第四十六話
やばい。周りの時間がゆっくり感じる。ニュータ〇プにでもなったかな。……じゃなくて!
緋彩の足下には見るからに踏んだら足を捻りそうな石。でも目隠しをしている緋彩にはそれが見えていない。
俺の注意が甘かったのが悪いことが凄い腹立たしいな。いや、まだ間に合うか? 頼む、緋彩……!
「緋彩、足下に──」
「あぅっ!?」
『あーっとここで、橘選手が倒れ込む! その隙を逃さず柊選手が抜いていくー! 大丈夫か橘選手!』
不幸中の幸いだったのは転んだのが俺が待つゴール地点のすぐ近くだということ。ゴール地点は緋彩から見て五メートルほど。ギリギリ反則しても怒られないかな……。
「緋彩、歩けるか?」
「……足痛くて無理かも」
「了解」
「……え、何するつもり」
ちょっとまた抱きかかえて走るだけだよ。まぁそんなこと言ってる暇ないけどね。
「ひぁ……!」
「しっかり掴まってろよ……!」
「……うん」
胸は当てなくていいんだけど──いや、当ててるんじゃなくてこれは無意識ってやつっぽい。緋彩の顔は真っ赤だし、潤んだ目でこっち見上げてくるのも超可愛い。久々に感情が顔に出てるしきっと色んなこと考えてるんだろうな。
……てか勢いでやったけどこれめちゃくちゃ恥ずかしいなぁ! さっきのもめちゃくちゃ恥ずかしくなってきたわ!!
『赤坂、柊ペアは手を繋いで走っていく!! なんて羨ましいんだ美男美女カップル!! 橘選手が転んでしまった小野寺、橘ペアにもう勝機は残されては──なんと、なんとまたもや小野寺詩乃が魅せていく!! 目隠しレースのゴール手前で倒れ込んだ橘選手をお姫様抱っこして、赤坂、柊ペアを猛追しているぅー!!』
全っ然追いつけないけどな!! 緋彩がここまで軽くなかったらもっと離されてたとは思うけど、全く追いつける気配はしないわ!
『グラウンド中に広がる歓声と怒号!! 第一走でどれだけ後ろのハードルをあげていくんだ小野寺詩乃ー!!』
知らんわ! 別に沸かせるためにやってないからなこっちは!!
「ねぇハルくん、私もアレやって欲しい!」
「マジで? あれ絶対疲れるって……」
「詩乃ちゃんにできてハルくんには出来ないの?」
「……一旦止まって。やってやろうじゃねぇか!」
陽斗もわざわざ待たなくていいんだけど! なんで第二のスタートライン作ってんだよ!!
でも公平な勝負は助かる!
『ラスト五十メートルを切った地点で赤坂、柊ペアが止まって小野寺、橘ペアを待っている! そして──リードを捨てて、二ペア並んで走り出したぁー!』
グラウンドに響く声が大きく一層大きくなった。
ゴールは近い。陽斗は腕の中で騒ぐ会長のせいでフラフラ走っているし、チャンスはある!
『この後の盛り上がりを全部持っていったんじゃないかと思われるこの第一走のレースも、ついに終わりを迎えようとしている!! リードしているのは小野寺、橘ペア!! 一進一退の攻防を繰り返したこの二つのペアの決着が、今、着こうとしている!! さぁ、ついに勝者が──決まったぁー!! 勝ちもぎとった、小野寺、橘ペア、そして名勝負を見せてくれた赤坂、柊ペアに大きな拍手を!!』
「「「「まだ俺(私)達走ってるんだけど!!」」」」
『残りの第一走の方々すいませんでした!! 実況を続けます!!』
因みにこの後のレースではお姫様抱っこにチャレンジしようとして殴られた男子が何人もいたとか。




