第三十九話
「……今日は私がペア」
むふー、とセルフ効果音をつけながらピタリと隣に並ぶ緋彩。わー、大きなのが当たってるー。
それはそうと、あからさまに俺だけ三人とペアにされてるんだよなぁ……。毎回三人のうち誰かとペアで動いて、毎回ハプニングに襲われると。ここまでテンプレ。
最初の体育館閉じ込めに始まり、その二日後は資料の山に押し潰され、昨日は何事もないと思っていたら今度は資料の影にいたせいで生徒会室に閉じ込められた。ちなみに昨日は叶恵とペアで、いじめられそうだったので即電話した。
「今日は資料の運搬ですか……」
絶対これ俺らがやる仕事じゃないだろ……実行委員兼ねてるとは言ってもこれ普通に生徒会で処理するやつだし。生徒会のハンコ押して提出しろってなんだよそれ。
「しかも毎回仕事の量多すぎなんだよなぁ……」
昨日一昨日と埋もれていた資料の山を運べって無理な話だろ……。
「……今日もハプニング起きるかな」
んー、なんで喜んでんのかな緋彩さん? 心做しか語尾が弾んでるんですよね? 楽しそうなのは何よりだけど、俺はもう嫌だよ?
「一週間にそう何回も酷い目にあいたくないんだけど」
「……私達、うたのんと一緒じゃない日はあの人に毎日絡まれてる」
えー、前言撤回……それは俺より酷い目にあってるわ。毎回絡まれたらたまったもんじゃないよな……。想像しただけで嫌になりそう。
「……だから、ストレス発散」
「うぉっ……」
「……いい匂い」
「なんか強引になってきてない……?」
「…………気のせい」
間がいつもより空いてるから嘘だな。まぁ深くは追及しないけどね。何となくわかるし。ただ、押し倒されるのめっちゃ怖いからやめて欲しい。後ろ見えないのに倒されるのまじ怖いぞ?
「……怖い、あの人」
しばらく抱きついていたあと、ぽつりと緋彩が呟いた。それと同時に、抱きつく力も強くなる。
「……狙いが分からない。根本が掴めない。……あと、気持ち悪い」
最後のは単純に悪口じゃ……。凄いためるから何かあるのかと思ったけど想像以上に何も無かった……。
「……すごいしつこいし、断っても断ってもにこにこして次の日には話しかけてくる。嫌いってはっきり言ってもお構いなし。……しかも胸ばっかり見てくる。うたのんとペアの日以外学校にきたくないレベル」
うわぁ……緋彩が早口になるぐらい感情が高ぶっていらっしゃる。本当に嫌なんだろうなぁ……。俺はこのシステムのおかげで和希先輩とは一緒にならないけど。
「……でもいいこともある」
「そうなのか?」
話聞いてる限りだと和希先輩が嫌で嫌で仕方ないって感じなんだけど……?
あー、他の人といるのは楽しいって感じかな。二年生の先輩方は面白い感じだったし。それに叶恵か葵衣のどっちかはいると思うし……俺は他の人達が何してるのか全然分からないからなんとも言えないけど。
「……そう。…………うたのんをもっと好きになれる」
「……………………」
「……反応返せ、ばか」
えーと、声が出ません。知ってたよ? 何となく察してたし、会長にも言われたしね? でもやっぱり葵衣と同じで言葉に出されると照れるって言うかなんて言うか……。とにかく、全然ちゃんと返せなくて本当に困る。
「…………あ、ああああありがとう」
「……………………(かぷ)」
「いっ!?」
首噛まれたんだけど何!?俺気に触るようなことした!?
「はむ……んんー!ぷはぁ……」
すごい吸われるし……あ、これもしかしてキスマークつけられてる!?
「……まだつかない」
「つかないじゃなくてつけないで!?」
動けないから逃げれないけど! 首振ったら多分逆側もつけられるし……! つけられたの葵衣に見られたらなんて言われるか……!!
「……やだ」
わざわざ俺の方上目遣いで見てくるの可愛い……! じゃなくて……やだじゃない!
「……いただきます」
「ま、待て緋彩。話せば分か──」
(がぶ)
「いってぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「……うるさい」
「いや加減して!? 流石に本気で噛まれたら痛いって!」
「……優しくすればいいの?」
「そうだよ! ……あ」
しまったー! やらかした! こんな簡単な誘導に引っかかるなんて……。会話は脊椎でやるもんじゃないな……いつかまじで取り返しつかないことになりそう。いや、今この現状も取り返しつかない方に分類されるのかもしれないけど!
「はむ……ん、ちゅる……どう? うたのん」
「………………」
「……答えないなら噛む」
「大変心地よいですはい!!」
「……じゃあ続ける。……あむ」
「……この後資料の山運ばなきゃいけないからあと五分で頼む」
騒いだところでって感じだし、もういいや……疲れた……。
これだけされて緋彩振りましたなんで言ったらまじで殺されそうだな……。
でも今はこの天国を堪能──地獄を耐え抜くことに専念しよ……。




