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第二十七話

 浜名楓の件から二日経って、今日は三人のお見舞いに来ている。と言ってもまぁ、昨日も来たんだけどな。


 三人全員が念の為一週間ほど入院、となったため、テスト期間ということもあり毎日通って勉強を教えることになった。


 しかもしっかり三人とも個別の病室を貰っているのでいちいち移動しなければならないのがめんどくさい。


「それに、果物とか持って行くには遠いんだよ……」


 学校から遠い上に 入口から病室も遠いとかいうめんどくささ。まぁ行くけどね!


「あらあらあら! お久しぶりねぇ!」


 そんなことを考えていたら、ちょうど葵衣達の病室がある方から歩いてきた人に手を振られた。


 え、誰。凄いこっちに手、振ってるけど、誰?


 俺の知り合いに和服が似合う美女とスーツが似合う七三メガネとイケおじなんていないぞ……? でも周りに人はいないし、俺しかいないよな……。


「えっと、どちら様ですか……?」


「あぁそうでした、忘れてるんでしたねぇ……」


 ん? 忘れてるってどういう──


「“はじめまして”小野寺詩乃君。わたくしは、たちばな翡翠ひすいと申します。この度は、私の娘を助けてくださり、ありがとうございました」


「あ、あぁ……いえ……逆に、俺のせいで、緋彩達が傷を負うようなことになってしまったので、むしろ謝るのは俺の方です」


 緋彩のお母さんか……確かに面影がある。とろんと垂れた目とかそっくりだ。一見すると母親じゃなくて姉にしか見えないぐらい若いってのもあるかもしれない。


 助けてくださり、か……。でも、俺がもっと早くに気づいていれば、まずこうなることがなかった。そこが重くのしかかる。


「それは違うな。君は最善を尽くした」


 今度は七三メガネさんが口を開く。あれ、てかよく見たら弁護士バッチ……?て事は……。


「すまない。自己紹介がまだだったな。俺は小鳥遊たかなし裕之ひろゆきという。それで、君が言っていたことに関してだが、君の選択は、限りなく最善に近いものだ。怒りに任せず、一つ一つ丁寧に解決させたその行動は、褒められるべきもので、自分自身で貶めていいものでは無い」


 淡々と、事実だけを述べて、俺を賞賛する言葉を並べてくれる。でも、それは結果論で、あの時、辛い思いをしていたことに変わりはない。


「私からも、一つだけいいか」


 最後に、ずっと俺の事を見ていたイケおじが口を開いた。


「私は、娘の……葵衣の願いに、気づけなかった。懺悔してもしきれない、やりきれないなんてものじゃない。だが、その葵衣が、いつも詩乃がいてくれるので、と言って笑うんだよ……。だから、詩乃君。自分を、そんなに卑下しないでくれ。私達の言葉なんて、大人のまやかしのように思えるかもしれない。でも、これは、私達が心の底から願っていること、そして、彼女達の心からの思いだ。だから、そんな悲しそうな顔をしないで、笑って接してやってくれないか」


 そうか、この人が、葵衣の、父親。千代ケ崎グループの現会長、千代ケ崎靖二ちよがさきせいじか。


 娘を家から追い出す人とか悪い印象だったけど、俺のためにすごく選んでくれた言葉だって分かる。この人は真剣に悩んで、そのうえでひとつの手段として家から追い出しただけで、捨てたわけじゃなかった。結果的には俺が葵衣を拾っているわけだし、その考え方は間違ってないと言える。


 考え方がまとまってないけど、端的に言えばめちゃくちゃ娘思いでいい人ってこと。


「分かりました。……今度、ちゃんと葵衣が元気な時にも顔を見せに来てやってください。たまに寝言でお父さんお母さんって呼んでますから」


 これ、ノンフィクションですから、と付け足すと、葵衣達の親は声を上げて笑っていた。


「それじゃあ、失礼します。ありがとうございました」


 一礼して、葵衣達の病室へと歩き出す。



 ──────────



「よーっす叶恵、元気だったか?」


「体の方はまだだけど、心は元気だよー!」


 ギプスをした右手を見せながら、左手でベッドのはしを叩いて座るように促してくる。


 まぁ座りませんけど。ちゃんと椅子あるし。


 でもまぁ、心が元気ならよし、あれだけのことされたんだから、なにかあってもおかしくないのに、こんなケロッとされるとこっちの気が抜けるな……。


「むー、つれないなぁー……」


「はいはい、でもほんとに大丈夫か?」


 一応、念には念を入れないと、隠されたら気づきづらいからな。


「昨日もこのやり取りしたじゃん! そんなに心配ー?」


「当たり前だろ。叶恵に何かあったら、俺の方がどうにかなるって」


「はにゃ!?」


 あれ、俺なんかやばいこと言ったかな……。大切な友人に何かあったら俺にだって人の心はあるし、おかしくなるぞ?


「じ、じゃあちょっとぎゅってしてー?」


「ん!?」


 今なんと!? ぎゅってして? なんで!?


 それに、ニヤニヤして取り繕ってるけど、顔赤いぞ。頼むから恥ずかしがるぐらいならやらないでくれ……こっちまで恥ずかしくなる……!


「私、怖かったんだけどなー? ちょっとぐらい、甘えさせてくれてもいいのになー?」


「うぐっ!?」


 最初から最強の免罪符を振りかざしてきやがった!? もうそれ言われたら断れないやつじゃないか!


 ……くそぉ、パフェの時みたいなカウンターは出来ないし、だからといって逃げるのもできない……!


「……ほら、好きにくっつけ……」


「やったー! 愛してるー!」


「はいはい、そういうのはほんとに好きな人に言いなさい」


 完全敗北だ……。自分の立場使って逃げ場無くすのはせこいけど、最強だからな……今度機会があったら俺もやってみようかな……。


 あ、ダメだわ。男じゃ需要がないわ。


「ん〜!」


 すごい胸におでこぐりぐりしてくるし、なんだろこれ……兎? そう考えるとめっちゃ可愛いかもしれん……。


 抑えろ……! 抑えろ俺! 撫でたらまずい! 撫でたこと親に言われたら引けなくなる……!


「むー、その手、なにー?」


「え゛」


 なんで手の方……向いてるの? あ、いつの間にかほっぺすりすりに移行してたのね。


「ぎゅってし返してくれる訳でもないしさー?」


 ま、こっちのがちょうどいいけどねー、と言って、宙に浮いたままの手を頭に持っていく。


「あ」


 やばい……めっちゃサラサラしてて勝手に手が動く。止まらねぇ!


「ふあぁぁぁ……」


 と、溶けてる……叶恵が溶けてる! 可愛い──じゃなくて、次も回らなきゃいけないんだけど!!


 やめらんないー!

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