第四十一話
「さぁ、明日からは遂に本番ね」
いつも通りの生徒会室。会長がニヤリと笑ってぐるっと俺達全員を見回す。俺を含めほかのメンバーは唾を飲み込んで会長の次の言葉を待つ。
「でも本番は今までの準備より格段に楽で楽しめることばかり。頑張りましょうね?」
予想していたような明日も使ってやるからしっかり働け、みたいな発言はなくてよかった……。本当にそうだったらまじで泣くレベルだわ。
とは言っても、和希先輩と会った次の日から、俺の待遇も変わったので、最初に比べるとだいぶいい環境で働くことができたけどな。
まず、ペアじゃなくて六人になった。まぁ、予想通り俺と葵衣、緋彩、叶恵の三人と、会長、陽斗。
そして次に、仕事の量が減った。どうやら俺は生徒会がやる仕事の三分の一を押し付けられていたらしく、会長から謝罪された。でも会長はその他の三分の二をやっていたらしいので俺は何も文句を言える立場ではなかったと。その理由は他の生徒に全力で体育祭を楽しんで欲しかったかららしいけど、俺は迷惑かけていいんですかね?
とまぁその他色々変化はあったけどそこは割愛。応援歌などは合流してからスタートしたので良かった。ちなみにその辺りからの陽斗の合流によって、会長カップルのイチャイチャが始まった。仕事はしてたけど、周りの目が死んでたのは言わずとも分かるな。
変わらなかったことといえば、和希先輩ぐらいだろうか。毎日三人にちょっかいをかけて、追い返されて自分の仕事に戻る。または真面目に練習を始める。
本当に意味がわからない人だけど、今回のことに関して、個人的にいくつか仮説を立ててみた。
一、和希先輩は本当にいい人である
こう考えるなら、全ての辻褄が合うし、会った時の話も通る。個人的にはこの説を信じたい。
二、和希先輩は普通にやばい人である
会った時に言ったことのほぼ全てが嘘。辻褄も何もあったもんじゃない。騙されたやつが悪い。
三、そのどちらにも当てはまらない
というか正直このどれもありそうで怖すぎるんだよなぁ……。結局今も考えてること少しも分からないからな。
とりあえず、明日は楽しむとして。
「で、わざわざ集まらせたってことは何かあるんですか?」
そこが重要。正直もう家帰ってダラーっとしたいってのが本音。この集会の前も軍団の生徒集めて練習したし、その他の仕事も終わってる。帰れるはずなんだけど……。
「今日言いたかったのはこれだけ。もちろんこの後も仕事はないわ」
「お疲れ様でした! さようなら!」
ここ最近で一番の声を出して最速で帰った。
──────────
「う〜た〜の〜」
帰ってすぐにでろーんと溶けた葵衣。わざわざソファーに座る俺の上で寝っ転がっている。なにこれかわいい。
「くっついてください〜」
「はいはい」
十分くっついてるけどね。
「よいしょ、っと」
「私赤ちゃんじゃないんですけど〜!」
脇の下に手ぇ突っ込んで膝の上に座らせただけじゃん。しかもちゃっかりこっちに倒れてきて匂い嗅いでる癖に何を言うか。
「はいはい、よーしよしよし」
「あう、あう、あぅ〜雑ですよ〜」
そりゃあ雑にもなるだろ、かわいすぎんだよこの〜!
てかキャラ崩壊酷すぎるんだけど何!? 口調も間延びしてて敬語じゃなかったら誰かわからないレベルなんですけど!?
「ストレスが溜まったら人に甘えたくなるじゃないですか〜」
「そう、なのか……?」
「そうなんです〜! ……ちょっと汗臭いですけど、これもこれで悪くないですね〜!」
「汗臭いなら離れて!?」
六月入って少し経ってて汗もかきやすくなってきた感じはしてたけど、汗臭いって思うぐらいならシャワー浴びてくるから離れて!?
あとたまにやってくるけど心読まないで!?
……取り乱してしまい大変申し訳ございませんでした。謝罪申し上げます。
「誰に謝ってるんですか?」
「だから心読まないで……?」
まぁこの際エスパーに目覚めたのは置いておこう。上っ面しか読まれないなら大した影響もないし。
「てか離れてくれない?」
汗臭いって言われてそのままでいられるほど俺は神経図太くないんだけど?なんなら割と傷つくよね。
葵衣は相変わらず家事できないから、風呂沸かすのもバイトから帰ってきて俺がやるんだけど……その時って今以上に汗かいたあとなんだよね……。
いつもはもっと汗臭いからあんまりくっついてこないってことなのだろうが……。
「嫌です」
「ダメだ」
「い〜や〜で〜す〜!」
「じゃあこのまま風呂いくぞ」
「いいですよ。詩乃に裸を見せるぐらいできますとも! もう余裕で! えぇはいできますとも!!」
えっまじ? ──じゃなくて!
「それならやめ──……いや、いいぞ。一緒に入るか」
ここは逆に乗るのが最適解とみた!
「え!? あっいや、そのその、えーっと……」
効いてるっぽいな……。割と長い時間一緒に過ごしてるし、手に取るように、とまではいかないけどなんとなくは読めるんだよな。どう対抗すればいいか。
「お、おります……」
完全勝利。抱きかかえていた葵衣を下ろすと顔は真っ赤になっていて、ちょっと目がぐるぐるしていた。そんな葵衣の頭をもう一度撫でて、俺は脱衣場に向かった。
〈おまけ〉
「だ、誰も入ってこないとは言っていませんよ!」
「おま……馬鹿野郎!」
「誰が馬鹿ですか!?」
「男が風呂入ってる時に突撃してくるやつが現実にいるか馬鹿!!」
「う、詩乃こっち見ないで! ぜ、全部見え──きゅぅ……」
「葵衣ー!!」
ということがあったとかないとか……。




