第三十話
「……はぁ」
まじであれなんだったんだろう……。思いっきり叩かれて、「やっぱりできないですぅ……!」って! いや、なんとなく察しはついてる。ついてるけど! あそこまでいったなら頑張ってよ! おかげでこっちは悶々としてるよ!
お前からやれよって言葉にだけは耳塞がせて貰うけどな!!
あの後すぐに病室を追い出されてバイト先へ。そこであのキス未遂──謎行動ってことにしとこう。その謎行動のことが頭から離れずミスを連発。店長にも強めに怒られてしまった。
そして現在。
帰宅中だ。時刻は夜十時過ぎ、三人の見舞いに行くために、めいいっぱい時間を遅くしてもらい、七時から十時までの三時間のシフトになっている。本当なら一日四時間以上なのだが、無理を言ってしばらく一日三時間ということにしてもらった。まじで店長感謝!
「あ、詩乃ちゃん」
手を振って俺を呼ぶ人影。シルエットしか見えないが、俺の事を詩乃ちゃんなんて呼ぶ人は一人しかいない。
「……俺は男ですし、そうやって呼ばれるのが嫌いなんです。……で、何の用ですか、会長」
「ハルくんの話を──」
「嫌です」
いつだったか、クールな美人と言ったような気もするが、それは一般生徒に対しててであって、一部例外もいる。
それが俺と陽斗、そして生徒会のメンバーだ。俺も最初は一般生徒対応だったんだけど、陽斗の家でばったり会ってしまった時にこっちの一面を見てから対応が変わった。
「もう、釣れないわね……」
プクッと頬を膨らませる会長。葵衣とか見てても思うけど、顔が整ってるとなんでも様になるよな。
「はいはい、そういう顔は陽斗の前でだけにしてください。陽斗に本気で殴られたら俺死んじゃいますから」
一回陽斗のことで相談があると言われて二人で帰ったら次の日陽斗に殺されかけたからまじでやめて欲しい。
「別に死んでもいいわ」
「え」
「だってそうしたらハルくんを独り占めできるもの」
「俺が死んだら多分陽斗は悲しみますよ」
「じゃあやめるわ」
手のひらくるっくるじゃん……。まぁ陽斗のことが好きなのは伝わって来るけど。いやでもヤンデレっぽくて怖いな……流石に周りに被害出し始めたら陽斗も止めてくれるのかね?
「というか、ここで立ちっぱなしで話してるのもなんですし、会長の家まで歩きながら行きますか」
「えぇ、そうね」
こうやって受け答えしてるだけなら普通にクールなだけなんだけどなぁ……。俺も一般生徒と同じ優しくてクールな会長と話がしたかったよ……こんなズバズバ強気でもの言ってきて、高圧的なのやだよ……。
「あ、道路側危ないんで場所変わってください」
「……貴方って女誑しって言われないかしら」
「え?」
よく聞こえなかったんだけど、何言ったんだ?
「ハルくんより先に会っていたら、あなたを好きになっていたかもって言ったのよ」
「は!?」
何言ってんだこの人!? 俺はアイツみたいな魅力なんてないぞ? って、笑ってやがるこいつ……!
「冗談に決まってるじゃない。ハルくんが世界一よ。私の作ったゲテモノ弁当を美味しそうに食べてくれて、お疲れ様、よく頑張ったねって声をかけてくれるハルくんが世界一よ!」
最初はからかってるだけだったのにすぐ惚気け出すのやめてもらっていいですかね。あとくねくねするのやめてください。口に出したら絶対報復されるから言わないけど。
後あえてゲテモノにツッコミは入れないからな!
「で、本題なのだけれど」
「最初のが本題じゃなかったんですね」
「うるさい。ハルくんの家に行った直後だったから気分が高まってたのよ」
「ういっすさーせん」
「謝る気ないわね」
「えぇまぁ」
「……はぁ、それで、本題入っていいかしら」
結構まじな目で睨まれた。いや、反省してます。すいません。
「貴方三人の中から誰を選ぶのかしら?」
「……どういうことですか?」
「それはこっちのセリフよ。貴方、気づいてないなんて言わせないわよ。あんなあからさまなアピールされて」
陽斗から聞いたのか、それとも会長の独自の情報網からか……。でも、俺だって自分が置かれてる状況は分かってる。
「私だって、一人の女よ。少しはあの子達の気持ちも分かっているつもり」
その上でアドバイスよ、と会長が続ける。
「いつまでも見て見ぬふりはやめなさい。見つめなければいけない時の覚悟はちゃんとしておくのよ」
「……分かりました。忠告感謝します」
やっぱり、ちゃんと向き合う準備はしなきゃなのか……。でも、怖いな……なんでかは分からないけど、誰かを選んで、失うのが怖い。
「さ、重い話は終わり、ちゃんとアドバイスしてあげたのだから、惚気ぐらい聞いてもらうわよ」
「さっきもう惚気聞いたんで耳塞いどきます。……あ、自転車通るんでこっち寄ってください」
夜遅くて人通りが少ないからって、電気つけないで自転車乗るとか危なすぎだろ……。ちゃんとつけてくれ。
「……貴方やっぱり死んだ方がいいわ」
「なんで!?」
俺助けたのにおかしくない!?




