていう名前があるんだけど? あと風見先輩って言うのはダメね」


 「そんなことしたら私ここで泣いちゃう」と泣き真似をしてみせる風見──結愛先輩。


 うーんダメだ、距離取らせて貰えない。なんならちょっとずつつめられてるよなこれ……。


「……結愛先輩、体調が悪くないならここから出てってください」


「いや」


「それなら無理やり連れていきますよ」


「じゃあこのレースが終わったらお姫様抱っこで元の席まで運んで?」


「いやです他の人に──」


 いないじゃん他の人……。男子俺以外みんなどっかいっててここに残ってんの俺だけなの忘れてたぁ……。


「……ここにいてもいいんであの三人に絡むのだけはやめてくださいね」


「ふふっ、わかってるよそれぐらい」


 勝ち負けとかないけど、完全敗北だった。



 ──────────



『さぁピストルの音と共に選手がスタート! たった二十メートルの中で抜きでたのは!? ──小鳥遊選手だ! そしてカードをじっくり選んで、掲げたカードには『好きな人』の文字!! 顔を真っ赤にしながら救護スペースに走っていくー!!』


「愛されてるね、小野寺くん」


「もう反論しても意味ないのがわかったんで反応しないですよ」


「ありゃ、手厳しい」


 こんなくだらない会話が終わるとほぼ同時に叶恵が救護スペースに来て俺に向かってダイブ──ってダイブ!?


「ぐおっ!」


 流石にいきなりだと衝撃逃がせない……。


「ゲホッゴホッ……もうちょっと俺の事も考えてくれ、叶恵……」


「詩乃は私達のものなのでー。取らないでくださいねー? 先輩」


 俺のことは無視して牽制ですか……。まぁ牽制自体はいいんだけど、俺は?


「好きな人のことほっぽり出して牽制するような子よりは私の方が上かなって思うけど?」


「ちょ!? それは言い過ぎ──」


「そうだねー。ごめん詩乃。さ、走るよー」


 あれ、意外と丸く収まってる? それならそれでいいんだけど。


「早く手ぇ握ってよー」


「はいはい」


「………………」


 あ、違う? 恋人繋ぎするんですね。分かりました。だからそんな不満そうに見ないで!


『小鳥遊選手、やはり小野寺詩乃を連れて出てきた!! しかもその手はしっかりと恋人繋ぎ!! 男子生徒からのブーイングが響き渡るー!!』


 最初は結構キツかったけどこのブーイングも慣れてきたな。男子諸君は頑張って自分を磨いてくれ。そしたら嫌という程チヤホヤされるぞ。俺はもう懲り懲りって感じだわ。ブーイングとか酷いし。


 ……やばい自分で言ってて嫌味にしか聞こえない。


 ……今日はこの感動噛み締めとこ。元々はただの陰キャだし。幸せといえば幸せではあるんだけどね。


 まぁ、それはそうとして、だ。


「なんでさっきあそこで引いたんだ?」


「あの人は知り合いだし、間違ったことは言ってなかったでしょー?」


「まぁそうだけど……」


「私だって誰にでもぶつかり合いに行くわけじゃないのー!」


 まぁ確かに叶恵がぶつかりに行くのって葵衣と緋彩以外に見た事ないな。じゃあそういうことなのか。


「てことで詩乃ー。私の事だけ見て走ってねー?」


 ──ちゅっ


「は?」


 え……は? ほっぺたにキス?


 ……こいつ、走りながらキスするとかどんな芸だよ。「失敗しなくてよかったー」じゃなくてこれが成功するってどうなってんだよ!?


「えへへー、まだまだ二人には負けないし、その他の誰にも渡さないからー!」


 さらにぎゅっと抱きついてくる叶恵に、文字通り目が離せなくなったままゴールした。

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