第三十七話
「私、あの人嫌いです」
体育館裏にある倉庫の中、周りを確認するようにキョロキョロ周りみながら葵衣が言った。
「珍しいな、葵衣がそんなこと言うなんて」
あの浜名楓にさえ『嫌い』とは言わなかった葵衣がはっきりその言葉を出すってことはほんとに嫌いなんだろうな。
「なんだかよく分からないんですけど、とても嫌な感じがするんですよね」
「あー、俺も大体同じ理由で嫌いだな」
なんにも考えが読めないのに、ただ漠然と悪意というかなんというか……まぁそんな感じのものが佇んでいるだけみたいな感覚。
ちょっと考えただけで気分悪くなるなぁ。
「まぁそれはそれです。気分も悪くなるのでこの話は終わりにしましょう。……なんでこの広い倉庫を二人で任されたんでしょうか?」
葵衣も同じことを考えていたようで、早くも話は切り替わって、俺たちが今置かれている状況の話に。
体育祭で使う備品が全て押し込められている倉庫、それがこの体育館裏倉庫。三枚のA4サイズの紙にびっしり書かれたチェック項目を見た時会長に殺意が湧いた。いや、普段から結構湧くわ、殺意。
「どうせ嫌がらせだろ」
普通この量は二人でやるようなものじゃないからな。なんだよ全部で四百以上って、心折れるわ!
しかもここ入口に第二体育館って書いてあったし、元々は体育館だったとこ改装した感じだろ?見た感じ体育祭関連のものじゃないものもあるみたいだし正直投げ出したいまであるなこれ。
「私は詩乃と二人きりになれて嬉しいので、嫌がらせでもいいですけどね」
「………………」
「家ではずっと二人ですけど、学校じゃ二人になる機会なんてないですから、新鮮で楽しいです」
……あのさ、急に突っ込んで来ないでくれないかな!?
めちゃくちゃ嬉しい! めちゃくちゃ嬉しいんだが! いきなり豪速球ストレートは取り切れないし流すことも出来ないんですよねぇ!?
「あれ? どうしました? ずっと無言で難しい顔して」
「い、いや、なんでもないぞー?」
首傾げて上目遣いもやめてくれないかな……。身長差のせいで仕方ないのかもしれないけど、可愛すぎるんだよね。ほんと困るんだよ。
「私が可愛すぎるとかですか?」
「そうだな」
「みゃう!?」
甘えた発言はしっかり返させてもらうぞ……! そうしないと俺が持たない。
「照れてるのも可愛いぞ」
「あぅあぅー……なんか詩乃が女の子に慣れてきてますぅー!」
別に慣れてはないけどね? 今も顔真っ赤ですよ俺だって。ただ今の葵衣を暴走したままにしといたら俺ここで葵衣押し倒しそうだから余裕持ちたいから許して!
「も、もう満足です! 満足ですから解放してください! …………せっかく貰ったチャンスなのに詩乃に優位取られたままじゃ何も出来ないです……」
すごい速さで距離取られたせいで後半なんも聞こえなかったんだけど……。まぁ結果オーライといえばそれもそうなんだけどね?
「こ、ここからは少しの間分担して確認していきましょう! それでは!!」
それではって言っても遮るものも隠れる場所もないけどね……。でもとにかくまぁ、作戦成功ってとこか……疲れた。
──────────
「やっと終わった……」
「ですね……」
時刻は既に七時を回って、ほとんどの部活も終わって、残っているのは熱心な運動部ばかりになってきた。
もちろん運動部ほど元気じゃない俺達は奥の方にあったパイプ椅子で絶賛お休み中だ。
さすがに疲れたし今日の夕飯はファミレスかなにか行くかなぁ……でもお金がなぁ……うーん、どうし──。
「「!?」」
「なんで急に電気が──」
「……ったく、なんでこの時間にここが開いてるんだよ。……あー、今日は備品の確認があったんだっけか……終わったならちゃんと電気消して扉閉めるぐらいしてけよなぁ」
「ちょっ! 待ってくださ──」
ガラガラガラガラ ガチャン
「ご丁寧に鍵までどうもー……」
なんで電気消してからライトで照らして中確認するんだよ……順番逆でしょ普通さぁ。しかももう扉叩いても気づいて貰えないし……。
「奥にいた俺らも悪いけど、ね……。葵衣ー、大丈夫かー?」
え、返事こないんだけど……聞こえなかったかな……?
「葵衣ー!」
「は、はひ! らいしょぶれふ!」
あっ、これ大丈夫じゃねぇわ。てかどんだけビビってたら最初から最後まで噛むんだよ。ただ呂律回ってない人みたいになってるじゃん。
……まぁ、可愛いとは思うんですけどね。




