第三十一話
「ただいまです!」
「はい、おかえり」
ついに今日、晴れて三人は退院となり、うちには
葵衣が帰ってきた。
毎日見舞いには行ってたけど、それでも家に帰ると寂しい気持ちもあった。
「久々に詩乃の匂いが強いですー!」
すごいはしゃいでるけどそれって俺が臭いってことですかね……ちゃんと色々やってるし毎日掃除もしてるんだけど……悲しいなぁ……。
葵衣がリビングをグルッと回って、こっちに走って……って、え!?
「でもやっぱり詩乃に直接くっつくのが一番ですね!」
焦って抱きとめると、ぎゅうっと苦しいぐらいに抱きしめ返されて、えへへ、と照れたように笑う。
「……あー、そうか、そりゃあよかった」
「あんまりそうは思ってなさそうですね」
違うわ。ちょっと精神統一してるだけだわ。犬系女子(物理)がこんなに可愛いとか思わないじゃん。思いっきり抱きつかれて、いい匂いって言われてみろ、本人のめちゃくちゃいい匂いも合わさって天国見えるぞ。
「そんなことないぞ。葵衣の匂いがいい匂いすぎてちょっとぼーっとしてただけだ」
「……あぅ」
余裕なくて苦し紛れになんか言おうとしたら言わなくていいこと言ったんだが……。
めっちゃ顔熱い。俺も多分胸の辺りに顔埋めてる葵衣と同じで耳まで真っ赤になってるはずだ。
「……しばらくこのままでいるか」
「そ、そうですね……」
結局十分ぐらいリビングの入口で抱き合っていて、逆に恥ずかしくなって二人して顔真っ赤のまま夕食を食べることになった。
めちゃくちゃ気まずかった。
──────────
風呂に入って、だらだらして勉強して、現在十一時。目の前には、ベッドの上で正座する葵衣。ちなみに俺はもう眠いので布団に潜って話を聞いている。
「あの、えと……あぅぅ……」
かれこれ十五分ぐらい葵衣はこんな感じだ。最初は葵衣も布団に入って向かい合って話始めようとしたのだが、シングルベッドなので顔が近すぎて緊張して喋れなかったらしい。
「ゆっくりでいいよ」
「は、はい」
大体言いたい事は分かってるからね。多分葵衣もその事を分かってて、それでも自分の言葉で伝えようと頑張ってくれてるんだと思う。
大きく息を吐いて、葵衣が覚悟を決めたようにこちらを見た。
「わ、私、今まで、妹みたいに見て欲しいって、言ってたじゃないですか」
「うん」
「でも、やっぱり……えっと、その……」
「………………」
「私も、一人の、えーと、あの……女の子として、見てもらいたいなと思いまして……いかがでしょうか?」
ダメだ、堪えろ……! なんでこんなよそよそしい言い方になんだよとか考えるな、我慢しなきゃ頑張った葵衣が可哀想だろ!
「ぷっ、くく……お、おう」
「あ!? 今笑いましたね、私頑張ったのに!!」
「い、いや、笑ってない笑ってない!」
「嘘つき!」
「ごめん!」
「ばかばかばかばか! 否定するならちゃんと最後まで否定してくださいよ!」
「ぐふっ」
み、鳩尾はダメだって……。布団がクッションになるとはいえ、本気で殴られたら息出来なくなるから……。
「ケホッ、ゴホッ……あー、死ぬかと思った」
「打ち上げられた魚みたいで面白かったですよ」
「この……!」
「私に手を出したらお父さん達がただじゃおきませんよ?」
「……すいません」
権力には勝てないって……。そこ引き合いに出されたら何も手出しできないよ……。
……別に殴ろうとか、頭グリグリしようとかじゃないよ? ただちょっとほっぺた引っ張ってやろうかなってぐらいで、ね?
「全く……本当に困った人ですね……」
「葵衣も大概だぞ?」
主に親を引き合いに出してくるという点で。
本人は俺がこれを言うと絶対黙るから軽い気持ちで言ってるんだろうけどな。俺からしたら葵衣の一番怖いとこなんだよな。
あ、そうだ。連絡先交換してもらったし今度葵衣のお父さんに葵衣をいじる許可もらおっと。
あ、そんなことLINEで出来る勇気ねぇわ。はい詰み。
「何か言いましたか?」
「いや別に?」
「そうですか。大好きですよ、詩乃。おやすみのキスです」
流れるようにおでこにキスしてそのまま布団の中でくっついてきて……。
「はぁ!?」
中を覗くと、もう完全にシャットアウトされてた。貸したパーカーのフード被ってて何も分からない。
「おいおい……」
これ、これから毎日続くのか……?




