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第五話

 まず最初に、今の状況を説明したいと思う。


 午前六時半、いつものようにベッドの上で目を覚ました。目の前にあったのは艶やかでいい匂いのする髪の毛。首元に顔を埋めるように、千代ケ崎さんが寝息を立てて寝ていた。そして、絶対に離さないと言わんばかりに、首に手を回し、足を絡ませて俺を拘束している。


 そしてそんな解説をしている俺の腕も、千代ケ崎さんが離れないようにしっかりと背中に回っている。


 どうしてこうなった。


 思い出せ小野寺詩乃……! 昨日の自分の行動を……!


 洗濯物を干す

 ↓

 ソファーで寝る

 ↓

 千代ケ崎さんを忘れてベッドへ

 ↓

 猫と勘違いして抱いて寝る←イマココ


 うん、美少女と同じベッドで寝れて幸せです。めっちゃいい匂いもするし最高! ……じゃなぁい!


「同衾はまずいだろぉ……」


 昨日までホームレスお嬢様だった千代ケ崎さん。そう、ホームレスでもお嬢様だ。しかもこの歳、お見合いとか、もしかしたら婚約者とかいたかもしれない。それに、今いないとしても、これから千代ケ崎さんにそういう相手が出来るかもしれない。


 ……なんか考えてると腹立ってくるな。千代ケ崎さんの意思が尊重されないような感じがするし、何よりそれで千代ケ崎さんが幸せになれるのかもよく分からない。


 でも、千代ケ崎さんに、俺が好意を抱くことは許されない。いや、好意を持つこと自体はいいか。でも、その想いを伝えることは多分ないだろう。その時が来てしまったら、俺のちっぽけなエゴで千代ケ崎さんを守ることは出来ないだろうし。


 ……よし、切り替え大事! こんな重いのは性にあわん。さっさと朝飯食って布団買いに行くぞ!



 ──────────



「千代ケ崎さん、朝ご飯作らなきゃだから離して」


「ん〜、嫌、です……!」


 ん〜、めちゃくちゃかわいい。


 七時半。目が覚めてから一時間が経った今も、千代ケ崎さんにまだ抱きつかれていた。


「早くしないと出掛ける時間なくなるんだよ……今日は布団とか買いに行かなきゃだから時間かかるし……」


「布団を買ってしまったら、一緒に寝てもらえないじゃないですか」


「一緒に寝なくていいように布団買うんだから当たり前だろ」


 首元に埋まっていた顔が出てきて、視線がぶつかる。


「私と一緒は、嫌ですか」


「別に、嫌だからじゃない。でも、だめだ」


 真っ直ぐ見つめて、そう返した。どれだけ辛くても、ここだけは譲ったらだめだ。


「……分かりました」


 俺に抱き着いていた千代ケ崎さんの力が緩んで、身動きが取れるようになった。


「朝からご迷惑をかけてしまってすいません。また、美味しいご飯を楽しみにしてますね?」


「あぁ、朝だし簡単なものだけど、千代ケ崎さんの口に合うよう頑張るよ」


 扉を閉める前、千代ケ崎さんの呟いた「詩乃さんも、私としては、見てくれないんですね」という言葉は、聞かなかったことにした。



 ──────────



「納豆ご飯と、お味噌汁ですか!」


 千代ケ崎さんが目を輝かせて俺を見る。


「納豆は市販のやつだが許してくれよ?」


「大丈夫です! 早く食べましょう!」


 もう待ちきれないと言うように、千代ケ崎さんの口からヨダレがたれかけている。……昨日も見たなこの光景。てかテーブルマナーはいいのにこれのせいでプラマイゼロぐらいになってるんだよな。……まぁそこがすげぇかわいいけど。


「「いただきます!」」


 手を合わせて食材と農家さんに感謝。


 まず一口目は味噌汁から


「あ〜、うまい〜」


「美味しいですー!」


 これぞキングオブ日本食。味噌汁しか勝たん。


「それで、今日はどこに行くんですか?」


 しばらく無言で食べていたところで、あとお味噌汁のおかわりください、と言いながら、千代ケ崎さんが聞いてきた。お味噌汁にハマってくれて何よりだが、明日からは量もっと増やさないと夜の分なくなるな……俺もおかわりしよ。


「出来れば近場で済ませたいし、駅前のショッピングモール行くか」


 あそこなら千代ケ崎さんのために揃えなきゃいけないものもあらかた揃うだろうし、疲れたら休憩もできるしな。


 味噌汁を持って席に戻ると、満面の笑みの千代ケ崎さん。


「ショッピングモール……! 楽しみです! 色んなお店が入ってるんですよね! どこから回りましょう、どこから回りますか!?」


 やっぱり行ったことはないらしい。楽しみにしてくれているのだから、それに答えるのが俺の今日の役目、そのために一番いいのは──


「服選んで、昼飯食べてその後は適当にって感じだな。そして最後に布団買って帰宅だ」


「それじゃあ朝ご飯食べ終わったらすぐ出発しましょう!」


 また空になったお椀を突き出しながらいい笑顔。……早くね?


「まだ開いてないし今日の夜の分の味噌汁なくなるんだが!?」


 案の定味噌汁は朝のうちになくなり献立変更を余儀なくされた。


 ……まぁ美味しそうに食べてくれたからいいけどさ。

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