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第四十話

 ふぅ……。緊張するな……。なにせ先輩を呼び出すなんて初めてだし、相手はあの人だ。絶対にペースを握らせたらダメだ。呑まれたら負ける。


 俺が今いるのは学校近くのファミレス。ある先輩を呼び出して、先に一人で待っている。LINEは既読になったが返信は来なかったので、ここに来るとは決まっていない。でもあの人なら必ず来る。そんな自信があった。


「いらっしゃいませー! お客様一名様ですか?」


「いや、先に連れが来てるはずなんだけど、どこかな?」


 来た。


 比較的入口から近い位置に座っている俺の耳に、店員さんの声と共にそいつの声も届く。


 俺の場所を教えてくれた店員さんにお礼を言って、そいつはこっちに歩いてくる。


「やぁ、待たせてごめんね?」


「……待ちくたびれましたよ。和希先輩」


 気味の悪い笑顔を貼り付けて和希先輩はやってきた。



 ──────────



「さぁ、心当たりならいくらでもある。遠慮なく聞いてくれて構わないよ」


「じゃあまず、その気味の悪い顔やめてもらえますか?」


「……これは素なんだけどな……第一印象って怖いなぁ……悲し」


 割と本気で悲しそうな顔をする和希先輩。なんなんだこの人? これが素? 確かに第一印象が悪すぎてそんなこと考えても見なかったけど……まぁいいか、ちょっとこっちがイライラするのを我慢すればいいだけだ。


「じゃあいいです。本題に入りましょう」


「せっかちな男は嫌われる──っと、余計なことは言わない方がいいかな?」


 落ち着け……落ち着け小野寺詩乃。ここで怒りに身を任せたらダメだ。落ち着いて、聞きたいことをちゃんと聞き出せ……!


「……単刀直入に聞きます。なんで、三人に絡むんですか?」


 俺の問いに、和希先輩はわざとらしく首を捻ったり唸ったりしてたっぷり時間を使って、ニタァと笑って言った。


「単純に、欲しいから」


「…………その相手が、嫌がっていてもですか」


「もちろん。だって最終的には堕ちるからね」


 その圧倒的自信はどこから湧くのだろう。経験? これまでの人生? それとも、根拠のないはったり? 分からない。分からないけど、なんにせよ、こいつの言ってることは許せない。


「簡単だよ。信頼なんて体で買える。一回愛してあげれば、簡単に、ね」


「………………」


 あぁもう反吐が出る。口開いたら怒鳴りそうだ。周りの迷惑になるからそんなことをする訳にはいかないけどな。


「それに、あの子達三人は、あまりにも脆い。君を引き合いに出せば、すぐに体ぐらい差し出してくれるだろうね」


「は?」


 どういうことだ? まるで、俺が足枷になってるみたいな言い方をして……?


「彼女達にとって最後の砦は、君だ。前回の……えーと、浜名楓、だっけ? あの時、彼女達の親御さん達は、知らなかったとはいえ一瞬でも敵に回った。その中で唯一自分のために動いてくれたのが、君だ。その君が、壊されるかもしれないとしたら、どうするかな?」


 そんな事をニヤニヤと笑いながら、平然と、何もおかしなことはないと言うように並べていく。だいたい、俺が壊される? そんな事、あるはずがない。そんな事が、たとえあったとしても──。


「それでも、俺は──」


「とまぁ、ここまで言ったことの殆どが冗談だけどね?」


「は?」


 この短時間で二回も意味わからないこと聞いてるんだが……? 冗談ってなんだよそれ、こんだけ人を煽っておいて、全部嘘ですってか?


「……正直に話すと、ある人から、体育祭の期間の間だけ、君達にとってのヒール……いわゆる悪役ってのを演じてくれないかって頼まれたんだよ。家の都合上許嫁もいるし、女の子が好きなのは認めるけど……体で関係を作るほど僕は落ちぶれたくない」


 まぁ今までの行動からそんなこと信じられないと思うけどね、と和希先輩はケラケラと笑う。


 正直今度は混乱してて声が出ない。今までのが殆ど嘘で、先輩は演じてただけ? 迫真の演技すぎるだろ。


「……やっぱり僕には荷が重いよ。段々罪悪感が強くなってきちゃって……あーあ、ここを乗り切れば何とかなったのになぁ……」


 体を椅子に投げ出してぐだーっと伸びる和希先輩。限りなく自然に近い動作だが、これも演技の可能性だってなくはないってことだよな。


「……これも演技ですか?」


「んー、個人的には否定したいけど、それに根拠を持たせるには、僕を悪役に仕立てた人とのやり取りを見せるのが一番早い。でもそれは出来ないから、そこは自分で判断して欲しいな」


「……分かりました」


 まだこの人は疑ってかかった方が良さそうだな。裏にいる人も気になるし、まぁそこは後々探っていくとして。


「それじゃあ、僕から言えることはほとんど言ったし、お開きにしようか」


「そうですね」


 想定してたのと違う意味で疲れた。今週まじで毎日疲れるようなことばっかりだな、嫌になるわ。


「あ、そうそう。この話は僕達の間だけで頼むよ。依頼人にも怒られたくないし、明日からはまた悪役に戻るから」


 会計札をもって先輩がレジに向かい、そのまま俺の分まで払って外に出る。


 俺の分を払おうとすると、今までとこれからのお詫びだから、と言って止められた。


「それじゃあ、また明日からよろしく」


「はい、不本意ながら」


 実際仲良くしたい訳じゃないからな。


 笑いながら歩いていく和希先輩を見送って、俺も帰路に着いた。



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