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第四十三話

「にしても詩乃、よくこんな量一人で作ったねー」


 和希先輩が触っていた弁当の蓋をめちゃくちゃ綺麗に拭きながら叶恵が言った。


「意外と簡単だぞ? 唐揚げも卵焼きも一回で結構な量作れるし、おいなりさんは昨日の夜作ったしな」


 一番大変だったのはこれを入れてる重箱を緋彩の家に取りに行くことだったと。


 緋彩のお母さんには圧かけられるし、本人には拘束されるし、そもそも家がトラップだらけだし……普通に忍者屋敷かと思った。


 結婚迫られるのまじで怖ぇ……。


「……うたのん?」


 ……絶対言うなということですね……了解です。緋彩の目が死んでたんだけど〜!


「ほ、ほら、時間もなくなるから、さっさと食べようぜ?」


「……早く食べよ」


「ですね! それじゃあみんなで」


「「「「いただきます!!」」」」


 じゃあ早速唐揚げを──ってあれ?


「俺の箸は?」


「私が抜いておきました!」


「なにしてんの!?」


 え、俺は食うなと!? 頑張ってみんなのために作ったのに!?


「こうすれば、詩乃は絶対、誰かから食べさせてもらわなきゃいけなくなります!」


 ……そういう魂胆か……逃げられないし、理にかなってるよな。


 でもな三人とも。ここ、結構人いるんだよね。しかも今葵衣がでかい声でそんなこと言ったからさ、周りめっちゃ見てるんだよね。


「「「はい、どーぞ」」」


「えーと……」


 葵衣からおいなりさん、緋彩から唐揚げ、叶恵から卵焼き。みんな同時なのはわざと……? 誰か一人選んだら喧嘩になるよね絶対。


「個人的にはおいなりさんから食べたいんだけど……葵衣だからとかじゃなくてね?」


「「っ! ……はいっ!」」


 だから、なぜそう譲り合わないの君達。唐揚げと卵焼き食べながらおいなりさん差し出さないの! てかそんなに俺の一口目が大事か!? この後もいっぱい時間あるじゃん、俺結構食べるよ!?


「ふ、二人とも、詩乃が困ってます。譲ったらどうですか?」


「……困らせてるのはあおちん。ここは私に譲るべき」


「ご、ご飯の時は私が優先ー! そうじゃないと、私だけ負けちゃうからー!!」


「「「ぐぬぬぬぬ!!」」」


 困らせてるのは三人なんだけどね……もう周りも引き始めてこっちをどうにかしろよみたいな目で見てるから。


「……正直誰から食べさせてもらっても嬉しいし、三人で仲良く順番決めてくれ。それまで待ってるから」


「「「……わかりました」」」


 そんなあからさまにしょんぼりされるとこっちも心が痛いんだけど……。




「やったー! 私が一番ー!」


「……二番……まぁ悪くない」


「これが普段から一緒にいる代償ですか……そうですよね……ぐすっ」


 七回戦に及ぶ壮絶なじゃんけんの結果、順番は叶恵、緋彩、葵衣となった。


 葵衣は泣かないでくれ、家でもできるでしょ……?


「家とこういうイベント事はちがうじゃないですか」


「えぇ……? そういうものなのか?」


「そういうものなんです!」


 そうかぁ……でもこういう時は普段一緒にいる分二人に譲ってあげてね。──っと、袖引っ張って来たのは……叶恵?


「私が最初なのに葵衣とばっかりイチャイチャしないで欲しいんですけどー?」


「わ、悪い」


 むっとした顔もかわいい……じゃなくて、ちゃんと申し訳ないとは思ってます。はい。だから急にそんな死んだ目にならないでくれ……!


「ふふふっ、怒ってないよー? はい、あーん」


「あ、あーん……むぐっ!?」


「なーんて言うと思ったー? 私、葵衣と緋彩みたいに心広くないからー!」


 だからっておいなりさんそのまま一つ突っ込むのはちょっと……! 結構大きいから食べづらい!!


「……大丈夫、うたのん?」


 味噌汁も手渡してくれる緋彩。うーん、めっちゃいい子。色仕掛けもう少し減ったら完璧なんだけどなぁ……。


「おう、もう大丈夫だ。味噌汁もありがと」


 味噌汁はちょっと量多かったけど。って残りを緋彩が飲むのね。両手で持ってちょっとずつ飲むの小動物感あっていいな。


「……ん、うたのんの味」


「語弊がありそうな言い方やめようか!」


「そ、そうですよ! あと早く変わってください!」


 ベタベタしすぎです、と葵衣。確かに距離は近いけど、家での葵衣の方が近いよな。まぁ、この場で言ったら怒られそうだし言わないけど。


「……何言ってるの? お味噌汁は不可抗力。かなかなのせい」


「ぐ……でも──」


「……うたのんはどう思う? あと、はい」


 唐揚げと一緒に聞いてくるってもうそれ選択肢一つしかないと思うんだ。


「……今回だけだぞ」


 確かにずるいけど、今回は間違ったこと言ってない緋彩の勝ち。

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